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一章
1.無理難題じゃね?
しおりを挟む「……本当に、約束してくださいますか?」
俺が聞くと、相手の男、ランファルジさんは、もちろんだって言ってくれた。
「ちゃんと今回の任務を果たしたら、お前の失敗はなかったことにしてやる」
「……なかったことって……俺は最初から……」
「ああ、そうだったな。もちろん、信じている。私がお前の言うことを疑うはずがないだろう?」
「……はい」
それを聞いて、安心した。ランファルジさんが言うんだ。この人の言うことなら、信じられる。
俺はダフィト。領主様に仕える人族の魔法使いだ。というと、領主の下で戦うエリートだと見られがちだが、俺は雑用係。やることは、魔法の道具を作るための素材集めや魔物の出現で傷ついた街の補修、壊れた街道の補修。その中でも主な仕事は、領主様の城の中心あたりに位置する、武器庫の番だった。武器庫といっても、武器だけではなく、魔法の書物や魔法薬といった、魔法に関するものが全て保管されている。
手入れなんかも全部任されていたから、それなりに大変だったし、大した魔法も使えないが、下手くそながらも、なんとかやってきたと思ってる。一生懸命やってきたつもりだ。
だけどある日、武器庫で事件が起こった。そこで保管されていた武器の一つが破裂して、破片が周りに飛び散り、武器庫もそこに保管してあった他の物も破壊してしまったんだ。
武器の破裂なんて聞いたことない。魔法の力を持った武器ではあったけど、それが破裂したなんて話は初めて聞いた。
そのせいで、俺が武器庫をわざと壊したんじゃないかなんていう噂が立った。俺は違うって弁解したが、誰も信じてくれない。
結局こうして隊長の部屋に呼び出されて、懲罰の代わりみたいに任務を言い渡された。
いつもなら、目上のランファルジ副隊長に会う時は、身だしなみくらい整えるんだが、今日はクセのある茶髪をとかす間もなくここに呼ばれたせいで、ショートカットの髪はぐちゃぐちゃだし寝不足で普段からいつも「睨んでるの?」って聞かれるくらい悪い目つきがますます悪くなっている。朝から最悪だ……
だけど、隊長の隣にいるランファルジ副隊長だけは、濡れ衣だって信じてくれた。
金色の長い髪を大きなリボンで結んだ背の高い男の人で、俺を領主様の魔法使い部隊に誘ってくれた人でもある。この人だけは、俺を信じてる。そう思うと、少し心が軽くなった。
だけど、ランファルジさんの隣にいるゲングート隊長は、俺の顔を見てため息をついた。
「すまないが、こうするしかないんだ」
「俺……本当に何も知りません……」
ずっと繰り返した言葉を、もう一度口に出しても、隊長の態度は変わらない。
隊長は、首を横に振った。
「……それはもう、何度も聞いた。お前には、失われたものの補填を命じる。廃墟の街の魔法使いにあって、破壊された物の代わりになるものを受け取ってこい」
「……そうしなかったら、金で弁償ですか?」
「できるのか?」
めちゃくちゃ意外そうに聞かれた……だけど、それは俺の答えが分かっているからだ。
できるはずない……だって稼いだ給料は全部、ここでの寮費に使っているんだ。だけど、今月分はまだランファルジ副隊長に渡したばかりだから、事情を話せば返してくれるかもしれない。
だけど、ランファルジ副隊長に迷惑かけたくない。それに、寮費は大事だ。俺はまだ、ここにいたい。ランファルジ副隊長にだって、ここに来てからお世話になった分、恩返ししたいからな。
「……分かりました。武器、借りてくればいいんですね」
「……いいや。焼けた書物と魔法薬、素材の代わりもだ。リストを用意した。これを持って、廃墟の魔法使いから必要な物を借りてこい」
ゲングート隊長は難しい顔で、俺にリストを渡してくれる。
「頼んだぞ」
「ま……任せてください!! 俺……頑張ります!」
ペコっと頭を下げて、俺は隊長室を後にした。
廃墟の街なんて行ったことないし、そこにいる魔法使いのことなんて、さっぱりわからないが、任務が終われば、俺の疑いは晴れるんだ。領主様の城を離れるのは心配だが、ちょっと借りてくるだけだ。それくらい、さっさと済ませて戻ってくればいいんだ!
