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二章

10.城です

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 確かにケトラの姿を見たような気がしたんだけどな……やっぱり俺の気のせいか?

 不思議に思いながら頭をかいた。

 ケトラがまだこんなところにいるわけないしな……

 そしたら、メティリートがじっと俺を見下ろしていることに気づいた。

「なんだ?? 俺になんか用か?」
「……」

 無言で、さっとフィアデスの後ろに隠れるメティリート。

 ……俺、そんなに変なこと聞いたか?

「そんなに怯えなくても、何もしねえよ……俺はダフィト。こんななりしてるけど、人族だ! よろしくな!!」
「…………僕はメティリート……君は、なんでフィアデスといるの……?」
「城からの任務で、廃墟の街の魔法使いにリストのものを借りにきたんだ!! そうだ!! お前も知らないか!? ここにリストが……」

 リュックを下ろして中に入ってるはずのリストを探すけど、なかなか見つからない。

「…………えーっと……」
「……もうリストはいいよ。貸してなんかくれないと思うし……」
「なんだよ! お前もそんなこと言うのか!?」
「だって……」

 言いかけて、メティリートは口を噤んでしまう。よほどその魔法使いのことが怖いのか?

 すると、その様子を見たフィアデスが、呆れたようにメティリートに言った。

「そのウサギのことは無視していーぞ……それより、目当てのもん見つかったのなら、送ってやるからさっさと帰れ……魔物が出てくるかもしれねぇだろ……」
「ありがとう…………でも、その人、そのままでいいの?」

 メティリートが、俺に振り向く。もちろん、いいはずがない。よくないって怒鳴るけど、フィアデスは全然聞いてない。

「いいだろ。別に……」
「よくねえよ!! 戻せって言ってるだろ!!」

 怒鳴る俺を、フィアデスはつまみ上げると、メティリートを睨んで言った。

「ここで見たことは黙ってろよ」
「えぇー……僕を巻き込まないでよ……」

 ぶつぶつ言ってるメティリートの手を取り、フィアデスは魔法を使って空に飛び上がる。もちろん俺のことは、うさぎにしたまま。どういうつもりだ。こんな姿でその怖い魔法使いの前に行ったら、俺だけ死ぬんじゃないか?

「お、おいっ……!! 待てよ!! 離せって! せめて元に戻せ!!」
「……黙ってろ。死にたくなかったらな……」
「ああ!?」

 なんだよこいつ!! 脅しか!?

 腹は立つけど、フィアデスがこれまでとは違う、冷たいくらいに真剣な顔をしているから、俺は何も言えなくなってしまった。







 空を飛んだフィアデスに連れられて、森の上をしばらく行くと、壊れた建物がいくつも見えてきた。どれもこれも、魔法で爆破されたのか、屋根が全部吹っ飛んでいたり、壁に大穴が空いていたり、何だか寂しい雰囲気だ。街って感じじゃないな……人の気配もしない。

 どうしよう……もう城に着くんだよな。そんなところに着いちゃったら、俺は死刑なんじゃないのかーー!?

 慌てる俺だが、ウサギの姿でフィアデスにつかまっていたら何もできない。下手に暴れて落ちたら死ぬし……どうしたらいいんだ。

 廃墟が幾つも点在する辺りを超えていくと、大きな城が見えてくる。
 その頃には雨が降り出していて、暗い森の中にひっそりと立その城は、ますます寂しいものに見えた。

 ここが、城……? なんだか怖え……

 しんと鎮まり帰っていて、俺たちが近づいても、誰も出てこない。

 城門には魔法がかけられているのか、本来なら、帰ってきた人や来客を迎える扉があるはずのところは、巨大な岸壁に姿を変えていた。あれじゃ空を飛ばないと誰も城門の中に入れない。

 フィアデスも、魔法で城門を越えて城の敷地内に入ると、そこで羽をたたんだ。

 そして、俺のことを地面に下ろして凄んでくる。

「……命が惜しけりゃ、そこでウサギのフリしてろ」
「へ?」
「黙ってついてこいって言ってるんだ。今度話したら、もう助けねえぞ……」
「……」

 話すなって言われてるのは分かったから、無言でフィアデスを見上げた。
 だけどフィアデスは、何も言わずに城に向かって歩き出してしまう。

 メティリートは、心配そうに俺とフィアデスを交互に見て、フィアデスについて歩き出した。
 
 城の扉は、フィアデスが近づくと、勝手に開く。
 中に入ると、大きな窓だけがある暗い広間だった。そこに、一人の男が立っている。

 真っ黒なローブを着た、黒髪の背の高い男だ。その男は、メティリートを見るなり駆け寄ってきた。

「メティリート!! よ、よかった……生きていたんですね……」
「ゴメットル……心配してくれたの? ちゃんと生きているよ……」
「だって、一人で森へ行ったっていうから……」
「大丈夫。フィアデスが手伝ってくれたんだ……」
「フィアデスが……?」

 するとその男は、敵意のこもった目で、フィアデスを睨みつける。

「……あなたはあの領主の城へ偵察へ行っていたのではなかったのですか?」
「……失敗した。バレそうになったから、帰ってきた」
「失敗!?」

 すると、その男は、急にメティリートの手を引いて奥に連れて行こうとする。

「行きましょう。メティリート。その男は、失敗したんです」
「でも……」
「早く!」

 強く言われて、メティリートは多少悩んだ様子を見せながらも、その男にされるがままに連れて行かれた。

「なんだ……? あいつら……」

 二人が去って行った方を見つめながら俺がいうと、フィアデスは疲れた様子で言った。

「黙ってろって言っただろ……今度話したらもう助けねえからな……」

 彼は、広間の奥にあった扉を開いて、城の中に入っていく。なんだか、森の中で会った時より、ずっとぐったりして見えた。
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