41 / 117
41.尻尾巻いて
しおりを挟む突然空を飛んでロヴァウク殿下たちの前に飛び出した僕を見上げ、その場にいた誰もが驚いていた。
駅員たちが、僕を指差して口々に叫ぶ。
「な、なんだ!! お前は!!」
「剣を下ろせ!! 第五王子、ロヴァウク殿下の前だぞ!」
「き、貴様っ……! 反逆者のレクレットか!!」
「え!? あ、あれ…………冤罪だったんじゃ…………」
「降りてこい!」
……一人だけ「冤罪」って言ってくれた……あの新聞みたいに、僕は反逆者じゃないってこと、ちょっとずつ広まりつつあるんだ。
どうしよう。顔が緩んじゃいそうだ。
いけない。今の僕は、ロヴァウク殿下の前に立ち塞がって殿下の邪魔をする、殿下の好敵手なんだから。
自分で言うと……ちょっと照れる……
と、とにかく!
僕が、討伐隊に参加しようとしているロヴァウク殿下の敵ってことは、みんなに知れ渡りつつあるんだ。僕はまた、王家の敵って囁かれてる。それなら今度は、それを利用してやる!
殿下の邪魔する僕が、殿下の前に立ち塞がったとしても、誰も不思議に思わない。
ここで殿下の邪魔をするふりして駅長を連れ去り、人気のないところで伯爵のこと聞き出して、殿下に伝えてやる!!
驚いて僕を見上げる人たちの顔を見下ろすと、ちょっと気持ちいいような、少し怖いような、そんな気分だった。
眼下の駅のホームでも、溢れかえった人たちが、空を飛んで駅舎の屋上の王子に剣を向ける僕の姿に気づき始めたらしい。ざわついては、僕を指差して「レクレットだ」と叫んでいる。
僕はもう、反逆者でも淫魔でもない。
今の僕は、ロヴァウク殿下の好敵手だ。
「ぼ、僕と……その…………勝負してください!!」
思いっきり、宣言する。
だけど、殿下の周りにはいっぱい人がいて、眼下でもみんなが僕を見上げていて、ますます恥ずかしいっ……!!
しかも、いつも僕に「好敵手だ!」なんて言っていたはずのロヴァウク殿下は、僕を見上げているだけ。
なんか言えよ! なんでもいいから!! いつもの勢い、どうしたんだよ!
こんなこと一人でやってたら、僕は勝手に王子の好敵手を名乗って自信満々で王族の前に立ち塞がってる痛い奴じゃん!!
もう真っ赤になって汗までかいている僕を、ロヴァウク殿下は見上げて、やっと口を開いた。
「……貴様……その頭はどうした?」
「へっ……!?」
反射的に、自分の頭を押さえてしまう。まだ自分でも慣れない髪型を指摘されたみたいで、ますます恥ずかしい。
「ち、ちがっ……! 違います! これはっ……その……じゃ、邪魔だったから切っただけで……べ、別に深い意味があったわけじゃなくて……!!」
「似合うではないか」
「ふぇっ……!??」
「貴様によく似合っている。邪魔だったから切ったと言ったが、俺はいいと思うぞ」
「は!!?? な、何言って…………そ、そんな…………あ、ありがとう……ございます…………」
まさか、いきなりそんなことを言われるとは思っていなかった。なんだかさっきより恥ずかしい……
…………あれ? 僕、何しに出てきたんだっけ?
そうだ……こ、こんなことしてる場合じゃない!!
僕は、改めて剣をロヴァウク殿下に向けた。
「そ、そんなこと、どうでもいいんです!! べ、別に嬉しくないし!! そ、そんなことよりっ……!! さあ! ロヴァウク殿下! 勝負するんですか!? それとも……その大きな尻尾を巻いて逃げるんですか!?」
とにかく、かかってきてもらわないと、僕が駅長を連れ去る隙ができないじゃないか!!
すると、殿下の周りにいた人たちが、僕を指差して声を上げる。
「なんだ貴様はっ……!! 第五王子殿下に対してっ……! 勝負などと……! 無礼だろう」
「黙れ」
一言だけが、あたりに響き渡るかのようだった。それだけで全員を黙らせたロヴァウク殿下が、僕を見上げている。
その視線で、僕は殿下を本気にさせてしまったと、すぐに分かった。
張り詰めた空気が広がる。ひどく冷たいのに、少し動いただけで焼けるようで、宣戦布告した僕の方が、今すぐに負けてしまいそうだった。
「あれは……俺が認めた男だ。俺の……好敵手だ!」
そう言った殿下の手に、長剣が現れる。まさか、魔力の剣?! 僕と同じ?
魔法でくると思っていたのに、意外だった。殿下の魔法を散らすための魔法なら用意していたのに、剛腕で振り下ろされる剣を弾く準備はしていない。
ロヴァウク殿下は空を飛んで、僕に向かってくる。
その長剣を、僕は自分の剣で受け止めた。
刃がぶつかり、衝撃波が飛び散る。
……力強すぎだろ!! どんな腕してるの!!??
手が痺れて、すぐにでも剣を落としてしまいそう。
だけど負けるわけにはいかない。ここで剣を落として負ければ、こんな恥ずかしい思いまでして出てきた理由がなくなるじゃないか!!
僕は、魔法で体を強化して、殿下の剣を振り払った。
さらに振りかぶるけど、相手の顔を見て躊躇う。
相手は王族。傷つけるわけにはいかない。
躊躇した僕に、殿下は切り掛かってくる。慌ててその剣を受ける。
弾いてやりたい。
それでもまだ、思いっきり剣を振れない。
そんな僕を見て、切り結ぶ刀身の向こう側の殿下は、いつもみたいに笑った。
「どうした?」
「……」
「躊躇っていては、俺には勝てないぞ。それとも、無様に負けて、俺に傅く道を選ぶか?」
「…………」
「貴様は俺が認めた男だろう。王に認められたのだ。全力でやれ」
「……いいんですか? ……まだ王じゃないのに、そんなこと言って」
「なんだと……」
「本当に、本気でやりますよ……?」
僕は、魔法の風を操り、暴風を起こした。
94
お気に入りに追加
950
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ツンデレ神官は一途な勇者に溺愛される
抹茶
BL
【追記】センシティブな表現を含む話にはタイトル横に※マークを付けました。【一途な勇者×ツンデレ神官】勇者として世界を救う旅をするルカは、神官のマイロを助けたせいで悪魔から死の呪いを受ける。神官と性行為をすれば死のリミットを先送りにできると知り、呪いを解く旅にマイロも同行することに。うぶなルカは一目惚れしたマイロに(重い)好意を寄せるが、何度か肌を合わせてもマイロはデレる気配がなく……
第9回BL小説大賞にエントリーしました!
よろしくお願いします!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる