虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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55.なんで!?

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 ロヴァウク殿下はすごく楽しそうだけど、王族に魔物退治なんてさせて、何かあったら大変なことになる。
 コティトオン警備隊長は絶対反対の態度を崩さない。

「殿下!! どうかお考え直しください!」
「黙れ。俺は殿下でもロヴァウクでもない。街を救う勇者、ロヴァウだ。そう呼べ」
「たいして変わってないですし、そもそも容姿ですぐにバレます!! どうかお考え直しください! 無茶です!」
「先ほど援軍を寄越せと言ったのは貴様だ。何が不満だ?」
「殿下がいらっしゃるとは思いませんでした! この街の魔物たちはどんどん増えている上に、凶暴なものが多いのです!! 殿下が退治に向かわれるなど……護衛の方はどうされたのです!?」
「そんなものいらん」
「必要だからこそ、殿下についているのです! まさか、護衛もつけずに殿下お一人で警備隊に来られるおつもりですか!!」
「そうだな……援軍というからには、俺一人では少し物足りないか」
「殿下! 私は、そういうことを申し上げているのではございません!」

 警備隊長の言うもっともなことを聞き入れてくれるようなロヴァウク殿下じゃない。絶対にダメだと言う警備隊長を無視して、殿下は、僕の腕を取って引き寄せた。

「では、レクレットが一緒だ」
「え?」

 僕も一緒に行くの? もちろん、殿下が行くなら絶対に行くけど、隊長はすごく困っているみたいなのに。

 びっくりして見上げると、ロヴァウク殿下はめちゃくちゃ楽しそう。これは本気だ。

「レクレットは俺が認めた男だ。魔物退治の腕も、俺が保証する」
「し、しかし……」

 警備隊長がすぐに頷けないのも、無理はない。何しろ僕は、少し前まで反逆者と呼ばれていたんだから。

 けれどロヴァウク殿下は、今度は僕のリュックから勝手に小さな犬の姿のライイーレ殿下をつまみ出してしまう。

「まだ足りないと言うなら、こいつが一緒だ」
「そ、その小さな犬がですか!!?? 無茶苦茶ですっ!!」
「何が無茶だ。国一番の魔法の異才と呼ばれた犬だぞ」
「そんな犬、聞いたことありません!!!」

 警備隊長が声を張り上げても、殿下はやっぱりちっとも聞いてない。楽しそうに僕に振り向いた。

「これで千にも……いや、兆にも値する援軍の完成だ。レクレット、魔物退治に向かうぞ」
「殿下まで兆とかやめてください……バレたらどうするんですか……」
「バレるはずがないだろう。森の奥の街で賊どもを捕まえた時も、フード一つでバレなかった」
「それは殿下の顔を知らない賊たちが相手だったからです。ここの駅で警備隊に囲まれていましたよね? バレます」
「では、もう少し変装するか……」

 そう言って、ロヴァウク殿下は自らに魔法をかける。すると、彼の耳と尻尾は消え去り、目元にサングラスが現れる。

「どうだ? これで俺がロヴァウクだとは誰も気付くまい」
「……警備隊の仕事中はサングラスしてると危ないです……魔物の魔力を探す魔法を使う時に、魔力を広げる邪魔になる可能性があるので……」
「そうか……ではこうしよう」

 彼がそう言うと、彼の体は光る水に包まれ、背が急に縮んで、僕と同じくらいになる。顔も幾分、幼くなったような感じだ。

「どうだ、レクレット。俺がロヴァウクだと言うのなら言ってみろ」
「ロヴァウク殿下です。警備隊長も困っているし、やめた方が……」

 するとロヴァウク殿下は、今度はコティトオン警備隊長に振り向いた。

「コティトオン。俺はロヴァウクか?」
「殿下……どうか、お考え直しください。殿下は殿下です」

 そう言われて、次にロヴァウク殿下は駅長に振り向く。

「駅長、貴様はどう思う?」
「へっ!!?? え、えっと……あの、で、殿下を危険な目にあわせるわけにはまいりません……で、殿下です……」
「では、多数決だ。俺がロヴァウクではないと思うものは手を上げろ」

 言われて手を挙げた人は誰もいない。

 ロティスルートとフィンスフォロースは聞いているのかどうかすら怪しいし、ライイーレ殿下にいたっては、リュックから引っ張り出したビーフジャーキーに夢中で、全くの無視。僕は当然手をあげていない。

 挙手する人が誰もいなくても、ロヴァウク殿下の自信満々な様子は変わらない。

「俺の勝ちだ。レクレット」
「なんで!!??」
「俺が、俺はロヴァウクではないと言っているからだ」
「多数決はどこにいったんですか……」

 もうこの調子のロヴァウク殿下に何を言っても無駄な気がしてきた。
 どうせまた護衛もつけずに行っちゃうんだろうし、刺客を送っては知らん顔の伯爵や子爵の思い通りにさせておくのも癪だ。

「じゃあ……ロヴァウク殿下じゃないってことにして……僕が、ロヴァウク殿下のお供につきます」
「……貴様も分かってきたではないか。レクレット……いや、レク。明日から警備隊に潜入するぞ」
「はい……」

 警備隊長、頭抱えてるけど、いいのかな……? あんまり良くないような気がする。

 だけど、このままだと街には魔物が溢れ、列車はいつまで経っても止まったまま。駅で好き勝手やった負い目もある。
 街での魔物退治ならずっとやってたし……少しは役に立てるだろう。
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