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53.援軍を!
しおりを挟む「あの……一体、どこまでが本当のことなんですか?」
なんだか全部信じられなくなってたずねる僕に、チミテフィッドは真剣な顔をして答える。
「全部本当だよ! 本当にあいつ、自分はディロヤル伯爵の使いで、悪い王子から街を救ってくれる勇者を探してるって言ったんだ。それに俺がふさわしいって言って、謝礼も出すって言うから……金貨一兆枚もらえるはずだったんだ!」
「いっ……ちょうっっ……?! ……生まれたばっかりのチワワでも信じませんよ……そんなの……」
「チワワは金貨欲しがらないだろ!! それに俺は、お金が欲しかったわけじゃないよ? 魔物には困っていたから……なんとかしたかっただけなんだ!」
「だったら不確かなまま殿下を襲ったりしないでください……」
「……あ、足止めだけのつもりだった……信じてもらえないかもしれないけど……」
「……あの炎の弾には殺意を感じました」
「それは…………そ、そうでもしないと、ロヴァウク殿下には勝てないだろ……」
「……魔物の増加で困っているのは分かりますが、魔物の増加と殿下は無関係です。あの……もしかして、子爵にロヴァウク殿下を襲えって頼まれた時も似たようなことを言われたんですが?」
「子爵様の使いの人が、悪い王子の足止めをしてくれれば金貨一兆枚くれるって言うから……結局失敗……報酬もゼロだ」
「落ち込まなくても、成功してもどうせ一枚もくれません」
「でも、本当にディロヤル伯爵の使いの人がっ……!」
「あの……さっきから、伯爵の使いとか子爵の使いとか言ってますけど、それって何か、証拠とかあるんですか?」
「証拠? その人がそう言ってたんだ」
「……それ以外に、何か、こう……伯爵様に会わせてくれた、とか、紋章がついたものを持っていたとか……」
「さあ……俺は伯爵にも子爵にも会ってないし、何も見てないよ!」
「じゃあ伯爵の使いとか子爵の使いとか、その人が勝手に言ってるだけ!!??」
「うん!!」
目が純粋にキラキラしてる。なんでそんなに人を信じられるんだ。
……僕だって、昔はちょっとくらい人を信じられたのに。なんで僕がこんなに胸が痛くなってるんだ……
なんだか落ち込んでしまった僕の肩を、ロヴァウク殿下がぽん、と叩いた。
「落ち着け。レクレット」
「殿下……」
「この男の一番困るところは、こういうところだ。この男の話が荒唐無稽なせいで、王城で子爵が、そんな奴は知らない、使いなど送っていないと言った時、貴族たちも納得してしまった。通信用の魔法の道具は子爵でなくても用意できるし、この男が持っていた短剣だけでは、証拠にならない」
「そうですね……じゃあ、この話は全部嘘…………」
「それが、そうでもない。実際に、子爵の城の魔法使いがあの森をうろついていたようだ。しかし、証拠があるわけではない」
殿下が軽い口調で肩をすくめて言うと、ソファのフィンスフォロースが振り向いて、持っていた書類を殿下に渡した。
「それにしてもー……チミテフィッドは一度、王子を狙っているんだ。それなのに脱獄を許しちゃうなんて……よほど殿下の邪魔をしたい貴族がいるみたいだねー」
「それって……もしかして、バーニジッズ殿下を国王にしたい人たち、ですか?」
僕が聞いても、フィンスフォロースは「さあ?」って言うだけ。はっきりと口に出すことはできないらしい。
ロヴァウク殿下も、頬杖をついて言う。
「それどころか、貴族たちは俺が魔物の増加に関わったのではないかと騒ぎ出す始末だ」
「そ、そんなっ……その誤解は解けたんですか!?」
「俺が否定したら、全員すぐに黙った」
「当然です……殿下を陥れるために言っているとかしか思えません」
「だろうな」
殿下は笑っているけど、笑ってる場合じゃない。
その時コンコン、と部屋のドアをノックする音がした。続いて、駅長の声がする。
「殿下……あの……この街の警備隊長、コティトオンがお会いしたいと申しております。い、いかが致しましょう……」
「通せ」
殿下が答えると、ドアを開けて、ひどく顔色の悪い男が入ってくる。駅舎で僕がロヴァウク殿下の前に立ち塞がった時はいなかった人だ。この街の警備隊の紋章が入ったマントを羽織っていて、魔物退治のあとなのか、黒い短髪は乱れ、少し濡れている。腰には剣を下げていた。
彼は、殿下の前で丁寧に頭を下げる。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ロヴァウク殿下」
「そんなものはどうでもいい。本題に入れ。魔物のことか?」
「…………はい……し、失礼を承知でお願いいたしますっ……! ど、どうかっ……え、援軍をっ……援軍をお願いいたします!!」
「……魔物は、増えているのか?」
「はい……もう私たちだけでは対処できません! ディロヤル伯爵に援軍をお願いしても、今調整している、すぐに行くから待てと、のらりくらりと引き伸ばされてばかりで、未だに兵の一人も来ていません! 伯爵の魔法使い部隊が討伐に向かうと言われているのですが、そ、そんなもの、いつ来るのかも分からない状況です! このままでは列車は動かず、街が魔物に飲まれるのも時間の問題です! 魔物はどんどん増えていて、歩いて街を出た民間人が襲われる事件まで起こっているのです! どうか……ぶ、無礼を承知でお願いいたします! こ、国王様の軍から援軍をっ……! 援軍をお願いいたします!!」
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