虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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12.効力のない仕返し

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 苛立ちながら、僕は退路となる窓を開けた。

 その時、背後から声がした。さっきの商人が、仲間を連れて戻ってきたんだ。

「おいっ……! なんだお前は!! そこで何をしている!?」

 面倒臭いことになった。

 商人に連れられて、僕達のいる店内に、数人の男たちが入ってくる。人数だけを見れば、めちゃくちゃ不利だ。
 ロヴァウク殿下を人質に取られたりしたら、どうしようもなくなる。
 先に王子を逃して、僕はここを抑えるか……!

「殿下っ……! 逃げてください!!」

 叫んで、僕は商人たちに向かって、爆破の魔法を放つ。街を破壊するわけにはいかないから、最小限の威力しかないもの。
 一瞬だけでも怯ませて、ロヴァウク殿下が逃げる隙を作る。それから捕縛の魔法で一人ずつ捕まえる!

 破裂した魔法は、辺りに真っ白な煙を撒き散らす。この煙は僕の魔力で作った、相手の力を奪うもの。
 敵の男たちは、立ち込めた煙に体力を奪われ、ふらふらとその場に膝をつく。

 これで相手は無力化できた。後は、魔力の鎖を作って縛り上げる。それから、警備隊の砦の前にでも転がしておけば、隊長が見つけるだろう。

 さっさと終わらせて街を出よう。

 そう思って、倒れた男たちを拘束するために近づこうとすると、殿下をここまで連れてきた商人風の男は、床に倒れたまま、僕を睨みつけてきた。

「お前っ……! 反逆者のレクレットだな!!」
「え……?」

 なんだ……僕のことを知っているのか。もちろん、僕は反逆者ではないから、知っていることにはならないのだが、大体の人は、そう信じて疑っていない。

 そんなふうに呼ばれることには嫌気が差しているし、うんざりする僕に、その男は嘲るように叫んだ。

「第一王子に暗殺を企ませた淫魔が、警備隊の真似事か!? 偉そうにっ……! 俺たちのことより、自分を地下牢に連れて行ったらどうだ!?」
「……僕、そんなことしてません…………」

 もう言い飽きたことを口にするけど、やっぱりいつものように彼らの勢いは止まらない。

 大体いつもこう。

 警備隊の魔法使いたちが、街中で「淫魔の反逆者」と僕を罵り、見せ物みたいに僕を足蹴にするから、みんな僕をそうだと思い込んでいる。悪事を働いた奴を追っていても、追っている奴らに「極悪人のお前は黙っていろ」、「お前の方が悪人だろう」と言われ、嘲笑される。

「……僕は、反逆も暗殺も、していません」

 いつもの反論を繰り返す。無駄だということは分かっているけれど。

 商人の姿をした男は、僕を指差して言った。

「言っておくが、俺たちは何もしていない!! ただ、回復の薬を売っていただけだ! それをっ……! こんな風に邪魔をして、警備隊に通報してやるからな!」
「……あなた方が、奴隷を拘束するための鎖を持っているのは知っています……それが証拠です……」
「はあ? そんなもの、反逆者のお前の見間違いだ!!」
「……」

 多分、それと同じことを警備隊の連中にも言うんだろう。警備隊も、彼らを本気で取り締まる気なんかない。何しろ、彼らの客には、貴族がいたりするんだから。

 今回も、確たる証拠もなく捕縛したなんて言われて、後で罰を受けるかもしれないけど、こうやって彼らを捕まえることは、僕に出来るせめてもの抵抗なんだ。僕を陥れた貴族たちに対する、小さすぎて効力のない仕返し。

「淫魔がっ……! 国を破壊しようとしたお前が警備だなんて、そんな資格あると思ってるのか!?」

 こうやって、捕縛した奴らに罵倒されるのもいつものこと。もう気にもならない。相手のことは捕縛した。後は、彼らが持っている鎖を、証拠として回収しておこう。

 そう思ったのに、背後から声がした。

「なかなか珍しい魔法を使うじゃないか」
「何してるんですか!!」

 振り向いたら、ロヴァウク殿下が腕を組んで、ことの成り行きを見学している。

 何してんだこの王子! 逃げろって言ったのに!!

「な、なんで……逃げてくださいって、言いましたよね!?」
「ああ、言っていたな」
「き、聞こえてたなら、なんで……逃げていないんですか?」
「貴様こそ。俺はレクレットがエスコートしないと逃げられないと言っただろう。王族である俺に、勝手に逃げろとは何事だ?」
「…………」

 この王子は何を言っているんだろう……僕はただ、危険だから逃げてくれと言っただけなのに、なんで僕が責められているんだろう。エスコートしろなんて言うなら、ちゃんと護衛を連れてきてほしい。

 もうこの男もまとめて捕縛してやりたいが、なんとか抑えて、僕は殿下の説得を試みた。

「……僕は、彼らのことを警備隊の砦まで連れていかなくてはならないのです。だから……え、エスコートは、護衛の方に任せていただけませんか? なんなら僕、呼んでくるので…………護衛の方との待ち合わせの場所を教えてください」
「忘れた」

 嘘つけ。

 あと少しで、そんな言葉と一緒に手が出そうになった。
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