虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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15.命知らずめ

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 殿下は僕にリュックを返してくれた。

 帰ってきたリュックの中身を確認する。何も抜かれていないし、僕を陥れる罠になりそうなものを入れられた形跡もない。

 リュックも荷物も無事だったが、これは僕の全財産だ。それを取り上げるなんて、王族のやることとは思えない!

 リュックを抱きしめてロヴァウク殿下を睨みつけてやるけど、殿下は僕に手を差し出して、自信たっぷりな様子で言った。

「俺と来い。レクレット」
「だから、な、なんでですか……? 僕らはっ……どちらも、討伐隊への参加を希望していて、荒野の城を目指しているんですよね? たどり着いて、魔物退治の腕を認められた方が、討伐隊に参加できるんですっ……! そ、それなのに、なぜ僕と殿下が一緒に行くんですか!?」
「俺が行きたいと思ったからだ」
「……」
「どうせ貴様は、俺より早くあの城に着くことはできない。むしろ、辿り着けるかも分からない。その装備で、ライイーレを連れて荒野の城を目指すなど、無謀だ。野垂れ死する前に、従者にしてやるから跪け」
「………………」

 この王族どもは……どいつもこいつも、僕を馬鹿にして! 僕がこんな大変な思いをしているのは、誰のせいだと思っているんだ!
 反逆者だの淫魔だの言われるし、誰からも罵られるし、毎日道具同然の扱いを受けながら働かされるし……
 やっとここを出ていけると思ったら、また王族が僕の邪魔をしにきた。
 しかも、なんだこの王子!! 最低じゃないか!!

 僕は、今までの怒りを全部込めて、王子を睨みつけた。

「……僕は、ロヴァウク殿下とは、一緒に行きません……討伐隊に参加するのは、僕です!!!!」

 思いっきり断ってやったのに、ロヴァウク殿下は楽しげに笑う。

「……俺にそんなことを言っていいのか?」
「ぼ、僕はっ……! この討伐隊への参加に、全てをかけていたんです!! や、やっと……やっと……ここから出て行けると思ったのにっ……あ、あなたのせいで、僕はまた、王族に刃向かうクソ野郎です!! 僕はっ……殿下には負けません! 討伐隊になるのは! 僕ですっ!!!」
「……命知らずな男だ。第五王子である俺に、喧嘩を売るとは」
「け、喧嘩なんか売ってません! ぼ、僕は……討伐隊になりたいんです!」
「俺が従者にしてやると言っているんだぞ」
「城に行けば、僕より優秀な方がいるはずです!」
「俺は貴様が欲しい。他の者はいらん」

 何を言ってるんだ、この王子……絶対僕をからかうのが楽しいに決まっている!!

 負けじと睨む僕の前で、王子は嗜虐的に笑っていた。

「最強の魔力を持つと言われた俺に戦いを仕掛けたのも、貴様が初めてだ。荒野の城に着くまで、相手をしてやる」
「……」
「だが、俺が先につけば、貴様は俺の従者だ」
「な、なりませんっ……! そんなの!!! 先に着くのも討伐隊になるのも、僕です!! 王家には負けなっ……い…………」

 しまった……勢い余って、王族にめちゃくちゃ無礼な口をきいてしまった。

 だけど、ロヴァウク殿下はニヤニヤ笑っていて、怒り出したりするどころか楽しそう。変な王子だ……

「……ま、負けない、ように……がんばらせていただきます……」
「我慢しなくていいぞ」
「…………」

 どこまでもムカつく王子めっ……絶対にこいつには勝つ! そして、思いっきり勝ち誇ってやる!!

「じ、じゃあ……僕はもう……行きます」
「まて。どこへいく気だ?」
「……ライイーレ殿下を探しにです」
「あの犬なら、すぐに戻ってくる。ここで待っていろ」
「ライイーレ殿下に何かあったらどうするんですか! それに、この男たちだって、早く連れて行かないとっ……逃してしまうかもしれません!」
「それを連れていくのは、ここを守る警備隊の仕事だ」

 ロヴァウク殿下は、壁にあいた大穴に振り向いて、一言「遅いぞ」と言う。
 それとほぼ同時に、警備隊長が飛び込んできた。

「殿下っ……!」

 隊長の後ろには、警備隊の面々もいる。

 警備隊長は、壁に大穴があき、破壊された酒場に第五王子が立っているのを見て、驚いていた。

「殿下っ! こ、これはっ……どういうことですか!??」
「裏通りにいた人買いを拘束した。連れて行け」
「ひ、人買いっ……!??」
「しかも、貴族が客だと叫んでいた。俺もレクレットも、そいつらが貴族から渡されたのであろう魔法の道具を持っているのを見ている。連れて行け」
「し、しかしっ……」

 隊長は動こうとせず、倒れた男たちから目をそむける。

「ま、まだ……彼らがそんな真似をしたとは……限らないのではないでしょうか……」

 隊長から帰ってくるのは、いつもと同じ、消極的な返事。貴族たちが絡んでいるようなことには、隊長も手を出したくないのだろう。

 けれど、動かない隊長に、ロヴァウク殿下は冷酷にたずねる。

「貴様……俺が誰だか、分かっているのか?」
「は……? そ、それは……ろ、ロヴァウク殿下でございます……」
「そうだ。いずれ王になるのは俺だ。すでに王だと言っても過言ではない」
「…………そ、それは過言では…………第二王子も…………」
「貴様は、王である俺の命令が聞けないのか? 無礼者め……全員処刑してやろうか……」
「ひっ…………つ、連れてっ……行きますっ……! 今すぐっ……!!」

 怯えた隊長は、すぐに、背後に控えた魔法使いたちに「連れて行け」と命じていた。
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