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一章
5.腹が減ってるんだ
しおりを挟む「待てよ!! そ、そんなこと言われて、このまま帰せるわけないだろ!」
慌てて、去って行こうとするフィアデスの手を取ると、そいつは鬱陶しそうに振り返る。
「……なんだよ! うぜえな!」
「だ、だってお前、領主様から盗みを働こうとしたんだろ!? そんなの……放っておけるわけねえだろ!!」
「てめえがどうだろうが、俺には関係ねえ。消えろ」
「待てって!」
「……」
俺がそいつの手を取ると、そいつは急に大人しくなった。また振り払われるんじゃないかと思ったけど、じーっと俺を睨んでくる。
「……確かに、てめえみてえな馬鹿をあの町に入れるわけには……」
「え……?」
「ここで殺して行くか」
「は!? ま、待てよ! 何でそうなるんだよ!!」
俺は焦った。だっていつも領主様の隣にいたような奴と俺がやり合って、勝てるはずがない。
離れようとした俺の胸ぐらを、フィアデスが掴んで、拳を振り上げる。だけど、そんな事態だっていうのに腹は減る。
緊迫した俺とそいつの間に、俺の腹の音が鳴り響いた。
フィアデスが呆れたように言う。
「……お前、こんな時に何腹すかせてんだ……」
「だ、だって、朝から何も食ってないし……お、お前だって腹減ってんだろうが!! さっき腹鳴ってたの聞いたぞ!! 聞き流してやったけど!」
「……うるせえ……」
フィアデスは、顔を赤くして俺から顔を背ける。腹の音聞こえたってのは、適当に言った嘘なんだが……言わない方がいいよな。
「そうだ!! だ、だったら、飯だ!! 飯を作ろう!!」
「はあ? お前……魔物と魔獣の森で飯食う気かよ……」
「だ、だってこのままじゃ、腹減って動けねえし……飯を食ってから考えるんだ! 俺だってそんなの聞いたら、お前を放っておけねえからな!」
「うぜえ……」
「お、お前だってこの先、何も食べずに行く気かよ!? 見てみろよ! 周りにいっぱいキノコ生えてるだろ!?」
俺は、川の流れてくる方を指差した。岩ばかりの上流のあたりに、不思議な形をしたキノコがいくつも生えている。全部見たことないし、俺の身長の倍くらいある大きなキノコだが、多分大丈夫だろ!!
「見てろよ! 俺がうまく調理してやるから!」
俺はフィアデスに手を振って、生えているキノコに近づいた。
それは見上げるほど大きいキノコで、ちょっと毒々しい色をしているけど、いつも鍋に入れているキノコに似ている気がする!! きっと食えるはずだ!!
魔法で巨大な斧を作り出し、振りかぶった斧で、キノコの根元を切る。するとそれは大きく揺らいだ。
そしたら、背後から呆れたような声がする。
「おい……そこの雑用係」
「ああ!? 今度それ言ったらわけてやんねえぞ!!」
「……それ、魔物だぞ」
「は!?」
え? そうなの?
って思って見上げた時にはもう遅い。切り倒したと思っていたキノコはぐらぐら動いて、ぽよんと飛び上がった。
「は!? な、なんだこれ!!!」
「だから言っただろ……バーカ……」
フィアデスだけ、すでに遠くの方まで逃げている。あいつ、ずるい……
キノコはまるでスライムみたいに跳ねて、俺の方に向かってきた。あんなもんにぶつかられたら潰されて死ぬ!!
慌てて逃げ出す俺。高く飛び跳ねて俺に迫ってくるキノコ。
なぜかキノコが追いかけてるのは俺だけで、ちょっと離れたところで、さっきから瓶に入れた川の水飲んでるフィアデスのことは、まるで相手にしていない。
「だから言っただろ。さっさと魔力消せ」
「はあ!? どういうことだよ!! なんで俺ばっか追ってくるんだ!??」
「んなこともわかんねえのか……魔力使ってるからだ。お前のその斧の魔力に引き寄せられてんだよ。魔物相手にする時は、魔力の気配を悟られない結界を自分の周りに張る。基本だろ」
「ああ!? 馬鹿はてめえだ!! んなもん張れたらとっくに張ってるわ!」
「はあ!? お前、そんなもんも張れないのか!?」
だって俺、ずっと雑用だったし、たまにむかってくる魔物は魔力がほとんどないものばかりだったから、全く困らなかったんだ。それなのになんでこんなもんに追われてんだ。
「うわっ……!」
キノコが俺に飛びかかってくる。すんでのところで避けて、俺はキノコと対峙した。
「見てろよ……こうなったら……!」
担いだ斧を武器に、俺はキノコに飛びかかった。跳ねたキノコにのしかかられ、押し潰されそうになったが、すでにキノコには斧がめり込んでいる。
相手はただのキノコだ。押し潰してくる以外、魔法みたいなものは使ってこない。だったら何度も切りつければ、細かく刻んで料理できるはずだ!!
「来いよ……俺は腹が減ってんだ!!」
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