虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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56.慣れないなぁ……

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 次の日から、僕とロヴァウク殿下は、警備隊に潜入して働くことになった。
 警備隊として働くことで、魔物の出没状況や、街の状況、警備の状況、援軍の動きについても、伯爵に悟られずに情報を集めることができる。ついでに伯爵と子爵の関係についても尻尾を掴めたらいい。

 伯爵と王家には、ロヴァウク殿下は迂回路を使いすでに街を出たと、フィンスフォロースが連絡してくれている。

 これでうまく油断してくれればいいんだけど……あの伯爵、かなり警戒心が強そうだからなぁ。これまでも、言い訳ができるようなことしかしていない。決定的に、こんな悪事を働いた、といえるものがないと、強引に伯爵を処分なんてしたら、批判を受けるのはロヴァウク殿下の方。
 僕らのこと、相当恨んでいるみたいだし、下手に手を出して、周辺貴族たちの不安を煽るような騒ぎ方をされたら、僕らの方が潰される。
 後継者争いと貴族間の争いの激化で、王家への不満も高まっている時だからな……

 朝から変装を済ませた僕は、ロヴァウク殿下と共に、迎えにきてくれたコティトオン警備隊長に連れられて、警備隊の砦に向かうことになった。

 ここの砦は、湖のほとりにあって、そのあたりが少し丘のようになっているから、ちょっとだけ観光客が集まる場所にもなっているらしい。
 湖にかかる大きな橋には、観光客と警備隊に向けた露店が集まり、一部はカフェのようにもなっていて、朝から賑やかだった。

 コティトオン警備隊長は、昨日からずっと、ロヴァウク殿下が警備隊に入ることには反対していたが、今朝になって、ついに折れた。というより、根負けしたようだ。砦に向かいながら、街の案内をしてくれた。魔物が出た時に、民間人を避難させる経路や、魔物が出やすい位置を確認しておくためだ。

「この街は、物流の拠点としての役割もさることながら、観光の街としても人気が高い。多くの種族が集まり、魔法の研究も盛んだ。ディロヤル伯爵を優秀な魔法使いとして尊敬している魔法使いも多い。列車を使い、魔法の道具も多く集まってくる……多くは、ランギュヌ子爵の治める領地の街から……」
「……ランギュヌ子爵は、魔法はどのくらい使えるんですか?」

 僕がたずねると、隊長は難しい顔をしたまま言った。

「子爵もかなりの使い手だ。だが、魔法使いとしての才よりも、商才の方に長けていたらしい。子爵の街は、魔法の道具が集まる街として有名だ。必然的に魔法使いも集まり、その発展ぶりは、周辺の貴族たちも目を見張るほどだった。しかし……急速な発展は、良からぬ取引のおかげではないかと囁く声もある」
「……強引なやり方をする人なんですか?」
「すまない。私は子爵には会ったことがなくて、詳しく知らないんだ」
「……そうですか……」

 僕らが警備隊に潜入したことがバレれば、絶対に伯爵たちは僕らを排除しにかかるだろう。その時は、僕が殿下を守らなきゃ……

 そんなことを考えながら歩いていたら、背中のリュックから、ライイーレ殿下が顔を出した。

「レクレットー。俺はここにいていいの?」
「あ、はい……殿下の正体がバレると、多分僕らのこともバレちゃうから……あんまり、警備隊の人の前には出ないでください」
「はーい」

 軽い口調で返事をするライイーレ殿下を、コティトオン警備隊長はまじまじと見つめている。

 隊長には、すでに僕のリュックの中の、手のひらより小さな犬の正体を話している。
 最初は信じられないといった様子だった彼は、やっぱり今でもまだ信じられないみたい。
 本来は魔力をとりあげられて幽閉されているはずの王子が、こんな小さな犬になって、朝からコティトオン警備隊長のためにロティスルートが用意してくれたコーヒーに添えられていたミルクを盗み飲みしていたなんて、信じられないのも無理はない。
 今も、僕のリュックの中にまた勝手にベッド作って寝てたみたいだし……

 そして、はーいって返事をしたのに、もうリュックの中から出てきて、僕の頭の上に乗って伸びをしている。

「うーーー、よく寝たーーーー!」
「ちょっ……ライイーレ殿下! 降りてください!」
「やだー。せっかく湖の街に来たんだし。ねえ、レクレット!! 見てよ! 露店でホットドッグ売ってる!」
「買いません!! 節約するんです! だいたい、ライイーレ殿下……じゃなくて、ライーレ、僕の朝ごはんのソーセージ、全部食べましたよね!? 地図で今日行くところ確認してたら、いつのまにかお皿からなくなってましたよ!?」
「なんのことー?」

 この犬っ……
 警備隊には僕のペットって説明されることになったこと、まだ怒ってるんだ。だって本当のことを言うわけにはいかないし、最善の策だと思ったのに!

 それなのに、ライイーレ殿下は僕の頭から降りてくれない。
 周りを歩く人が不思議そうな顔で振り向いている。
 まずい。目立つわけにはいかないのに。

 すると、僕の頭の上に陣取っていたライイーレ殿下に向かって、ロヴァウク殿下が魔法の光を放つ。
 それに貫かれたライイーレ殿下が倒れてしまい、僕は焦った。

「な、何するんですか!!」
「眠らせただけだ。行くぞ」

 そう言ってロヴァウク殿下は、ライイーレ殿下をつまみ上げて連れて行ってしまう。

「ち、ちょっ……! 待ってください!! 殿下……じゃなくて、ロヴァウ! ライイーレ……ライーレを返してください!」

 呼び方、慣れないなぁ……バレないように注意しなきゃならないのに。
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