虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
28 / 117

28.あいつを相手にするならこれくらい用意しないと!

しおりを挟む

 僕は、木々の影から殿下の様子をうかがった。

 何度見てもロヴァウク殿下は、優雅に紅茶を飲んでいる。殿下は紅茶にはミルクをたっぷり入れるのが好きらしい。

 だけど、なんで森の真ん中でお茶を飲んでいるんだろう?
 あのテーブルも椅子も、料理人が食事を作っている調理台も、全部殿下が置いたものだよな? なんでこんなところに、わざわざそんなもの持ってきて食事をしているんだ?

 お腹が空いたから食事をしているだけなのかもしれないが、湖の街まであと少し。魔物が溢れる森で、わざわざテーブルだの調理台だのを持ち込んでまで、ここで食事を取らなくてもいいはずだ。

 それに、殿下が目を通しているあの書類……おそらく、王城での会議で使われるものだ。機密情報を扱う時に使う魔法がかかっている。そんなものを森で読むのも、本当なら避けたいはずなのに。

 何が書いてあるんだろう……もしかして、僕が反逆者じゃない、なんて宣言したせいで、王家から責められているんじゃないよな!?

 殿下は書類をしばらく読んで、今度はそれに何か書き込んでいる。

 僕と一緒に来た、殿下に通せん坊をされたと主張する男は、殿下の手元を指差していった。

「あれ……君のこと書いてるんだよ?」
「え!??」
「さっき、俺はここを通ろうとして、あの王子と話をしたんだ。そしたら、書類に君の名前が書いてあるのが見えたんだよ。そしたらあいつ怒り出して……ここは通せないって言い出したんだ!」
「……」

 信じはしない。だけど、僕のことが書いてあるなら気になる。何を書いているんだろう。
 殿下がなんであんなことをしたのか、僕には分からないが、殿下が王位継承に不利になるのは嫌だ。

 殿下の方をじっと見ていると、隣にいた男が突然、短剣を取り出した。

「じゃあ……俺が最初にあの無法者に飛びかかるから、君は、あの道を塞いでいる竜の方を頼む!」
「え? ちょっと待ってください。無法者って、ロヴァウク殿下のことですか?」
「殿下じゃない! あれは、ロヴァウク殿下を騙る男だ!!」
「殿下です」
「二人で、この道を抜けよう! あの無法者を倒して!!」

 何を言っているんだ。

 僕は、その男の腕を掴んで、魔法をかけた。

「待ってください」

 僕の魔法にかかった男は、すぐにその場に倒れる。これは、体の自由を奪う魔法。殺さずに彼の体だけを見えない鎖で縛る魔法だ。警備隊で、無法者を取り締まる時によく使っていた。

 倒れた男は、僕を怒りのこもった目で睨みつけてきた。

「な、何するんだよ!! 俺と一緒に、あいつを倒すんじゃなかったのか!!??」
「……そんなこと言ってません」

 男の持っていた短剣を拾い上げる。やっぱり、服の中に隠していた。
 おそらく、これが彼の持っている武器の中で、一番強い魔法がかかっているものだ。何しろ、あのロヴァウク殿下に向かって行く時に使う武器なんだから。

「あなたの持っていたこの短剣、広範囲に毒を撒き散らす魔法がかかっていますね?」
「わ、分かるのかっ……!?」
「分かります……これでも警備隊でしたから……こういうものを街に持ち込む人は、十中八九、人を殺す目的を持っています。僕を竜に向かわせて、あそこにいる殿下と、殿下の周りにいる魔法使いたちが僕の方に気を取られている間に、その短剣の毒の魔法で、一網打尽にする気だったんですね?」
「は!? ち、ちがっ……!! 違う違う! ち、違うよー!! 俺が、そんなことするはずないじゃん!!」
「だったら、なんでこんなものを持っていたんですか……?」
「だ、だってここには魔物が出るしー、あ、あの無茶苦茶な俺様殿下を相手にするんだぞ! それくらい用意しないと!!」

 「あそこにいるのは殿下の偽物」っていう主張はやめるんだ……もう、彼に何を聞いても無駄だろう。

 僕は、倒れたままの彼の体に触れて、服の中に何か隠し持っていないか確かめた。警備隊をしていたときに、こういうことは何度もしている。
 もちろん、倒れたままの男が不満を言ってくるが、こんな短剣を持っていた以上、持ち物は調べておかないと、ちょっと気を抜いた隙に背後から刺される。

「じっとしていてください」
「ち、ちょっ……お、俺、襲われる!??」
「襲いません。持っているものを確かめているだけです」

 彼は、いくつかの武器と、回復の薬を持っていた。武器は全て、服の下に忍ばせて相手を殺すためのものだ。
 彼の正体は暗殺者の類かと思ったが、別のものも持っていた。宝石のようだが、中に泥のようなものが混じった、粗悪な通信用の魔法の道具。

「これ……」
「あーー!! それだけはっ……! それだけは返してください!」

 彼はそう言って目に涙すら浮かべている。

 だけど、これは返せない。森の奥の街で、ロヴァウク殿下を連れ去ろうとした人買いたちが持っていたものと同じなんだから。
 おそらく、ランギュヌ子爵に渡されたものだろう。

 その魔法の道具は、あの街で見た時みたいに、勝手に消えたりはしなかった。それどころか、それから不気味な色の光が漏れてくる。毒だ。

 すぐに、それに魔法をかけて毒が出るのを止める。念のために、男と自分にも解毒の魔法をかけた。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なはずないだろ!!」

 僕を怒鳴る男は真っ青。子爵に渡されたものにそんな魔法がかかっているなんて、思っていなかったんだろう。

「なんだよ今の!! 俺、殺されるところだったのか!??」
「あなたに何かを依頼した依頼主の仕業です。あなたが拘束されたときに、問答無用で口封じをするためでしょう」
「そ、そんなっ……あ、あんまりだっ!!」
「王子殿下を狙うような人なら、このくらいすると思います……」

 何かと思えば、子爵の差金か……
 おそらく、この前の人買いの件だろう。

 通信用の魔法の道具は取り上げて動かないようにしたけど、ついでにこっそり、何も異常はないかのように装う魔法をかけておこう。子爵に、この男が拘束されたことを知られるのを、できるだけ遅らせたい。

 魔法をかけてから、僕は倒れた男の傍らにしゃがみ込んだ。

「あの……ランギュヌ子爵の手駒の人ですよね?」
「はあ!!?? 違うし!! 何言ってるんだよ!」
「……僕に嘘をついて誘い出して、何をしろって命じられてたんですか?」
「……」

 男は、無言で僕から顔をそむけてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...