けれど、隊長室を出ると、廊下で数人の魔法使いたちが待ち伏せしていた。
全員、魔法使い部隊の連中だ。一人は先輩のブライパ。大剣を振り回す剣術も使う魔法使いで、長身の彼に見下ろされると、威圧感が凄くて、いつも一歩下がってしまう。短い黒髪の体格のいい男で、逆らったら殴られそうだと言う奴もいる。
後の二人は俺と同じ時期にここに来た、ケトラとキグだ。どちらも、貴族の御令息だって聞いたことがある。ケトラの方は、あまり魔法がうまくない俺をよく馬鹿にしている。伸びたまま切ってない藁みたいな髪を振り乱して、よく賭け事に負けたって大騒ぎしてる細身の男だ。一緒にいるキグは、街へ出れば人が振り返る、長い黒髪の優男だ。
そして三人とも、普段から俺の下手な魔法を馬鹿にしていた奴らだ。笑いにきたんだろう。
「なんか用か?」
疲れもあって、怒りまじりに聞くと、ケトラは、俺を睨みつけてくる。
「俺たちの武器庫を破壊しておきながら、なぜそんなにのんびりしていられるのかと思ってな」
「だからっ……! あれは俺のせいじゃないって言ってるだろ!! 本当に武器が燃え上がって」
「勝手に剣が燃えるはずがないだろ。お前が何かしたんだ」
「俺はっ……!」
「これから出かけるんだろ? 連れていってやるよ」
「お前たちが? 聞いてないぞ」
すると今度は、キグが俺を睨みつけて近づいてくる。
「僕たちがお前を連れて行くことになったんだ……来いよ」
そう言ったキグが、俺に魔法をかける。すると、俺の首に大きな首輪が現れた。それには鎖がついていて、鎖の先をキグが握っている。下手に抵抗したら、多分リンチだ。
「分かったよ……今すぐ準備するから……」
俯いて言う俺を、ケトラは睨んで言った。
「五分でいいな」
「五分!?」
「それだけあれば十分だろ。俺たちは忙しいんだ。さっさと準備しろ」
「……」
五分で、行ったこともない廃墟の街に行く準備をするなんて無茶だ。だけど抵抗すれば、何をされるかわからない……耐えるしかないか……
そいつらは、俺を繋ぐ鎖を引っ張って、俺を連れて行く。
「さっさと歩け!! 罪人に時間割いてやってんだぞ!」
「だからっ……! それは俺じゃねえって……!」
つい言い返す俺を、後ろからケトラが蹴とばす。
「さっさと歩け!! あの武器がないと、みんなが困るんだよ!!」
寮の自分の部屋に連れてこられた俺は、部屋の中に突き飛ばされた。早く準備しないと、手ぶらで放り出されそうだ。
俺を引きずってきたキグが、部屋の外で喚いている。
「はーやくしろー!! 後五秒だぞー」
「分かってるって……」
急かされて、部屋にあるものを適当にリュックに詰める。
安月給だし、たいした荷物なんてない。これからの旅に持っていけそうなものも、ほとんどない。
「おい! 時間だぞ!」
ケトラが叫ぶ声がして、俺の首についた鎖が強く引かれた。そのせいで首輪が食い込んで、俺は何度も咳き込んだ。
くっそ……あいつら、調子に乗りやがって。
腹が立ったけど、俺には抵抗する力もない。荷物を詰めたリュックを担ぐ前に、部屋の外に引っ張り出された。
無理矢理引かれたせいで、転びそうになりながら外に出た俺の腹を、待ち構えていたようにキグが蹴りつける。鳩尾にそいつの足がめり込んで、咳き込みながら見上げた俺を、キグはからかうように見下ろしていた。
「何分待たせてんだよ……グズ」
「……五分で準備なんて無理があるだろ……せっかちすぎんだよ。お前ら」
次は背後から蹴飛ばされた。ケトラだ。こいつ……思いっきり蹴ったな……
「俺らがせっかちなんじゃなくて、てめえが鈍いんだ。俺たちだって、暇じゃないんだぞ」
「…………わーってるよ……」
答えた俺の鎖を、ブライパが強く引く。
「ぐっ……うっ……」
「早くしろ。隊長を待たせることになる」
「待たせるって……見送りでもしてくれるんすか……いっ!!」
だから、無理矢理引くなって言ってるのに……何度も首輪の鎖を引かれて、息ができなくなりそうだ。首が痛い。
それなのにブライパは、俺の鎖を引いて、引きずるように連れて行く。
「いって……そんなに急ぐなよっ……止まれ! いっ……!!」
止まれと言う俺の額に、何かがぶつかった。壊れた魔法具のかけらだ。飛んできた方を見やれば、魔法使いたちが、破片をいくつも握ってニヤニヤしている。
ほとんど顔も知らない奴らだ。そんな奴らにまでこんなことされる謂れはないぞ!!
だけど今度は別の方から似たようなものが飛んでくる。投げたのは、俺のことをずっと無力のグズって蔑んでた奴らだ。魔力のない罪人は失せろってことか……
ケトラたちが、わざわざ俺に首輪をかけて引っ張っていく理由がわかった。要は晒し者にしたいんだ。
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