虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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17.僕にも何か

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 警備隊長が去って行った方に、殿下が振り向いている隙に、僕は魔法で猿轡と両手の拘束を断ち切った。

 口も手も自由になった僕は、殿下に向かって叫ぶ。

「殿下! 何をなさるのです!!」
「感謝なら、泣いて跪いて俺の靴を舐めるだけでいいぞ」
「……しません……何で猿轡と縄にお礼言わなくちゃならないんですか……」
「貴様が礼を言うのはそんなものではなく、王である俺にだ」

 死ね。

 じゃなくて。

 怒りのあまり、不敬罪を軽く通り越してしまいそうな暴言を吐くところだった。

 多分、そっちに関して不満を言っても無駄。何でこの男は、常に胸を張っていられるんだ……

「で、殿下っ! 彼らに魔力を返してください! 魔力も装備も奪われたのでは戦えません!」
「知っている。全て返した」
「……本当ですか……?」
「本当だ。疑り深い奴め」
「……」
「それより、レクレット……」
「な、なんですか…………?」
「これを受け取れ」

 そう言って、殿下は僕に、小さな袋を渡してくれる。中でじゃり、と音がした。中身は金貨じゃないか!

 僕は即、それを押し返した。

「いいいいいりません!! こんなものっ……!! な、ななななななな何の真似ですか!!!!」
「なんだ、その反応は。これは貴様が俺を護衛した謝礼だ。受け取れ」
「い、いいいいいらないです! 僕、ご、護衛なんてしてないし、したつもりもありません!! 僕は、護衛ではなく、むしろ敵です……! 討伐隊の座を争っているんだから! そんなものをもらう理由がありません!」
「あるだろう。今日、貴様は俺を守った。これはその対価だ」
「でもっ……!」
「……よくやってくれた」
「え……?」
「これまで、よくこの街を守ってくれた。ここは俺の街だ。王族として、礼を言う」
「………………殿下…………」
「この街のために尽力してくれたことは、今日だけでよく分かった」
「……あ、ありがとう……ございます……」

 そんな風に言われたのは、初めてだ。何をしても罵倒され、指をさされて馬鹿にされて、足蹴にされてきたのに。

 もう少しで、泣いてしまいそうだった。

 目尻に溜まったものを、殿下には気づかれないように拭う。もしかしたら、気づかれていたのかもしれない。

「…………そんな風に言われたのは、初めてです……ち、ちょっとだけ……これまで頑張ってきた甲斐がありました」
「……生意気な捨てられ人族かと思ったが、可愛いことを言うではないか」
「……その呼び方だけはやめてください」
「では、やめる代わりに、これも大人しく受け取れ。俺からの報酬だ」

 殿下がまだ袋を差し出してくるから、僕は絶対に受け取らずに、一歩下がった。

「……受け取れません。受け取るべき理由がありません。僕は、殿下のことを守っていないし、殿下に怪我をさせてしまいました。む、むしろ、殿下の方が、僕を守ってくださいました……」
「王族の命令だ。受け取れ」
「…………できません……ま、守ったって言うなら、僕は、け、警備隊としての仕事をしただけです……それなのに、殿下からさらに報酬を受け取るわけにはいきません!」
「なぜそう頑に断る? 貴様は何度も俺を守っている。対価を支払わなければ、俺が恥をかく。貴様も受け取っておいた方が、これからの旅が有利になるのではないか?」
「確かにそうですが…………なんか……こ、怖いです!!」
「怖い?」
「だ、だって、理由もなく受け取れるものではありません!! き、き、金貨なんてっ……! そんなものを僕に渡して……奴隷にでもする気ですか!?」
「俺にはそんなもの、必要ない。全ての人間は黙っていても俺に平伏し、傅くからな」
「……」

 なんだこの自信。すげーよ。
 そして、それならそれで、僕には構わないでほしい。
 護衛なんてしてないし、むしろ、僕の方が助けられた。それなのに、そんなもの受け取れるもんか!

「……じゃあ、僕はこれで……」
「待て。これをまだ受け取っていない」
「そんなものを僕に渡して、どうしようって言うんですか!! 受け取った途端、魔物と戦う奴隷にでもする気ですか!? 娼館にでも売る気ですか!?」
「……何を言っているんだ……貴様は……」
「申し訳ありませんが、ぼ、僕は、誰も信じません! 他人に渡されるものなんて……全て罠です……しかも金貨っ……な、なんでそんなものをっ……ど、毒でも仕込んであるんですか? 僕を殺して、魔法の実験用として売り払う気ですか!?」
「貴様…………それだけで、十分に不敬罪に値するぞ……いいか。俺の言うことに逆らうと、恐ろしい目に遭わせるぞ」
「お、脅し……まだ受け取ってないのに……い、いりません!! どうかそれをしまってください!」
「……この場で口に金を突っ込んで鞭打ちに処してやろうか……」
「やっ……い、いやっ…………ぼ、僕っ……な、何もいらないのでっ……!! し、静かに生きられれば、それだけでいいんですっ……! だ、だからっ……し、失礼します!!」

 僕は、自分に魔法をかけて外に飛び出すと、近くの民家の屋根まで飛び上がった。

「あ、あのっ……! 助けていただいたのは、むしろ僕の方です! 給料とかの件もっ……! あ、ありがとうございました!!!!」

 屋根の上で殿下に振り向いて頭を下げて、僕は街の方に逃げ出した。

 悔しいが、彼に世話になってしまったのは僕の方。本当は、ちゃんとお礼をしたいのに……結局また背を向けている。ちょっとくらい、僕にできることがあればいいのに。
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