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一章

6.後でなんとかなるって

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「バーカっ……このっ……! 馬鹿!!」

 呆れたように言って、フィアデスが、俺をキノコの破片の山の下から引き摺り出してくれる。

 ひ、ひどい目にあった……キノコに押し潰されて死ぬなんて、嫌すぎる。お、思ったより重い……このキノコ。

 自分で砕いたキノコに潰されそうになった俺を見かねたのか、フィアデスは俺をキノコの下から引っ張り出してくれた。

「てめえで砕いたキノコに潰されるって……どんだけバカなんだ……」
「ば、バカじゃねえって……い、いたっ……! おい!! 強く引っ張るな!! 腕が取れたらどうするんだ!」
「知らねえよ!! バラバラにして引っ張り出してもいいんだぞ!!」
「……」

 キレたフィアデスは、本当にそうしそうな勢いで怒鳴ってる。怖くて大人しくなる俺。情けねー……

 だけどこいつのおかげで、キノコに押し潰されなくて済んだ。自分では泥棒みたいに言ってるけど、そんなに悪い奴じゃないのかもしれない。

「や、やっとでられた……わ、悪い……フィアデス……助かった……」
「るせえ……このバカ!!」
「だけどみろよ!! キノコ取れたぞ!!」
「……てめえは自分を押し潰したもんを食いてえのか……」

 フィアデスは呆れたように言うけど、背に腹は変えられない。キノコがこれだけあれば、腹一杯になるはずだ!

 俺はキノコを一個掴んで、そいつの鼻先に突き出した。

「ほら!! 一緒に食おうぜ!!」
「近づけんな!!」
「なんでだよ? まさかこれ、毒キノコなのか!?」
「……一応食えんだろ……だが、まだ動くかもしんねえぞ」
「大丈夫だよ!! こんだけバラバラにしたしな!! じゃー、早速焼くか!!」

 俺は、ずっと担いでいたリュックを下ろした。

「時間なくて大した道具も持ってこれなかったけど……これだけは忘れなかったんだ!!」
「……どうせ、回復効果のある武器だろ……回復魔法使えないもんな。お前」
「フライパンだ! あと、醤油!!」

 リュックの中から出したのは、俺の愛用のフライパンと、お気に入りの醤油。あと、油!!

 これから飯を作るのに絶対に必要なものなのに、フィアデスは俺を怒鳴りつける。

「馬鹿かてめえ! 回復の魔法使えねえくせに、何無駄なもん持ってきてんだ!! ……まさかこの醤油、回復効果のある醤油か?」

 そいつは、俺が出した醤油の瓶をまじまじと見つめている。

「何言ってんだよ。それはただの醤油に決まってるだろ?」
「……頭ん中に毛玉でもつまってんのか? じゃあ、そのフライパンはなんだ? そっちが回復の……」
「正真正銘の調理器具だ」
「……」
「見てろよ!」

 俺は、周りの草と枯れ木を集めて、魔法で火をつけた。それでフライパンを炙りながら油を敷いてキノコを乗せる。四角く切ったキノコは、こうして焼いていると、まるで肉の塊だ。油が跳ねて、うまそうな匂いがする。醤油で味付けをして、完成だ。

「見てみろ!! 醤油があれば、こんなもんもすぐ作れるんだぞ! 調味料なかったら、現地で調達しなきゃならないだろ? 回復の方は、後でなんとかなるって」
「醤油の方が後でいいだろ……」
「こんな山奥で醤油が手に入るわけないだろー? だいたい、回復なら、実際に調達できたじゃないか!」
「ああ??」
「お前だよ! お前!! 俺のこと、助けてくれただろ!?」
「……俺の話聞いてたか? 俺はお前の領主から、本盗もうとしてたんだぞ」
「そ、それは……確かに聞いた。領主様にも報告する。だけど、お、お前が悪い奴って思えないし……俺、廃墟の街の場所も知らないし……」
「お前……そんなことも知らずにでてきたのか……」
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