11 / 117
11.誰がこんな奴を
しおりを挟むこんな奴のために焦って入ってきたりして、僕は馬鹿みたいじゃないか。全部分かっててやっているみたいだし、こんな奴、無視しておけばよかった!
「と、とにかく、危険なことは伝えました! ち、ちゃんと逃げてくださいね!!」
急がないと、人が戻ってくる。
だけど、殿下はテーブルについたまま。一向に動こうとしない。
「あ、あのっ……殿下!?? い、急がないと、人が来ますっ……早く逃げないと……」
「レクレットに連れて行かれないと逃げられそうにない」
「……は?」
「俺の護衛は今いない。貴様がエスコートしろ」
エスコートって……なんで僕がそんなことしなきゃならないんだ!!
今だって、椅子に座って足を組んでニヤニヤしているし、絶対に自分で窓から出て逃げられるだろ! それなのに、なんで僕が連れて逃げなきゃならないんだ!!
って言いたい。だけど、相手は王族。滅多なことは言えない……今日の晩はこいつの名前を呼びながら枕を滅多刺しにしてやる!
代わりに今はぐっと堪えて、僕は出来る限り柔らかい言葉を探した。
「こ、困りますっ……! あ、あのっ……! 護衛の方は今どちらにいらっしゃるのですか!?」
「ここではないところで待ち合わせをしている」
「……」
待ち合わせるなよ。護衛の意味がないだろ。なんでそばにいないんだ。
もう本当に呆れてきた。
なんで僕は、こんなムカつく王子の救出まで押し付けられているんだ。護衛はどこへ行った? 今すぐここに来て、この王子を連れて行ってくれ。
「あの……! だったら、護衛の方を呼んでください!! 魔法で……できますよね!?」
「出来るが、呼びたくない。貴様が連れて行け」
「僕は反逆者ですよ!?」
「そうなのか?」
「あっ……いやっ……ほ、本当は違うけどっ……!! そうじゃなくて、ぼ、僕らは……その……討伐隊の座を争っているわけで、言わば……あの……えっと……敵? ですよね?」
「ああ。そうだな。しかし、俺は今、怯えて動けないんだ。助けるのが道義ではないか?」
「……」
じゃあ護衛を呼べよ。だいたい、どのあたりが怯えているのか言ってみろ。むしろ、すごく楽しそうに見えるんだが。
何がそんなにおかしいのか、ロヴァウク殿下はずっとニヤニヤしてる。
こんな時にそんなわがままを言っている場合ではないと思うんだが。やっぱり僕をからかっているのか?
「…………あ、あのっ……! 動けますよね?」
「立てない。足が震えているだろう?」
「どこがだ……」
「何か言ったか?」
「……い、いいえ…………」
正直、ここに放っていきたい。しかし、そんなことをすれば、殿下は奴隷として売られてしまうかも知れない。
偉そうに腕なんか組んでいる殿下だけど、魔法の道具で拘束されて従属を命じられたら、従わざるを得ないはずだ。
「殿下は、ご存知ないのです……魔法で従属させられて弄ばれるのが、どれだけ恐ろしいか……」
「……」
「……わ、分かりました。早く逃げないと、奴らが戻ってきます! 僕が案内します! ま、窓から逃げますが……歩けますか?」
「……ああ。貴様に俺を担ぐのは無理そうだからな」
「……」
僕に自分を担がせるつもりだったのか? 誰がこんな男を担ぐもんかっ…………!
155
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる