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13.今さら気づいたか?
しおりを挟む怒りが湧いてくるばかりだが、我慢。
こんなわがまま王子をエスコートしながら、捕縛した奴らを連れて行くのは危険だ。どちらかに気を取られているうちに、もう片方が何をするか分からない。
そして、それは今も同じだった。
ロヴァウク殿下に気を取られていた僕に、商人たちのうちの一人が魔法を放つ。
気づいた時には遅くて、魔法で作られた火の玉が僕の方に飛んできた。
ロヴァウク殿下との話に夢中だった僕は、反応が遅れた。
殿下だけでも守らなくては。
とっさに、自分の体を強化して盾にする。
殿下が魔法で体を傷つけられれば、逃げることも難しくなる。逃げ遅れれば、本当に奴隷にされてしまうかもしれないんだ。
殿下は知らない。魔法の鎖で拘束されて従属させられることが、どれだけ恐ろしいか。
僕がここに来たばかりの頃が、そうだった。淫魔は躾けておかないと何をするか分からないと言われ、魔法の鎖で拘束されて、毎日、理不尽な扱いを受けた。
もう、あんなの見たくない。
殿下だけでも無事なら、彼は自分で窓から飛び出して逃げていける。
そう思って自分を盾にしたのに、殿下は僕を引き寄せて、その腕で包んでしまう。
「はっ……!? え、ちょっ……殿下!??」
「黙れ」
冷たく言った彼の魔法が、敵に襲い掛かる。
床から、水のようなものが吹き出して、男たちの体に絡みついた。それは水のように柔らかいのに、まるで強固な鎖のように男たちを縛り上げる。強く拘束されて、彼らの体が軋むような音がした。
「さあ、首謀者の名を言え。さもなくば、一人ずつ絞め殺す」
本気で言っていることがすぐに分かるような顔つきで言って、殿下は、僕を抱きしめたまま右手を握る。
すると、男たちを縛る拘束は、さらに彼らの体を締め付ける。その体が、折れてしまいそうなくらいに曲がっていた。
恐ろしいうめき声が聞こえる。このままでは、本当に彼らの体をちぎってしまうかもしれない。
「で、殿下っ……! こういう時は、生捕りが原則で……」
「原則? 俺は王族だぞ。規則など、知ったことか」
「知ってください! ほ、他にも捕まった奴隷たちがいるはずですっ……! それに、彼らの顧客のことも聞き出さないとっ……! どうかっ……」
「大体の見当はつく」
「え……?」
殿下がそう言うと、男たちを拘束していたものが、突然爆発する。殿下が魔法を操り爆発させたんだ。
あまり威力の高いものではなかったようだが、店内はぐちゃぐちゃ。テーブルは砕け、椅子は粉々、壁には大きな穴があいて、外の光が入ってきた。
破壊された店の中で、僕と殿下だけ無傷。殿下が魔法で守ってくれたんだ。
爆破に巻き込まれた男たちも、服が破れて倒れているが、全員、生きているようだ。殺しはしない程度の威力に抑えたようだが、そういう問題ではない。
「殿下っ……!? な、何をしているのですか!?」
「黙っていろ」
「だ、ダメです! 危険です!」
止めようとする僕の手をすり抜け、ロヴァウク殿下は、倒れた男たちのうちの一人のボロボロになった服から、小さな宝石のようなものを取り出す。それは、殿下がつまみ上げると、光の粒になって消えた。
魔力で作られた、通信用の魔法の道具だ。すぐに消えたのは、証拠を隠滅するためだろう。
そんなことができるものは、かなり性能も良く、なかなか手に入らない。貴族でなければ手に入らないものだ。
そして、宝石の中にかすかに見えたのは、魔法の道具を作る時によく素材にされる魔力の塊。あまり質の良いものではないらしく、魔力以外に泥のようなものが見えた。あれ、南の港で何度か没収されたものだ。
「…………ランギュヌ子爵……?」
つぶやいた声は、殿下にも聞こえたらしい。
殿下は僕に振り向いて、ニヤリと笑った。
「分かるのか?」
「へっ……!?? あ、えっと……多分……さっき見えた魔力の塊……港で、似たようなものを何度か違法なものとして没収しています。子爵様から抗議が来て、お返ししましたが……」
「……そうか…………」
ロヴァウク殿下は、男たちに振り向いた。
「俺のことは、子爵に売るつもりだったか? 争いのための魔法使いを集めていると言うのは、本当だったのか……」
「黙れ!」
床に倒れた男うちの一人が、ふらふらと立ち上がる。通信用の魔法の道具を持っていた奴だ。あいつが一番魔力が強い。すでに破れた服も魔法で元通りになっていた。
その男は、僕を指差して言った。
「淫魔めっ……王族に楯突き国を破壊しようとしたお前に、俺たちを捕縛する資格があるのか!?? お前なんか、処刑が当然だったのに、貴族たちの温情で助けてもらったのだろう!! 俺たちの客は、その貴族様だぞ!!」
言った男の魔法が、僕に飛んでくる。さっきの火の玉だ。その程度、すぐに打ち消してやる。
そう思って構えるのに、ロヴァウク殿下は僕を引き寄せ、強く抱きしめる。そのせいで、殿下の頬を魔法がほんの少し掠めた。
「殿下っ…………!!」
何をしているんだこの人っ……! 王族が僕を庇ってどうするんだ!
「で、殿下っ……! すぐに治療しないとっ……!」
「治療? 必要ない」
そう言って、ロヴァウク殿下は、魔法を撃った男に振り向いた。
「貴様の言う王族なら、ここにいる」
そう言って彼は、自分の顔を隠していたフードを取り去ってしまう。彼の端正な顔と、着ていたローブの紋章が日の光に照らされて、男は顔色を変えた。
「………………お、王家の紋章っ……!? そ、その顔っ……! ま、まさか、ロヴァウク殿下!??」
「ああ……今更気づいたか?」
「な、な、なんで……こんなところに、王族がっ……!」
「どこへ行こうが、俺の勝手だ。それより貴様……王族である俺に、手をあげたな?」
「ひっ…………!」
男は震え上がってしまう。当然だ。僕だって、こんな人、そばにいることすら怖い。
できれば逃げ出したいのだが、無理やり抱きしめられて、全く逃げられない。僕はこんなことをされている場合じゃないのに。
ロヴァウク殿下のことは気に入らないが、彼は王族。僕は彼に怪我をさせるわけにはいかないのに、これじゃ王族であるはずのロヴァウク殿下が僕を守っているみたいだ。
「殿下っ……! は、離してください!」
「いい加減大人しくしないと、猿轡を噛ませて縛り上げるぞ」
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