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24.殿下のことばかり

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 街を出た僕は、ライイーレ殿下と一緒に、森の中を歩いて、湖の近くにある街を目指していた。

 湖の街までは、この森を越えていくしかない。そこへ向かう道は、魔物避けのための明かりはあるが、舗装などはされていなくて、人の往来も少ない。
 というのも、最近、魔物が増えて、護衛を雇わないと歩けないような道になっているらしい。

 盗賊なんかも出たりもするらしいが、街中で常に気を張っていないと襲われていた僕は、あそこにいた時よりも、気が楽だった。

 途中、何度も魔物と戦った。道の近くには、一応魔物避けの街灯が設置されているから、そんなに強力な魔物は出なかった。

 本当は、空を飛んだりもして、すぐに森を抜ける予定だったけど、空には強力な魔物が多くて飛べないし、道沿いにも思っていたより魔物が多くて、時間がかかってしまったんだ。

 森を通る道沿いには、森を越える人たちが泊まれるように小屋が建てられていたから、野宿は避けられた。
 森の中で食糧を集めて食事をして、日が昇ったら出発。

 朝から出てきた魔物を倒して、湖の街を目指し歩いていると、ロヴァウク殿下はどうしているだろうと気になってくる。

 ロヴァウク殿下……なんであんなところで、僕を反逆者じゃないって宣言してくれたんだろう。

 あの街で起こったことは、今でも信じられない。
 何が起こったのか、今でも頭の中で整理できないくらいだ。

 将来、国王になると言われているロヴァウク殿下が、僕のことを「反逆者ではない」と宣言してくれて、一緒にいた領主も、それを認めた。多分それでもまだ後ろ指を指すやつはいるんだろうけど、これで、僕が反逆者だって言われることもなくなるのかな……

 なんでロヴァウク殿下はそんなことをしてくれたんだろう。王家にとって、不利なことのはずなのに。そんなに僕と、討伐隊の座を争いたいのか?

 だけど、殿下と魔法の勝負ができる魔法使いなら、僕でなくても、王城に帰ればいるはずだ。王城には、優秀な魔法使いたちが集められているんだから。それなのに、なんで僕なんだろう。

 反逆者じゃないなんて、みんなの前で叫んだりして、今度は王家が悪く言われるんじゃないのか? 王位を継ぐために不利になったりしないのか? ロヴァウク殿下は大丈夫なのかな……

 あの街を出て、魔物との戦いを繰り返しているのに、僕が考えるのはロヴァウク殿下のことばかりだ。

 護衛の人には会えたかな……

 そんなことで頭がいっぱいになっていたら、隣のライイーレ殿下に呼ばれていたのに気づかなかったらしい。大声で殿下に「レクレットーー!!」って呼ばれて、やっと気づいた。

「は、はい!? ど、どうされましたか?」

 隣を見下ろすと、ライイーレ殿下は、僕に飛びついてくる。慌てて抱っこしたら、彼は心配そうに僕を見上げてきた。

「大丈夫? いっぱい呼んだのに、難しい顔してずーっと黙ってたよ?」
「……すみません……ちょっと、ロヴァウク殿下のことを考えていて……ロヴァウク殿下は、もう街を出られたのでしょうか?」
「……気になる?」
「だ、だって、僕らは、討伐隊の座を争っているんだし、き、気になります!! 魔力も魔法もすごいし……」
「ロヴァウクの魔力と魔法の腕は、俺や他の兄弟じゃ全く勝てないくらいだからなー。頭もいいし、交渉もうまいし」
「そうですか……」

 僕、勝てるのかな……

 ロヴァウク殿下の使う魔法は強力だ。
 あの街で殿下がしていた、街の上空の結界に自分の魔力を仕込んで敵を討ち取るなんて真似、なかなかできない。殿下が拘束のために使っていた、水の拘束だってそうだ。

 僕は殿下にしてみれば敵なんだし、殿下と戦う用意をしなきゃ。

 この森を抜けていけば、湖の街に出る。給料と、魔物と戦うための装備はちゃんと届いたし、湖の街で、旅の準備と一緒に、殿下と戦闘になった時のための準備をしておこう。

「あの……ロヴァウク殿下って、どんな魔法を使うのか、知りませんか?」
「俺にロヴァウクのことは分からないよ。だけど、俺たち兄弟の中では、一番強いよ!!」
「……」

 手の内もわからない、最強の王子が僕の相手か。勝ち目はあるのか。とてもあるとは思えない。

 それなのに、殿下は、なんで僕にあんなことを言うんだろう。

 僕なんて、大通りの真ん中で、一人で意地を張って王子殿下を振り払うような奴なのに。
 しかも、みんなが見ている前で、涙目でロヴァウク殿下を怒鳴りつけてしまった。

 ……何をしているんだ、僕は。

 なんだか、自分のしたことを思い出したら、急に恥ずかしい。

 ロヴァウク殿下は、僕のことをどう思っただろう……

「…………何してるんだよーー……僕……」

 ついに、頭を抱えてうずくまる。

 もちろん、こんなことしている場合じゃない。早く湖の街に向かわなくてはならないのに。

 だけど、思い出したらやらずにはいられない。

 何でいきなり啖呵切ってるんだよ。馬鹿じゃないのか。

 もっとうまく、なんなら、ロヴァウク殿下の言うことを聞いておけばよかったのかもしれない。大人しく言うことを聞いて、うまく立ち回れば、平穏な生活が手に入ったのかもしれない。

 だけど、いきなり僕に猿轡つけて縛り上げる殿下はたまに怖いし、そもそも、うまく立ち回るなんて、僕には無理。

 だからって、もっとうまい言い方があったよなー……何をしているんだ。僕は。殿下は反逆者じゃないって言ってくれたのに、無礼なことばっかりして。

 ついに僕は、自分の馬鹿さに呆れて、誰もいない道の真ん中で頭を抱えてしまう。

「僕の馬鹿ーー……なんであんなこと言ったんだよー……」

 そばでは、僕のこういう行動には慣れているライイーレ殿下が、小さなちょうちょを追いかけていた。
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