虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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22.王子に逆らっているとは思えないほどに

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 完全に引いてしまった僕だけど、殿下はあくまで楽しそう。

 そんな殿下に、横にいた伯爵が遠慮がちに言った。

「し、しかし、殿下……この者は、殿下に剣を向けたのです。それに、この男はレクレットです。第一王子であるライイーレ殿下を誘惑し、陛下の暗殺を企んだ反逆者ではありませんか」
「黙れ…………レクレットは、反逆者などではないっっ!!」

 大通りに響き渡るような声で、殿下が宣言する。

 思いもよらなかったであろう言葉に、伯爵は驚いて、口を開けたまま何も言えなくなっていた。
 集まった魔法使いたちも兵士たちも、警備隊も街の人たちも、何を言われたのか、分からないようだ。
 何しろ、あの反逆騒ぎの時に、ライイーレ殿下を拘束したロヴァウク殿下が、あの事件の首謀者は、僕ではないと宣言したのだから。

 だけど、一番焦ったのは、絶対に僕だ。

 何言ってるんだ!? ロヴァウク殿下は!
 第一王子が反乱を企んだなんて、王家には不利な話じゃないのか!?
 それなのに、こんなに人が集まった大通りで、王族であるロヴァウク殿下が、僕の反逆を否定する宣言をするなんて……

 唖然とする一同の前で、殿下は伯爵に振り向く。

「そうだな? ディロヤル伯爵」
「へっ……!? い、いや……そ、そそ、それは……」
「どうなんだ?」
「あ、あの……その……」

 殿下に睨まれて、伯爵はしどろもどろだ。

 あまり知られてはいないが、伯爵は、ライイーレ殿下を次期国王に擁立しようとした貴族たちのうちの一人。表立ってそんな声をあげたり、あからさまにライイーレ殿下の研究の支援をしたりはしていなかったが、ライイーレ殿下に多くの魔法の薬を渡していたのは彼だったはず。

 ただでさえ、そんな事情があって、ロヴァウク殿下とはあまり顔を合わせたくないだろうに、懇意にしている子爵が、今回捕縛された人買いたちに関与していたことが明らかになった今、殿下に睨まれたりしたら、生きた心地がしないだろう。

「そ、そ、そうですね……殿下のおっしゃる通りでございます……」

 伯爵が、公衆の面前で認めた。ロヴァウク殿下の言うとおりだと。僕は、反逆者ではないと。

 誰もが驚いていた。顔色を変えている人もいる。
 集まった人たちの中には、反逆者には当然の罰だと言って、僕を公然と嬲り物にしてきた奴らもいた。彼らにしてみれば、勝手に掲げた大義名分が消えたも同然だ。

 驚きのあまり、立ち尽くす僕。

 一体、何が起こっているんだ。

 動けなくなってしまった僕に、ロヴァウク殿下が近づいてくる。

「レクレット……」
「……は……はい……」
「貴様は、反逆者ではない。貴様にかけられた疑いは、俺が晴らしてやろう。代わりに、貴様は俺と戦え」
「殿下…………」

 どうしよう……何を言われているのか、すぐには理解できない。

 僕が、反逆者じゃない?

 そんなこと、これまで何度も叫んだ。だけど、一緒にそう叫んでくれる人なんて、誰もいなかった。

 だめだ。泣きそう。

 溢れてくる思いと涙に、必死に耐えた。

 泣いている僕なんて、殿下だって、見たくはないだろう。

 僕は、ロヴァウク殿下に頭を下げた。

「あ、ありがとう…………ございます……殿下…………」
「急に大人しくなったな。爪を立てるばかりだったくせに」

 爪って……僕は猫か。そんなことしていないのに。

 からかうように言われて、僕は少し、冷静さを取り戻した。

「お、大人しくなったのではありません……う、嬉しかっただけ、です…………反逆者だってこと、否定してくれて……」
「……泣いて喜ぶなら、今からでも従者にしてやるぞ」
「……なりません」

 流れかけていたものを拭う。
 まだ従者にしてやると繰り返す殿下の言葉が、ひどく温かく感じた。

 僕は、顔を上げる。
 目の前のロヴァウク殿下の顔が、ちゃんと見えた。僕の手を引いて、雨の中歩いていた時と同じなのに、なんだか楽しそうだ。

 僕もいつのまにか、王子に逆らっているとは思えないほど力が抜けて、顔も綻んでいた。

「ぼ、僕は……っ!! 討伐隊に参加するんですっっ……!! 荒野の城にたどり着くのも、そこで腕を認められるのも…………僕ですっ!!!! 殿下には、負けませんっっ!!」
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