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43.嘘です
しおりを挟む殿下の水は、次々に足元から噴き出してくる。
駅長の手を握った僕は、彼を連れて、列車の中を走った。
「伯爵に何を言われたのか知りませんが、あなたにとっても、こんなこと不本意なはずです。言うことを聞けば助けてくれるみたいに言われたなら、絶対嘘だから信じない方がいいですよ? 他人が言うことなんて、全部嘘です」
「そ、それだと、あなたが言っていることも嘘だと言うことになります!」
「あ、そうですね」
説得って苦手だ。だけど、このままじゃ僕らも困る。
駅長と話しながら列車の中を走って、追ってくる殿下の水を、魔法の風で吹き散らす。けれど、何度吹き散らしても、殿下の水は僕らのすぐ背後から湧いてきては、僕らを捕まえようと向かってくる。さすが殿下だ。本気で殺す気じゃないだろうな。
王子殿下の魔法が、常に後ろから迫ってくるものだから、駅長はすでに真っ青だ。
「わ、私たちはっ……!! うわあっ!!」
駅長めがけて、水の拘束が伸びてくる。
僕はそれを風で吹き飛ばした。
すぐ目の前まで、王子の魔法の水が飛んできて、駅長はずっと悲鳴をあげている。戦闘は苦手らしい。
今度は正面から飛んでくる水を避けて、僕は駅長に飛びついた。
「うわっ……!」
僕に飛びつかれたせいで、バランスを崩して倒れる駅長。その上に僕も倒れた。
「……すみません……」
「は、早くどいてください! うわあああっ!!」
列車の床から、魔法の水が飛び出してくる。おかげで、倒れたままの僕も駅長もびしょ濡れ。
魔力の水でも冷たい……後で殿下に「冷たかった」って文句言ってやる!
「大丈夫ですよ。そんなに怯えないでください」
「大丈夫!? そんなはずないじゃないですか!! 早くどいてください! 逃げないとっ……!」
「すみません。僕も怖くてなかなか動けなくて」
「さっき大丈夫って言いましたよね!? あなたの言うことの方が嘘ばかりだ!」
泣き出しそうな彼の上から、やっと起き上がる僕。そしてまた、彼の手を取って走り出す。
「……そろそろ話してくれませんか?」
「何をですか!! こんな時に呑気に喋ってる場合じゃっ……わああ!!」
怯える彼めがけて飛んでくる水を、魔法の風で貫く。
殿下……狙いが正確すぎます! そろそろ僕も怖いんですが!??
「大丈夫ですか?」
「な、何でそんな事が言えるんですか!!!! 大丈夫なはずがない……加虐趣味の極悪王子って、本当だったんだ……」
「そういう言い方やめてください」
僕は駅長の手を離して、彼に振り向いた。
「伯爵に何を言われたんですか?」
「は!? な、何をっ……私は何もっ……!!」
「命を握られているか、そうでなければ、何か捨てられないものを握られているか、どちらかでしょうが、伯爵に加担しても無駄です。何もいい事ないし、利用されるだけ利用されて、切り捨てられるだけですよ」
「だ、だから、私は何も知らないと言っているじゃないですか!」
「そんなはずありません。この駅は、流通の要です。伯爵は、良からぬものを取引している子爵と、ずいぶん仲がいいみたいですし……あなたも、見た事があるのでは? こんな物とか」
僕は、さっき駅長がずぶ濡れになった隙に、彼の着ているものの中から、魔法で引っ張り出したものを、自分のポケットから取り出してみせた。森の中で会ったチミテフィッドも持っていた、宝石のような通信用の魔法の道具だ。
駅長は、それを見て顔色を変える。
「な、なんでっ……! い、いつの間にっ……!」
「さっきあなたが、殿下の水でびしょ濡れになった時です。殿下の強い魔力に反応して微かに光ったので、すぐに見つけられました」
「返してください!」
そう言って彼は飛びかかってくるけど、返せるものなら取り上げたりしない。
彼が伸ばした手をサッと避けて、もう一度彼と対峙する。
「これは返せません。そんな顔しなくても、すでに動かないように魔法をかけて、ついでに異常はないように装う魔法もかけています。森の中でも、子爵の手駒の人に会ったので、対処するのは二度目です。手抜かりはありませんので、ご安心ください」
「な、何を言っているんですか! ぶ、無礼じゃないですか!」
「無礼なのは、自分のしていることを棚に上げて、他人のことをどうこう言うあなたの方です。殿下は、みだりに人を傷つけたりしませんよ」
「殿下はさっきから私たちを追って攻撃してきているじゃないですか!」
「殿下が追っているのは僕であって、あなたではありません」
「だ、だからって……」
「南の港でも、これと似たようなものを何度か没収してるんです。子爵様は、僕らがうるさいから、船よりこっちを使うことにしてたんじゃないんですか?」
「し、知りませんっっ!! わ、私は何もっ……!」
「では、伯爵に言われて見逃していたんですか?」
「……」
「僕らも没収しましたが、結局子爵に取り上げられてしまいました。きっと、あのままだったら、いずれ全ての責任を押し付けられて切り捨てられていたんだと思います。僕を見てください。逃げ遅れたおかげで、貴族たちに反逆者の淫魔にされちゃいました。あなたたちだって、こんな風に使われるの、嫌でしょう?」
「…………」
駅長は、黙って俯いてしまう。けれど、もう逃げようとはしなかった。
最後に僕は、殿下が長剣に変えて投げたせいで、僕のおでこにぶつかった宝石を取りだす。
「あ、あと……僕らの話してる事、ずっと殿下に聞かれているので、そろそろとぼけるのやめないと、さっきの倍くらいの攻撃が来ます……僕も怖いので、早く話しましょう」
「は!?」
「だって、そうでもなければ、殿下の魔法の水が、あれだけギリギリのところをかすめていくわけないじゃないですか。さっきから攻撃が止んでるのも、僕が逐一、こっちの位置と状況を伝えていたからです」
「そんな……」
「殿下が僕に向かって投げて、わざわざおでこにぶつけたこれ、森で、子爵の手駒の人から取り上げた通信用の魔法の道具に似てるんです。多分、殿下が改良したか、似せて作ったものでしょう」
「な、なんだとっ……!?」
「ちなみに、僕が剣に隠して投げたのは、僕があれに似せて作った物です。や、やる事が似ていてちょっと嬉しい……じゃなくて!! ぼ、僕が作ったものの方が、可愛くできていたと思いませんか?」
「…………そうだな……」
ほとんど相槌みたいだったけど、駅長がそう言ってくれて、僕は少し嬉しかった。
けれど、その意見には反対の人もいるらしい。
突然、列車の天井に穴が空いて、ロヴァウク殿下が隕石みたいに落ちてくる。
「何を馬鹿なことを……俺が作ったものの方が、よくできているだろう!」
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