虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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42.今だけ

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 吹き荒れた風は、殿下の周りにいた魔法使いたちを吹き飛ばしそうな勢いでロヴァウク殿下に向かっていく。
 けれど風は、殿下の前で春の微風のような爽やかなものになって消えてしまう。

 さすがだ……

 ロヴァウク殿下の方が、僕よりも魔力も魔法の腕も上。

 そんなこと、僕だって分かっている。

 風くらいでロヴァウク殿下に勝てるなんて考えていない。この風は、僕の魔力の剣を殿下の背後まで飛ばすための隠れ蓑だ。
 激しい風で、少しの間、殿下の注意を引ければ、それで十分。
 すでに僕の剣は、殿下の背後に回っている。

「……っ!!」

 背後から飛んでくる剣に気づいて、殿下が振り向こうとしたけど、剣は、彼の腰から腹までを貫いた。

 周囲にどよめきと悲鳴が起こる。第五王子の体を、剣が貫通したのだから。

 けれど剣はあくまで貫通しただけ。殿下は無傷。当然だ。
 僕の剣は、魔物を切るために作るもの。魔物ではない殿下に向かって飛ばしても、その体を傷つけることはない。
 剣はすぐに消えて、小さな犬の形の宝石のようなものが、殿下のお腹に飛び降りた。

 ふざけた魔法を使い、第五王子に無礼を働いた僕に向かって、一斉に魔法が飛んでくる。屋上にいた駅員たちが、警備隊を呼んできたらしい。さらには駅員の数人は魔法使いだったよう。

 その場に集まった数十人が一斉に放った拘束の魔法の鎖が、僕に向かってくる。

 けれど、そこにロヴァウク殿下の怒声が響き渡った。

「貴様らっっ!! 下がっていろっっ!!」

 その一声だけで、殿下の周りにいた人たちはすくみ上がってしまったみたい。

 周囲から飛んできた魔法の鎖を、僕は自分の体を強化して、握りしめた。
 握った鎖に自分の魔力を注ぐ。
 僕の魔法を受けて、鎖は一斉に破裂。辺りに霧を撒き散らす。

 霧に紛れて屋上まで急降下した僕は、そこにいた駅長の体を捕まえて、駅舎の裏まで高速で飛んだ。

 けれど、さすがはロヴァウク殿下。何度も同じ手は通用しないらしい。霧の中を貫いて、殿下の長剣が飛んでくる。
 突然の攻撃に、僕は振り向いて構えた。それなのに、それは僕の目の前で、小さな宝石に姿を変えて、こんっと、僕のおでこにぶつかった。

 いった!! なんだよこれ!! さっきの仕返し!? 嫌がらせか!??

 何か言ってやりたいけど、今だけ我慢。僕は駅長を連れて、駅舎の裏まで降りていった。

 そこで、列車が止まったままの車庫を見つけた僕は、停車中の列車の扉を魔法で開いて、中に飛びこんだ。

 誰もいない暗い列車の中で、僕は連れてきた駅長の手を離して振り向いた。

「手荒な真似をしてすみません……聞きたいことがあるんです」
「き、ききき、聞きたいことってなんですか!??」

 その人は、もう泣き出してしまいそうだ。いきなり逆賊の僕に連れ去られたんだ。無理もない。とは言え、僕は彼を傷つけるつもりなんてない。僕も殿下も、早く列車に乗りたいだけだ。

 だけど、なかなかそれは相手には伝わらないみたい。

「き、ききき聞きたいことってなんですか!? なんでも答えるので逃してください!!」
「では、なんで列車を停めた魔物の情報、殿下に全く話せないのか教えてください」
「それは……その、知らないからです! 知らないことは話せません……ほ、本当に……」
「警備隊が退治に向かってるんですよね? それなのに、全く知らないんですか?」
「そ、それはそのっ……こ、今回の魔物は、伯爵様の魔法使い部隊が発見しているんです。彼らが線路の魔物を退治しているので、そ、それが終わるまでは……その……列車を動かせなくて……」
「だからって、全くなんの情報もくれないなんて、おかしくないですか? しかも、伯爵が何も教えてくれないことを殿下に教えることも禁止しているなんて」
「そ、それは……その……」

 俯くばかりの彼の手を取って、僕は走り出した。殿下の操る水の拘束が、床から噴き出してきたからだ。
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