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21.僕の命運は尽きるらしい

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 僕が怒鳴りつけても、ロヴァウク殿下はそれを楽しんでいるようにしか見えない。

「なかなか可愛らしい口をきくではないか。レクレット。よく考えてみろ。多くの下僕を従えるのは当然のことだ。これは俺の、王族としての力なのだからな」
「…………そんな……」
「ちなみに、空まで覆う結界を作るように命じたのも、そこに俺の魔力を仕込むことを許可させたのも、俺だ」
「は!??」

 ずっる!! なんだよそれ!! 魔物避けの結界まで罠かよ!!

 あんまりじゃないか。王族としての力を使われたら、僕に勝ち目なんてない。それを知りながら、僕の前にそんなに人を引き連れて立ち塞がるなんて。

 不満と怒りが湧いてくる。

 けれど、それは急にしぼんでいく。

 これが、全部失った僕と、将来を有望視されている、ロヴァウク殿下との差なんだ。

 殿下でなければ出せない命令を出して、殿下でなければ下りない許可を得て、これだけの人を集めて、僕を取り囲む。これも、ロヴァウク殿下の力。
 同じ王族であったとしても、誰にでも出せる命令じゃない。

 おそらく魔力でも魔法でも、僕はこの人に敵わない。さっきの戦いで、そう思った。

 何を僕は勝てる気になっていたんだろう……僕と殿下には、これだけの差があるのに。

 黙る僕を笑い飛ばして、殿下は僕の前に仁王立ちになる。

「思い知ったか? 俺を怒らせると、恐ろしい目に遭うと言っただろう」
「……」
「どうだ? 今からでも跪くなら、従者にしてやらなくもないぞ」
「…………」
「泣いて顔を地面に押しつけろ。土を口に含みながら、下僕にしてくださいと懇願するなら、その頭を踏みつけてやるぞ?」
「……」

 殿下のそばにいる伯爵も魔法使いも、兵士たちも警備隊も、僕を指差しヒソヒソ言っている。みんなが僕を、軽蔑するような目で見ている。

 だけど僕は、誰よりロヴァウク殿下に腹が立った。

 すでに全部諦めていたはずなのに、頭のどこかで、彼に期待してしまっていたんだ。

 あの雨の中、死にそうなくらいに傷ついた僕の手を引いて連れていったこの男に。奴隷同然の僕に、迎えてやると言ってくれた彼に。
 初めて僕を認めて礼を言ってくれて、相手をしてやると言った彼に、もしかしたら、本当にここから抜け出せるかもと、そう思わされたんだ。

 それなのに。

 こんなのひどい。

 クソ王族がっ……!! どこまでも僕を馬鹿にして……

 だいたい、僕がこんなことになったのも、全部王族と貴族どものせいだ。僕だけ生贄にして、自分達だけで勝ち誇って、何様だよ。

 僕は、ここから逃げるんだ……今更こんなクソ王子に邪魔なんかさせるか!

「…………跪いたりしません」
「なに?」
「殿下には従いません。僕のことを縛って嘲って弄ぶ王子殿下になんか!! 僕はっ……討伐隊になるんです!!!!」

 大通りがしんとなる。

 集まった人たちは、誰もが驚きで黙ってしまう。

 誰もが、すぐに僕の首が飛ぶと、そう思ったはずだ。

 ロヴァウク殿下が次期国王として有力視されているのは本当だ。そんな男に、僕みたいな処刑寸前の反逆者が、公衆の面前で魔法を振るい、無礼を働いた。

 斬首だ、みんながそう思ったはずだ。
 僕だって、そう思った。

 それでも、今、ロヴァウク殿下に跪きたくなかった。

 首が飛ぶのも覚悟していたのに、広場に響いたのは、処刑の命令ではなく、天すら凍らせ引き裂くかのような、冷酷な殿下の哄笑だった。

「ははははは!! なかなか言うではないか! 昨晩、貴様を見つけた俺を称賛したいくらいだ!」

 殿下があまりに楽しそうで、彼の隣にいた伯爵も警備隊長も、僕を取り囲む警備隊のみんなも、伯爵の連れてきた魔法使いたちや兵士たちも、ことの成り行きを見守っていた街の人たちまで、キョトンとしている。

 ていうか、賞賛するの、自分なんだ……

 殿下らしいが、僕はこれでも処刑が怖くて震えているんだ。ゲラゲラと笑うのはやめてほしい。

「いいだろう!! クレノジには、荒野の城にたどり着いた上で、腕のいい方を使えと命じておいてやる!」
「命じるって……一応、クレノジ殿下は第四王子ですよね?」

 なんて僕が言ったところで、この王子が聞いているはずがないのだが。

 しかも、今のロヴァウク殿下はすごく楽しそう。話しかけて邪魔したら殺されそうなくらいに。

「俺に勝ってみろ! 捨てられ人族……いや、レクレット!! 俺も貴様と、勝負がしたくなったっ……!」

 すると、それを聞いていた警備隊長が遠慮がちに言う。

「あ、あの……殿下。こ、この者の無礼は……」
「そんなことはいい。見てみろ! 俺に楯突くやつが現れた!!」
「…………それが無礼なのでは……」
「誰もが跪き、誰もが従う俺に、剣を向ける男だぞっ!! こんなものを見つけるなんてっ……やはり俺は王だ!!」
「…………」
「俺は、俺と対等に戦える好敵手ができて、機嫌がいい。無礼など、好きに働けばいい。むしろ働け! 俺のために!! 貴様こそ、我が好敵手だっ!! レクレットっっ!!」

 高笑いをあげて言う殿下の言葉を聞いて、警備隊長は呆気に取られていた。まるで魔王だ。
 伯爵も彼に連れてこられた魔法使いたちも兵士たちも、ポカンとしている。

 僕だって、早々に後悔している。

 この王子、怖い。

 次期国王だと言われているのが、この男って、この国は大丈夫か?
 ずっと楽しそうに笑っているし、僕はもうどうすればいいんだ。
 こんな男を相手に喧嘩を売って、僕の命運はここで尽きたのかなぁ……
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