上 下
5 / 20
一章

5.腹が減ってるんだ

しおりを挟む

「待てよ!! そ、そんなこと言われて、このまま帰せるわけないだろ!」

 慌てて、去って行こうとするフィアデスの手を取ると、そいつは鬱陶しそうに振り返る。

「……なんだよ! うぜえな!」
「だ、だってお前、領主様から盗みを働こうとしたんだろ!? そんなの……放っておけるわけねえだろ!!」
「てめえがどうだろうが、俺には関係ねえ。消えろ」
「待てって!」
「……」

 俺がそいつの手を取ると、そいつは急に大人しくなった。また振り払われるんじゃないかと思ったけど、じーっと俺を睨んでくる。

「……確かに、てめえみてえな馬鹿をあの町に入れるわけには……」
「え……?」
「ここで殺して行くか」
「は!? ま、待てよ! 何でそうなるんだよ!!」

 俺は焦った。だっていつも領主様の隣にいたような奴と俺がやり合って、勝てるはずがない。

 離れようとした俺の胸ぐらを、フィアデスが掴んで、拳を振り上げる。だけど、そんな事態だっていうのに腹は減る。

 緊迫した俺とそいつの間に、俺の腹の音が鳴り響いた。

 フィアデスが呆れたように言う。

「……お前、こんな時に何腹すかせてんだ……」
「だ、だって、朝から何も食ってないし……お、お前だって腹減ってんだろうが!! さっき腹鳴ってたの聞いたぞ!! 聞き流してやったけど!」
「……うるせえ……」

 フィアデスは、顔を赤くして俺から顔を背ける。腹の音聞こえたってのは、適当に言った嘘なんだが……言わない方がいいよな。

「そうだ!! だ、だったら、飯だ!! 飯を作ろう!!」
「はあ? お前……魔物と魔獣の森で飯食う気かよ……」
「だ、だってこのままじゃ、腹減って動けねえし……飯を食ってから考えるんだ! 俺だってそんなの聞いたら、お前を放っておけねえからな!」
「うぜえ……」
「お、お前だってこの先、何も食べずに行く気かよ!? 見てみろよ! 周りにいっぱいキノコ生えてるだろ!?」

 俺は、川の流れてくる方を指差した。岩ばかりの上流のあたりに、不思議な形をしたキノコがいくつも生えている。全部見たことないし、俺の身長の倍くらいある大きなキノコだが、多分大丈夫だろ!!

「見てろよ! 俺がうまく調理してやるから!」

 俺はフィアデスに手を振って、生えているキノコに近づいた。

 それは見上げるほど大きいキノコで、ちょっと毒々しい色をしているけど、いつも鍋に入れているキノコに似ている気がする!! きっと食えるはずだ!!

 魔法で巨大な斧を作り出し、振りかぶった斧で、キノコの根元を切る。するとそれは大きく揺らいだ。

 そしたら、背後から呆れたような声がする。

「おい……そこの雑用係」
「ああ!? 今度それ言ったらわけてやんねえぞ!!」
「……それ、魔物だぞ」
「は!?」

 え? そうなの?

 って思って見上げた時にはもう遅い。切り倒したと思っていたキノコはぐらぐら動いて、ぽよんと飛び上がった。

「は!? な、なんだこれ!!!」
「だから言っただろ……バーカ……」

 フィアデスだけ、すでに遠くの方まで逃げている。あいつ、ずるい……

 キノコはまるでスライムみたいに跳ねて、俺の方に向かってきた。あんなもんにぶつかられたら潰されて死ぬ!!

 慌てて逃げ出す俺。高く飛び跳ねて俺に迫ってくるキノコ。

 なぜかキノコが追いかけてるのは俺だけで、ちょっと離れたところで、さっきから瓶に入れた川の水飲んでるフィアデスのことは、まるで相手にしていない。

「だから言っただろ。さっさと魔力消せ」
「はあ!? どういうことだよ!! なんで俺ばっか追ってくるんだ!??」
「んなこともわかんねえのか……魔力使ってるからだ。お前のその斧の魔力に引き寄せられてんだよ。魔物相手にする時は、魔力の気配を悟られない結界を自分の周りに張る。基本だろ」
「ああ!? 馬鹿はてめえだ!! んなもん張れたらとっくに張ってるわ!」
「はあ!? お前、そんなもんも張れないのか!?」

 だって俺、ずっと雑用だったし、たまにむかってくる魔物は魔力がほとんどないものばかりだったから、全く困らなかったんだ。それなのになんでこんなもんに追われてんだ。

「うわっ……!」

 キノコが俺に飛びかかってくる。すんでのところで避けて、俺はキノコと対峙した。

「見てろよ……こうなったら……!」

 担いだ斧を武器に、俺はキノコに飛びかかった。跳ねたキノコにのしかかられ、押し潰されそうになったが、すでにキノコには斧がめり込んでいる。

 相手はただのキノコだ。押し潰してくる以外、魔法みたいなものは使ってこない。だったら何度も切りつければ、細かく刻んで料理できるはずだ!!

「来いよ……俺は腹が減ってんだ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを極めた最強の俺が次に目指したのは、最弱でした。

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
生まれながらにして圧倒的な力を持ち、「最強」と称される少年・天城悠斗(あまぎゆうと)。彼はどんな試練も容易に乗り越え、誰もが羨む英雄の道を歩んでいた。しかし、ある日出会った少女・霧島緋奈(きりしまひな)の一言が彼の運命を大きく変える。 「弱さは、誰かを頼る理由になるの。それが、私の生きる強さだから」 ――その問いに答えを見つけられない悠斗は、強さとは無縁の「最弱」な生き方を目指すと決意する。果たして、最強の男が目指す「最弱」とは何なのか?そして、その先に待つ真実とは?

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...