断罪された俺はあんまり知らない人と旅に出たけど、なんとかして取り入らないと詰む

迷路を跳ぶ狐

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二章

14.もう帰りたい……

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 滑り込んだ先は、思いのほか広い部屋だった。
 いくつも棚が並んで、その棚には初めて見る形の瓶が並んでいる。
 奥にあった机には、山積みの本があって、メティリートは、それを取りに来たみたいだ。俺が入ってきたことには全く気づいていないらしく、早足で奥の机まで行くと、本を開いて熱心に読み耽っているよう見えた。

「おいっ……! メティリート!!」
「うわあああああっっ!!」

 メティリートは、めちゃくちゃ大きな声を上げてのけぞっている。後ろから声をかけて、驚かせてしまったらしい。

 あ、あんまり大きな声は苦手だ……頭に響いてくらくらする……

「そんなに驚かなくてもいいだろ……」

 長い耳を両手で抑えていたら、ますます頭が痛くなりそう……

 だけど、メティリートには聞こえていなかったらしい。キョロキョロしている。

「な、なに!? 今の……」
「お、俺だよ……俺……」

 俺が床の上からもう一回声をかけると、メティリートはやっとこっちに振り向いた。

「え……? さっきのうさぎさん!?」
「うさぎじゃねえ……ダフィトだ。そんなにびっくりすることねーだろ……」
「だって……なんでこんなところにいるの?」
「落ち着けよ。お前をどうこうしようなんて、思ってないから……」
「バティラート様に、処分って言われたんじゃなかったの?」
「い、言われたけど……逃げてきた!! お前に頼みがあるんだ! フィアデスがどこに連れて行かれたか、教えてくれ!!」
「……フィアデスが? どこかに連れて行かれちゃったの……?」
「バティラートが、拷問部屋に連れてけって言ってた! このままだと、あいつまで殺されるんだ!! 助けてくれっ……!! 頼むっ!!」
「……」

 けれどメティリートは、俯いて目を背けた。

「僕には、フィアデスがどこに連れて行かれたかなんて分からないし、今……僕には、することがあるんだ」
「はあ!? なんだよそれ! それ、フィアデスの命より大事なのか!?」
「それは……」

 メティリートの視線が、チラッと机のほうに向かった。なんで本なんか気にしてるんだ? そんなに大事な本なのか?

「……なあ……その本、なんだ?」
「え!?? なんでもないっ……ちょっ……!」

 そいつが誤魔化そうとしている隙に、俺は本に飛びかかった。

 すぐにメティリートは俺を払い退けて本を取り上げてしまうけど、チラッと少し見えた本には、結界を破って人の息の根を止める魔法、いわゆる暗殺の魔法のことが書かれているようだった。

 メティリートは、本を抱きしめて、俺に振り返る。

「うさぎさん……困るよ……」
「……なんでお前、そんな魔法の本、読んでるんだよ……?」
「……」

 メティリートは、俺から目を背けたまま、何も言わない。

 って、ことは……やっぱりそういうつもりなのか!?

「暗殺って、まさか……さっきのバティラートのこと……」

 言いかけた俺に向かって、メティリートが手を伸ばしてくる。間一髪で避けたけど、そいつは尚も俺を捕まえようと迫ってくる。

「待ってよ……うさぎさん…………」
「お、落ち着けって……!! 俺はお前が何してようが、どうでもいいんだって!! フィアデスを助けたいだけだ!」
「……それでも、知られたからには放っておけないよ……」

 こいつっ……!! 気弱そうなふりして、追ってくる時の目が怖い!

 部屋の中をぴょんぴょん飛び回りながら逃げる俺だけど、メティリートは、俺が逃げられないよう魔法でドアを閉めてしまう。

「待ってよ……」
「ほ、本当に落ち着け!! 俺はお前のしてること話したりしねえから!! 本当にフィアデスを助けたいだけなんだ!!」
「待ってーー」
「迫ってくんな! 怖いから!!」

 くっそっ……! 魔法は使えないしウサギだし、反撃する手立てがない!

 めちゃくちゃに部屋の中を逃げ回るうちに、棚の瓶は落ちて割れるわ、本は全部床に落ちるわ、すごい騒ぎだ。

 そしてその騒ぎが外まで聞こえてしまったらしく、どんどんと、激しくドアを外から叩く音がした。

「メティリート! メティリート!! そこにいるのか!! うるさいぞ!!」

 この声、バティラートだ!!

 うわああああああ!! こんなところ見られたら死ぬっ!!

 俺は慌てて、机の下に隠れた。メティリートも、本を透明に変えて、俺に振り向く。

「声を出さないで」
「言われなくても、誰が出すか!! お前もいうなよ!」

 机の下にはちょうどよく、俺が隠れていられそうな木箱がある。

 その中に滑り込むと、メティリートがドアを開ける音がした。

「申し訳ございません。バティラート様……」
「遅いぞ……俺がきたらすぐ開けろ」
「はい……」
「何をしていた? なんの騒ぎだ!!」
「……虫が出たので、追い払おうと思い、追いかけていました……騒ぎを起こすつもりはなかったのですが、逃げ回るので、こんな騒ぎになってしまいました」
「……」

 バティラートの返事は聞こえない。しかも、足音がこっちに近づいてくる!!

 俺はその場で身を縮めて、音を出さないようにしていた。

 なんだこの城……まだ来たばっかりだけど、今すぐうちに帰りたい……

 じーっとしていると、バティラートの声がした。

「……ここを片付けておけ」

 離れていく足音。バタンと扉が閉まる音もした。

 どうやら助かったみたいだ。
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