虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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28.あいつを相手にするならこれくらい用意しないと!

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 僕は、木々の影から殿下の様子をうかがった。

 何度見てもロヴァウク殿下は、優雅に紅茶を飲んでいる。殿下は紅茶にはミルクをたっぷり入れるのが好きらしい。

 だけど、なんで森の真ん中でお茶を飲んでいるんだろう?
 あのテーブルも椅子も、料理人が食事を作っている調理台も、全部殿下が置いたものだよな? なんでこんなところに、わざわざそんなもの持ってきて食事をしているんだ?

 お腹が空いたから食事をしているだけなのかもしれないが、湖の街まであと少し。魔物が溢れる森で、わざわざテーブルだの調理台だのを持ち込んでまで、ここで食事を取らなくてもいいはずだ。

 それに、殿下が目を通しているあの書類……おそらく、王城での会議で使われるものだ。機密情報を扱う時に使う魔法がかかっている。そんなものを森で読むのも、本当なら避けたいはずなのに。

 何が書いてあるんだろう……もしかして、僕が反逆者じゃない、なんて宣言したせいで、王家から責められているんじゃないよな!?

 殿下は書類をしばらく読んで、今度はそれに何か書き込んでいる。

 僕と一緒に来た、殿下に通せん坊をされたと主張する男は、殿下の手元を指差していった。

「あれ……君のこと書いてるんだよ?」
「え!??」
「さっき、俺はここを通ろうとして、あの王子と話をしたんだ。そしたら、書類に君の名前が書いてあるのが見えたんだよ。そしたらあいつ怒り出して……ここは通せないって言い出したんだ!」
「……」

 信じはしない。だけど、僕のことが書いてあるなら気になる。何を書いているんだろう。
 殿下がなんであんなことをしたのか、僕には分からないが、殿下が王位継承に不利になるのは嫌だ。

 殿下の方をじっと見ていると、隣にいた男が突然、短剣を取り出した。

「じゃあ……俺が最初にあの無法者に飛びかかるから、君は、あの道を塞いでいる竜の方を頼む!」
「え? ちょっと待ってください。無法者って、ロヴァウク殿下のことですか?」
「殿下じゃない! あれは、ロヴァウク殿下を騙る男だ!!」
「殿下です」
「二人で、この道を抜けよう! あの無法者を倒して!!」

 何を言っているんだ。

 僕は、その男の腕を掴んで、魔法をかけた。

「待ってください」

 僕の魔法にかかった男は、すぐにその場に倒れる。これは、体の自由を奪う魔法。殺さずに彼の体だけを見えない鎖で縛る魔法だ。警備隊で、無法者を取り締まる時によく使っていた。

 倒れた男は、僕を怒りのこもった目で睨みつけてきた。

「な、何するんだよ!! 俺と一緒に、あいつを倒すんじゃなかったのか!!??」
「……そんなこと言ってません」

 男の持っていた短剣を拾い上げる。やっぱり、服の中に隠していた。
 おそらく、これが彼の持っている武器の中で、一番強い魔法がかかっているものだ。何しろ、あのロヴァウク殿下に向かって行く時に使う武器なんだから。

「あなたの持っていたこの短剣、広範囲に毒を撒き散らす魔法がかかっていますね?」
「わ、分かるのかっ……!?」
「分かります……これでも警備隊でしたから……こういうものを街に持ち込む人は、十中八九、人を殺す目的を持っています。僕を竜に向かわせて、あそこにいる殿下と、殿下の周りにいる魔法使いたちが僕の方に気を取られている間に、その短剣の毒の魔法で、一網打尽にする気だったんですね?」
「は!? ち、ちがっ……!! 違う違う! ち、違うよー!! 俺が、そんなことするはずないじゃん!!」
「だったら、なんでこんなものを持っていたんですか……?」
「だ、だってここには魔物が出るしー、あ、あの無茶苦茶な俺様殿下を相手にするんだぞ! それくらい用意しないと!!」

 「あそこにいるのは殿下の偽物」っていう主張はやめるんだ……もう、彼に何を聞いても無駄だろう。

 僕は、倒れたままの彼の体に触れて、服の中に何か隠し持っていないか確かめた。警備隊をしていたときに、こういうことは何度もしている。
 もちろん、倒れたままの男が不満を言ってくるが、こんな短剣を持っていた以上、持ち物は調べておかないと、ちょっと気を抜いた隙に背後から刺される。

「じっとしていてください」
「ち、ちょっ……お、俺、襲われる!??」
「襲いません。持っているものを確かめているだけです」

 彼は、いくつかの武器と、回復の薬を持っていた。武器は全て、服の下に忍ばせて相手を殺すためのものだ。
 彼の正体は暗殺者の類かと思ったが、別のものも持っていた。宝石のようだが、中に泥のようなものが混じった、粗悪な通信用の魔法の道具。

「これ……」
「あーー!! それだけはっ……! それだけは返してください!」

 彼はそう言って目に涙すら浮かべている。

 だけど、これは返せない。森の奥の街で、ロヴァウク殿下を連れ去ろうとした人買いたちが持っていたものと同じなんだから。
 おそらく、ランギュヌ子爵に渡されたものだろう。

 その魔法の道具は、あの街で見た時みたいに、勝手に消えたりはしなかった。それどころか、それから不気味な色の光が漏れてくる。毒だ。

 すぐに、それに魔法をかけて毒が出るのを止める。念のために、男と自分にも解毒の魔法をかけた。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なはずないだろ!!」

 僕を怒鳴る男は真っ青。子爵に渡されたものにそんな魔法がかかっているなんて、思っていなかったんだろう。

「なんだよ今の!! 俺、殺されるところだったのか!??」
「あなたに何かを依頼した依頼主の仕業です。あなたが拘束されたときに、問答無用で口封じをするためでしょう」
「そ、そんなっ……あ、あんまりだっ!!」
「王子殿下を狙うような人なら、このくらいすると思います……」

 何かと思えば、子爵の差金か……
 おそらく、この前の人買いの件だろう。

 通信用の魔法の道具は取り上げて動かないようにしたけど、ついでにこっそり、何も異常はないかのように装う魔法をかけておこう。子爵に、この男が拘束されたことを知られるのを、できるだけ遅らせたい。

 魔法をかけてから、僕は倒れた男の傍らにしゃがみ込んだ。

「あの……ランギュヌ子爵の手駒の人ですよね?」
「はあ!!?? 違うし!! 何言ってるんだよ!」
「……僕に嘘をついて誘い出して、何をしろって命じられてたんですか?」
「……」

 男は、無言で僕から顔をそむけてしまった。
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