虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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10.ちゃんと困ってるんですか?

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 二人のあとをつけていると、ロヴァウク殿下と商人風の男は、表向き酒場に見えるような店に入っていく。
 
 僕は王子の後をつけて、店の前に降りた。

 窓にカーテンはかかっていない。人通りが全くないからと油断しているのか?

 窓から店内を覗くと、王子はすすめられるがままに店内に案内され、テーブルについている。腕なんか組んで平然としているところを見ると、状況が分かっているとは思えない。

 王子をここまで連れてきた男は「しばらくここで待っていてくれ」と言って、店の奥に入っていく。その男の腰の辺りに、鎖のようなものが見えた。あれは、奴隷を拘束するための魔法がかかったものだ。

 ってことは、あいつ、詐欺師じゃなくて人買い!?? 人をさらって奴隷として売っているんだ。

 最悪じゃないか。このままじゃ、紛い物を法外な値段で売りつけられるどころか、殿下自身が売り物にされる!!

「ちょっ……ライイーレ殿下!! ロヴァウク殿下が売られちゃいそうです! ライイーレ殿下!??」

 リュックを開くと、ライイーレ殿下は、いつの間にかリュックの中にいくつもタオルを敷いて、勝手にベッドを作って熟睡している。
 気持ちよさそうに寝息を立てているが、第五王子が奴隷になっちゃってもいいのか!?

「ら、ライイーレ殿下! 起きてください! 殿下!」

 体を揺すってみても、殿下は起きそうにない。

 こんな奴を次期国王に推して、勝手に後継者争いを始めて勝手に逃げ出して勝手に僕に全部押し付けて逃げた貴族の連中を殴ってやりたい。
 おかげで僕は、ライイーレを次期国王にするために暗殺の用意をした反逆者だ。
 貴族たちは、彼がとりあえず王座に座っている王になってくれれば、それで満足だったのだろう。お飾り国王を擁立して主権は全部自分たちの手に、なんて計画は勝手に立てればいいが、なぜ僕がその後始末を押し付けられてるんだーーーー!!

 この王族どもっ……!! 何で僕一人でこんなことしてるんだ!!

 ロヴァウク殿下のことは気に入らないが、そういう問題じゃない。さすがにもう放っておけない。

 奴隷を使うことも売買も、既に禁止されている。けれど、取り締まりの目を逃れてああいうことをする輩はいる。そもそも、貴族たちが奴隷廃止には否定的なんだから、なかなかなくならないんだ。

 このままだと、ロヴァウク殿下は身ぐるみ剥がれて売られてしまう。
 そんな風に扱われて怯える気持ちを、僕はよく知っている。早く助けなくちゃっ……!

 部屋の中には、椅子にどかっと腰掛けて偉そうに腕を組んでいるロヴァウク殿下だけ。今のうちに、ロヴァウク殿下を連れ出すんだ!

 僕は、殿下にだけ聞こえるように力を調整して、窓を軽く叩いた。下手に大きな音を立てると、人買いの連中に気づかれる。

 コンコンと窓を叩くのに、王子はちっとも気づかない。

 おかしいだろっ……窓から殿下の座っているところまで、そんなに離れていない。ちょっと椅子を引いて窓の方に振り向けば、すぐに僕と目が合う距離なのにっ……!!

「で、殿下っ……ロヴァウク殿下!! き、聞こえないんですか!??」

 ついには小声で彼を呼ぶけど、やっぱりロヴァウクは気づかない。

 もしかして、ああ見えて怯えているのか!?? 本当は怖がっているのかもしれない。怖くて僕には気づかないのかもしれない。

 くそっ……! 街を離れる前に面倒ごとはごめんだったのにっ……! 仕方がない!

 僕は、窓に魔法をかけて鍵を開けると、そこから部屋の中に入った。

「殿下! ロヴァウク殿下!」

 駆け寄ると、やっと殿下は振り向いた。そして、僕の顔を見るなり、にやーっと笑う。

「遅いぞ。捨てられ人族」
「そ、その呼び方やめてください!! お、遅いって……」
「さっさと入ってくればいいものを、なぜもたもたしていた?」
「気づいていたんですか!??」
「ああ。レクレットが屋根から俺をこそこそと付け回している時からな」
「そ、そこから!?? じゃあ何で気づかないふりなんて……」
「貴様こそ。昨日俺は、一緒に発とうと言っただろう。なぜ勝手にあの砦を出た?」

 この王子っ……!! 僕は本気で心配したのにっ……!! 何やってるんだ! 気づいているならさっさと逃げろよ!

 もう怒鳴りつけてやりたいが、そんなことをすれば、さっきの商人たちが戻ってくる。
 王子を守りながら、こんな狭いところで大人数を相手に戦うなんて、僕が圧倒的に不利。とにかく早く王子を逃さなくては。

「ぼ、僕は、あなたと行くとは言っていませんし……だいたい、僕らは、荒野の城にたどり着いたら、使える方を討伐隊に参加させるって言われてるんですよね? だ、だったら……な、仲良く一緒に行くのもおかしいはずですっ……そ、そんなことよりっ……!」
「そんなことを言いながらも、俺をつけてきたではないか。俺が気になっていたのだろう?」
「き、競争相手なんだから、気になるのは当然です! そんなことより、今すぐここを出てください! あいつら、人買いです!」
「そうか。それは困った」
「そ、それは困ったって……ち、ちゃんと困ってるんですか?」
「ああ、もちろんだ。全く気づかなかった」

 嘘つけ。ニヤニヤ笑って僕を見上げながら、何言ってるんだ……こいつ。さては、それも気づいていたな!!

「さっさと助けに来い。レクレット」
「…………」

 もう二度と、こんな奴助けない……
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