14 / 20
二章
14.もう帰りたい……
しおりを挟む滑り込んだ先は、思いのほか広い部屋だった。
いくつも棚が並んで、その棚には初めて見る形の瓶が並んでいる。
奥にあった机には、山積みの本があって、メティリートは、それを取りに来たみたいだ。俺が入ってきたことには全く気づいていないらしく、早足で奥の机まで行くと、本を開いて熱心に読み耽っているよう見えた。
「おいっ……! メティリート!!」
「うわあああああっっ!!」
メティリートは、めちゃくちゃ大きな声を上げてのけぞっている。後ろから声をかけて、驚かせてしまったらしい。
あ、あんまり大きな声は苦手だ……頭に響いてくらくらする……
「そんなに驚かなくてもいいだろ……」
長い耳を両手で抑えていたら、ますます頭が痛くなりそう……
だけど、メティリートには聞こえていなかったらしい。キョロキョロしている。
「な、なに!? 今の……」
「お、俺だよ……俺……」
俺が床の上からもう一回声をかけると、メティリートはやっとこっちに振り向いた。
「え……? さっきのうさぎさん!?」
「うさぎじゃねえ……ダフィトだ。そんなにびっくりすることねーだろ……」
「だって……なんでこんなところにいるの?」
「落ち着けよ。お前をどうこうしようなんて、思ってないから……」
「バティラート様に、処分って言われたんじゃなかったの?」
「い、言われたけど……逃げてきた!! お前に頼みがあるんだ! フィアデスがどこに連れて行かれたか、教えてくれ!!」
「……フィアデスが? どこかに連れて行かれちゃったの……?」
「バティラートが、拷問部屋に連れてけって言ってた! このままだと、あいつまで殺されるんだ!! 助けてくれっ……!! 頼むっ!!」
「……」
けれどメティリートは、俯いて目を背けた。
「僕には、フィアデスがどこに連れて行かれたかなんて分からないし、今……僕には、することがあるんだ」
「はあ!? なんだよそれ! それ、フィアデスの命より大事なのか!?」
「それは……」
メティリートの視線が、チラッと机のほうに向かった。なんで本なんか気にしてるんだ? そんなに大事な本なのか?
「……なあ……その本、なんだ?」
「え!?? なんでもないっ……ちょっ……!」
そいつが誤魔化そうとしている隙に、俺は本に飛びかかった。
すぐにメティリートは俺を払い退けて本を取り上げてしまうけど、チラッと少し見えた本には、結界を破って人の息の根を止める魔法、いわゆる暗殺の魔法のことが書かれているようだった。
メティリートは、本を抱きしめて、俺に振り返る。
「うさぎさん……困るよ……」
「……なんでお前、そんな魔法の本、読んでるんだよ……?」
「……」
メティリートは、俺から目を背けたまま、何も言わない。
って、ことは……やっぱりそういうつもりなのか!?
「暗殺って、まさか……さっきのバティラートのこと……」
言いかけた俺に向かって、メティリートが手を伸ばしてくる。間一髪で避けたけど、そいつは尚も俺を捕まえようと迫ってくる。
「待ってよ……うさぎさん…………」
「お、落ち着けって……!! 俺はお前が何してようが、どうでもいいんだって!! フィアデスを助けたいだけだ!」
「……それでも、知られたからには放っておけないよ……」
こいつっ……!! 気弱そうなふりして、追ってくる時の目が怖い!
部屋の中をぴょんぴょん飛び回りながら逃げる俺だけど、メティリートは、俺が逃げられないよう魔法でドアを閉めてしまう。
「待ってよ……」
「ほ、本当に落ち着け!! 俺はお前のしてること話したりしねえから!! 本当にフィアデスを助けたいだけなんだ!!」
「待ってーー」
「迫ってくんな! 怖いから!!」
くっそっ……! 魔法は使えないしウサギだし、反撃する手立てがない!
めちゃくちゃに部屋の中を逃げ回るうちに、棚の瓶は落ちて割れるわ、本は全部床に落ちるわ、すごい騒ぎだ。
そしてその騒ぎが外まで聞こえてしまったらしく、どんどんと、激しくドアを外から叩く音がした。
「メティリート! メティリート!! そこにいるのか!! うるさいぞ!!」
この声、バティラートだ!!
うわああああああ!! こんなところ見られたら死ぬっ!!
俺は慌てて、机の下に隠れた。メティリートも、本を透明に変えて、俺に振り向く。
「声を出さないで」
「言われなくても、誰が出すか!! お前もいうなよ!」
机の下にはちょうどよく、俺が隠れていられそうな木箱がある。
その中に滑り込むと、メティリートがドアを開ける音がした。
「申し訳ございません。バティラート様……」
「遅いぞ……俺がきたらすぐ開けろ」
「はい……」
「何をしていた? なんの騒ぎだ!!」
「……虫が出たので、追い払おうと思い、追いかけていました……騒ぎを起こすつもりはなかったのですが、逃げ回るので、こんな騒ぎになってしまいました」
「……」
バティラートの返事は聞こえない。しかも、足音がこっちに近づいてくる!!
俺はその場で身を縮めて、音を出さないようにしていた。
なんだこの城……まだ来たばっかりだけど、今すぐうちに帰りたい……
じーっとしていると、バティラートの声がした。
「……ここを片付けておけ」
離れていく足音。バタンと扉が閉まる音もした。
どうやら助かったみたいだ。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる