虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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49.貴様が逆上するところ

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 ロヴァウク殿下が尻尾を振ると、僕を縛り上げていた水も、溶けるようにして消えていく。

「……それなら……一緒に来るか?」
「えっ……!? えっと……でもっ……その……」

 やっぱりぐずぐずしてしまう僕。本当に行くって言っていいのか……そんな心配ばっかり。

 まだ先に進めない僕に、殿下が飛びついてきた。
 反射的に構えようとしてしまったけれど、すぐに驚いて力が抜けてしまう。
 僕は、ロヴァウク殿下に抱きしめられていた。

「でっ……殿下っ…………!?」
「貴様……誰を待たせている……?」
「え?」
「……国王を待たせているのだ。さっさと俺と来ると言え」
「…………殿下……」
「来ないのなら死罪だ」
「…………」

 なんだそれ……脅しかよ。

 ……もしかして、僕が「行く」って言う口実をくれた?

 またいつもの考えすぎ? だけど、もうこれ以上我慢できそうになかった。

 耐えきれずに、うなずいてしまいそう。

 けれど、こんな時でも、鬱陶しい邪魔が入る。

 僕は、ロヴァウク殿下に抱きついて、僕と彼の体に魔法をかけて、その場を飛び退いた。

 間一髪だった。

 僕らがいたところに、いくつもの炎の弾が撃ち込まれる。
 気づいて飛び退いていなかったら、きっと今頃、僕も殿下も弾丸に打ち抜かれて死んでいた。

 まだ心臓がドキドキしている。激しく脈打つそれのせいで、気持ちが悪くなってしまいそうだった。

 僕も、魔物との戦いで、何度も死にそうになったことがある。
 だけど、今の恐怖は、それとは違った。もしかしたら、あと少し遅かったら、ロヴァウク殿下が死んでいたかもしれない。そういう恐怖だ。

「ご無事ですかっっ!!?? 殿下!!」

 飛びつくようにして、たずねる。
 ロヴァウク殿下も、攻撃には気づいていたのか、すでに自分と僕に、防御の魔法をかけていた。

 着弾した炎は、通りの舗装に不気味な色の跡を残している。確実に殺せるように、毒を仕込んだ魔法の炎だ。

 あれに撃たれていたら、殿下がいなくなっていたかもしれない。そう思うと、ひどく恐ろしくて、心がざわつく。殿下は無事だったのに、まだ、ひどく不安だ。

 ロヴァウク殿下は自信満々な人だし、ろくに護衛もつけないで、こんな裏通りを平気で歩く。だけど、彼は王子で、貴族同士の利権争いの真ん中にいる人なんだ。

 頭上から、声がする。

「……嘘だろ……な、なんで……なんで今のに気づくんだよっっ!!!」

 掠れた声だった。よほど驚いたんだろう。その声にも、僕は覚えがあった。
 見上げれば、あの森で会ったチミテフィッドが、近くの民家の屋根から、僕らを見下ろしている。

 僕に気づかれたその男は、僕らの前に降りてきた。

「……まさか、気づくなんて……どうやったの? 今の……」
「……あなたとは、警戒心の強さが違うんです。森で会った嘘つきな快楽殺人鬼さん……」
「俺、誰も殺してないよ!?」

 慌ててチミテフィッドは否定しているけど、違ったか? 僕に嘘ばかりついて、殿下を殺そうとしていたくせに。

 ロヴァウク殿下も、じっと彼を睨んでいる。

「貴様は……森で俺に向かってきた弱い男……」
「二人して俺をなんだと思ってたんだよ!! 俺は弱い男じゃないよ! 見てみろよ!! 王城からも逃げ出してきたんだから!」
「……そのようだな。どうせ、城の誰かが手引きしたのだろう? 子爵はお友達が多くて何よりだ」
「…………」

 すぐに顔を背けるチミテフィッド。子爵側の貴族が手を回したのか。

 チミテフィッドは、既に剣を握っている。なんだか様子がおかしい。以前会った時には感じなかった魔力を感じる。

 僕も、長く警備隊にいて、犯罪者を捕縛することもあった。おそらく、チミテフィッドは自分の魔力を強化をしている。こういう魔力を持つ奴は危険。

 だけど、僕だって怒っているんだ。

 この男を生かしておいたら、きっとまたロヴァウク殿下を狙う。

 そう思った時に湧いてきたものは、恐ろしい勢いで、僕の魔力を突き動かす。舗装された通りの下から噴き出した炎は、一瞬で巨大な剣になり、僕はそれを振りかぶって、相手に斬りかかった。

 いつもは魔物を斬る剣だが、ギリギリまで強化すれば、人の体を叩き切ることも可能。

 僕の剣は、彼の剣を粉々に砕いて、通りと共に相手の体を押し潰した。
 彼の体がめり込んだ通りは大きくひび割れて、舗装が砕け散る。

 チミテフィッドの体が強化されて、守られていなければ、本当に殺していた。

 破壊された道に倒れながらも、チミテフィッドは生きていて、息をしている。
 彼の体を守ったのは、彼自身の魔法じゃない。そんな暇、与えなかったはず。
 彼の体には、ロヴァウク殿下の水の拘束が巻きついていた。

 振り向くと、ロヴァウク殿下がチミテフィッドに手を向けていて、そのてのひらに、微かに魔法の残り火が見えた。殿下が、拘束の魔法と共に使った防御の魔法が、チミテフィッドが死なないように守ったんだ。

「俺を狙った奴だ。貴様には渡せない」

 彼はそう、負けず嫌いみたいなことを言うけれど、お陰でチミテフィッドは生きていて、僕は殺人犯にならずに済んだ。

 こんな時に冷静だったのは、命を狙われたロヴァウク殿下の方。そんな冷静さすら、ずるいと感じた。
 彼が死んでしまうと思って、僕は恐ろしくて仕方なかったのに。彼は落ち着いていて、僕を守ってくれた。

 振り向いた僕に、ロヴァウク殿下はいつもの自信に満ちた顔で微笑む。

「貴様が逆上するところは、初めて見たな」
「…………」

 普段、殿下の方が無茶苦茶をするのに、もう、何も言い返せない。
 彼がいなくなると思ったら、自分に出せる最大の魔力で剣を握っていた。

 僕は、この人を失いたくない。
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