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46.何度も俺に背を向けて

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「あ、あの……殿下……」

 ロヴァウク殿下と話す駅長は、どんどん顔色が悪くなっていく。

「で、殿下……あ、あの……」
「貴様……線路の案内はできるな?」
「え……? は、はい……」
「……」
「あ、あのっ……殿下! ……に、荷物を運ぶことを許可したのは私で……ほ、他の……職員は……な、何も、し、知らなかったのです……ほ、本当です……っ!! 彼らは何も知らず……は、伯爵様とお話ししたのも、私だけです……」

 震えながら駅長が訴えても、ロヴァウク殿下は聞いているのかどうかも分からないような様子で、駅長に背を向け、出て行こうとする。

 そんな風だから、駅長は勘違いしたらしい。彼は殿下に駆け寄っていく。

「殿下!!」

 駅長に呼び止められても、ロヴァウク殿下は聞いてない。マントを掴まれて、やっと気づいたようだ。

「何か用か?」
「な、何かって……ですからっ……処分するなら私をっ……! どうかっ……お願いです!! 殿下!!」
「処分? なんの話だ?」
「な、なんの話って……ですから処分の話です!」
「されたいのならしてやるが、なんの処分だ?」
「なんのって……き、聞いておられなかったのですか!?」
「ああ。まったく」
「は!?」

 目を丸くする駅長。処分するなら自分だけをって、彼は恐怖を押し殺して決意して言ったんだろう。それなのに、まるで聞いてなかった、なんて言われたら、驚くのも無理はない。

「き、聞いていなかったって……そんなっ……!!」
「俺は、必要のないことは聞かん。俺に拷問されたいのは分かるが、それより今は、線路を案内する準備を始めろ」
「ご、拷問はやめてください……それに、せ、線路には、魔物が……」
「魔物など、俺が粉微塵にしてやると言っただろう。その間、貴様は俺の手足となって働け」
「殿下……」
「明日から魔物退治には俺が出向く。貴様には、その案内を命じる。駅と線路のことに一番詳しいのは貴様だな?」
「は、はい……」

 どうやら、話がつきそうだ。

 殿下は、駅長にこれからの指示を出している。その間にフィンスフォロースが「城に連絡してきます」と言って席を立ち、ロティスルートが「バーニジッズ殿下との会議はどうするの?」と言い出した。

 王家に連絡。それを聞いて、僕は、ロティスルートに駆け寄った。

「あの……」
「レクレットー。大変だっただろー? 殿下、本気で襲うから」
「う、うん……あの、これ……」

 僕は彼に、魔力を込めた小さな薬の瓶を渡した。

「線路と駅の修理の役に立てて……あと……僕が魔法で直したものも、何か不具合があれば、すぐにまた修復に来るから……そう殿下と駅長さんに伝えてほしいんだ」
「レクレットは壊してないだろ? 殿下はめちゃくちゃ破壊してたけど。それに、それは自分で言った方がよくない?」
「この後は……僕は、いない方がいいだろ?」
「え? なんで?」
「と、とにかく、頼むよ! もしも足りないようだったら言ってくれ!! じゃあ!」

 僕は、彼らに背を向け、逃げるようにその場を立ち去った。






 駅の外に出ると、すでに風が冷たい夜になっていた。昼間あれだけ人でごった返していた駅は、閑散としている。けれど、広い大通りはいつもどおり、夜でも騒がしいようだ。街灯が煌々と灯り、帰宅する人と夜を楽しむ人で溢れている。酒場からは賑やかな声がして、酔っ払いが通りの端でうずくまっていた。

 僕は、人の多い通りは避けて横道に入り、裏通りを一人でトボトボ歩いた。

 賑やかな街に見えたけど、一歩裏に入れば、そこは静かな通りだ。ポツンと立つ街灯が、今にも消えそうな明かりで道を照らしていた。

 リュックの中から、ライイーレ殿下が顔を出す。

「……レクレット……なんで途中で出てきちゃったの?」
「……途中じゃありません。僕の話は終わりました。僕らの戦いで壊れたものは修復したし、何か不具合があれば、すぐに……」
「そうじゃなくて、これからみんな、魔物退治に行くんだよ? レクレットは行かないの?」
「もちろん、僕も向かいます。早く魔物を倒したら、その分早く列車も動くし……」
「ロヴァウクたちとは行かないの?」
「……ロヴァウク殿下は、次期国王とも言われる方です。そんな人と僕が一緒にいるわけにはいかないんです。駅長さんを連れ去ったのも、駅を混乱させたのも、僕だけ……僕は、ロヴァウク殿下の敵です。そんな人と一緒に……魔物退治なんて……行けるわけないじゃないですか……」

 最悪だった状況は、少しずつ変わりつつある。僕は少しずつ、反逆者ではなくなりつつあるんだ。
 けれど、すぐに何もかもが元に戻るわけじゃない。

 僕といたら、殿下まで……

 それを考えたら、一緒になんて、行けるはずがない。

 だけど……殿下の力になりたかったな……

 ぼーっと、暗い道を歩いていると、背後から声がした。

「貴様……何度俺に背を向ける気だ?」
「えっ……!?」

 びっくりした。まさか、追ってくるなんて。

 振り向くと、そこにはロヴァウク殿下が立っていた。

「殿下……」

 静かな通りに、彼は腕を組んで僕を睨みつけながら立っている。
 ここは大通りからは離れていて、こんなところを王族が一人で歩いていたら危ないのに。

「こんなところで、何をなさっているんですか? また護衛もつけずに……危険です。また人買いに狙われても知りませんよ?」
「俺をどうこうできるような賊がいると思うのか?」
「でも……」
「貴様はこういうところに逃げ込んで隠れて歩くのが好きだろう? だが、俺を出し抜けるなどと思うな。貴様の行動など、全てお見通しだ」
「す、好きでやっているわけではありません!! 僕に何の用ですか!??」
「何の用? 今更、何を言っている?」
「え……」

 ロヴァウク殿下は、ゆっくりと、僕に近づいてくる。なんだかその目を怖いと感じてしまった。

 ど、どうしたんだろう……

「あの……殿下?」
「何度も俺に背を向けて、ただで済むと思っているのか?」
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