16 / 117
16.俺が黙らせてやろう
しおりを挟むロヴァウク殿下に睨まれた警備隊長は、殿下の横暴な態度にも何も言えないようだ。
きっと、殿下の視線には毒でも仕込んであるんだ。
殿下に睨まれただけで、警備隊長は震え上がる。
その気持ちは分かる。僕だって殿下に睨まれていると、心臓が冷たくなるような気がするから。
おろおろするばかりの警備隊長に、殿下は追い詰めるように近づいていく。
「この街の裏通りのことは聞いていたが、それ以上にひどい。俺とも気づかずに、こんなところに誘い込むとは……」
「そ、それは……こ、困ったもので…………わ、我々も取り締まりを強化しているのですが……な、なかなかなくならず…………」
「……貴様……俺を誤魔化せると思っているのか?」
「ひっ……!! な、なな、何のことでしょう……?」
「貴様ら、ろくに街の巡回もしていないだろう。レクレットに全て押し付けて、貴様らは何をしている?」
「そ、そんなことはっ…………」
「今朝、街には誰も警備の者がいなかった。それとも貴様は、俺の見間違いだと、そう言うのか?」
「い、いえ…………な、なに分、こちらも人手不足でして…………」
「その割に、貴族の連中には、隋分と細やかな対応をしているようだなあ……港で没収した物も、あっさり返したのか?」
「な、なぜそれをっ……!」
「やはり、返したのか?」
「それは…………わ、我々も、出来ることとできないことがございます…………い、違法でないものを、いつまでも保管しておくわけには……れ、レクレットからお聞きになられたのですか?」
「この街のことは、ここに来る前に聞いていた。港の積荷の動きも、裏通りの惨状も、街の荒れ具合も。街で魔物退治を任されているのは、このレクレットだけか?」
「そ、そんなことは…………レクレットから聞かれたのですか!!??」
「俺は王だ。その程度の情報、王宮で黙っていても入ってくる」
「……」
「街での取り締まりも、レクレット一人に押し付けてばかりで、ろくに行われていない。なるほど、朝っぱらから、とぼけた売り文句で近づく下衆どもが蔓延るわけだ」
「…………それは……」
ついに黙って俯いてしまう警備隊長に、殿下は右手を突き出す。
「さあ、出してもらおうか?」
「な、何をですか?」
「レクレットに払うべき給料と、支給されるべき装備、それに、回復のための薬だ」
「わ、我々は、全て彼に渡しました!」
「それが本当なら、豪雨の中、薄汚れた布を傷に巻き付けてほうきを動かしているはずがない。この男は、回復の魔法もろくに使えないくせに、これから旅に出るという時に持っていたのは小さな瓶一つだけだ。金があるなら、回復の薬は一番に用意するはずだ。持っている荷物も、その汚いリュック一つ。貴様ら、レクレットに支給されるべきものを、すべて横取りしていたな?」
「そんなっ…………! ち、違いますっ……!」
「……それは、俺を誤魔化せると思ってほざいているのか?」
「それはっ……!」
真っ青になって震えだす隊長に、殿下が手を差し出すと、その手から、あの水のようなものが溢れ出し、隊長を包んでしまう。
その不気味な光景を見て、警備隊の面々は悲鳴を上げて隊長から遠ざかる。
一人だけ殿下の魔法に捕まってしまった隊長は、逃げて行った隊員たちを涙目で怒鳴りつけていた。
「お、お前たちっ……! は、薄情だぞっ……!! うわっ……!」
隊長を包んだ水が消えていくと、裸にされてしまった隊長が、一人でそこに残されていた。
「な、な、何をっ……」
隊長を包んでいた水は、殿下のところへ飛んでくると、さっき隊長が着ていた物と持っていた物に姿を変えて、殿下の手に落ちてくる。
「貴様らが横取りしたものの代わりに、装備と魔力をいただいただけだ。これでは足りないな……」
ロヴァウク殿下は、今度は隊長の後ろで震えている隊員にまで手を伸ばそうとする。
僕は焦った。そんなことをされたら、魔物とも、さっきみたいな奴らとも戦えなくなる。
「で、殿下っ……! やめてくださいっ……! ぼ、僕、そんなのなくても自分でなんとかしますっ……!」
「俺の街を守る働きに正当な対価を用意することは、王である俺の義務だ」
「で、殿下はまだっ……国王ではないのではっ……!」
「いずれそうなる。王は俺だ」
「そんな無茶苦茶なっ……!!」
僕が叫んだって、殿下はちっとも聞いてくれない。それどころか、僕をあっさり抑え込んで猿轡を噛ませた上に、後ろ手に拘束してしまった。
何するんだこの人!
僕を黙らせた殿下は、警備隊の面々に振り向く。
「次はどいつからもらおうか? 貴様にするか?」
そう言って、殿下が、昨日僕を背後から魔法で撃った男に振り向くと、あっという間にそいつも裸にされてしまう。
ついに、警備隊長が叫んだ。
「か、金なら砦に帰れば払えます!! 装備や薬も用意します! どうかもうお許しください!!」
「だったら早く行け。使い魔に持たせて、レクレットのところまで運ぶんだ」
殿下が手を下げると、警備隊たちは我先にと砦の方に帰っていく。
また取り残されてしまった警備隊長も、殿下に服を返してもらうと、慌てて隊員たちの方に走っていった。
「お、お前たちっ……! 待て! 俺だけ置いていくな!」
早くこの場から逃げたいであろう警備隊長に、殿下が背後から声をかける。
「おい。警備隊長」
「すぐにご用意いたしますので、ほんの少しだけお待ちください!」
「貴族連中が何か言ってきたら……特に、どこかの小うるさい子爵が文句を言ってきたら、俺の名前を出して城に来るように言え」
「……殿下…………ご、ご存じだったのですか……?」
「没収したものの件で、子爵から抗議がきたのだろう? 先ほど拘束した連中にも、貴族の客がついている。あんな連中を拘束するたびに、貴族どもから何かと理由をつけては解放を求められた挙句、警備隊の横暴で無実の者が拘束されたと喚かれては、士気も下がるだろう。そういう連中の差金で、支給されるものも減っているのではないか?」
「……」
「余計なことを言う連中は、俺がすべて黙らせてやる。代わりに貴様らは、俺の街を守れ」
「…………はい……」
警備隊長は、小さな声で返事をして頭を下げて、砦の方へ走っていった。
127
お気に入りに追加
931
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした
メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました!
1巻 2020年9月20日〜
2巻 2021年10月20日〜
3巻 2022年6月22日〜
これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます!
発売日に関しましては9月下旬頃になります。
題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。
旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~
なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。
────────────────────────────
主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。
とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。
これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる