全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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54.僕と

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 殿下のことを考えていたら、パーロルットさんに言われた。

「そういえば、トルフィレ様。今日は殿下は一緒ではないのですか?」
「え!!??」
「トルフィレ様がお一人で歩いていらっしゃるようだったので。よければ城まで、腕の立つ者に護衛させます」
「い、いえっ……アンソルラ様が一緒で……」
「アンソルラ様が? 殿下はどうされました?」
「さっきまで会議で一緒だったんですけど……僕、大事な用事があって、殿下とは別れて先に帰ってきたんです……」

 僕が言うと、キャドッデさんがニッと笑う。

「もしかして、ついに婚約ですか?」
「うええええっっ!!??」

 なんで分かったんだ!!?? 僕が婚約のこと考えてるって!

 僕は、殿下には求婚されたのに、まだ返事をしていない。
 だけど、僕の心なんて、もうとっくに決まっている。
 僕はずっと、殿下のそばにいたい。離れろって言われたって、絶対に無理だ。

 僕があまりに驚くから、キャドッデさんもびっくりして言った。

「ち、違うんですか?」
「……違いは……しない、です……で、でもっ……なんで……求婚の話なんて、誰にもしてないのに…………」
「トルフィレ様…………えーっと……すみません……本気ですか?」
「え!?」
「だって……聞かなくったって分かりますよ。普段、ずーーっと二人一緒じゃないですか……昨日も一昨日も、二人で街歩いていたし、ずっと手を握ってるし……たまに目のやり場に困るくらいです」

 キャドッデさんが言うと、ラグウーフさんも頷く。

「隣町でも、二人ずーっと一緒ですよね? よく肩抱いてイチャイチャしてるし……ヴォーヤジュ様が困るほどだとか……」
「え!!??」

 い、イチャイチャなんて、そんな風に見えた!!?? 確かにずっと殿下とは一緒だけど!!

 真っ赤になる僕に、パーロルットさんが微笑んで言う。

「それに、殿下が回復って言いながらトルフィレ様に抱きついてますしね。あれ、隠してるつもりだったんですか?」
「そ、それは…………その……」
「王都でも、話題になってるそうですよ?」
「ええ!!??」
「王子が人目も憚らずあんなことしてるんだから、当然です。婚約しないのかって、貴族の間でも言われているみたいですよ?」
「えっ…………」

 殿下は、僕にちゃんと求婚してくれた。あの時は殿下と再会したばかりで、ちゃんと答えられなかったけど……

 そう言えば、ウェクトラテス様にも、「お前たちはどうなっているんだ?」って聞かれてたんだ。
 ロティンウィース様は、第二王子殿下で王族なんだし、その隣にいつも僕がいたら……気になるよな……

 もしかして、僕がはっきりしないせいで、殿下に迷惑をかけてしまっているのか……?

 なかなか言い出せなかったことは確かだ。何しろ、あのことがあってから、殿下と一緒に領主の仕事ができることはすごく嬉しいけど、なかなか二人きりの時間が取れない。

 だけど、ずっと殿下のことを待たせたままなんて嫌だ。なにより、僕が殿下にちゃんと気持ちを伝えたい。

 本当は、誰かに相談しようと思っていたんだ。殿下に贈り物だってしたいけど、僕だけじゃ、何を贈ればいいのか分からない。

 僕は、殿下に出会ってから、本当に毎日楽しくて、心から感謝を伝えたい。だけど、僕だけじゃ考えてもわからないし……

「あ、あのっ……パーロルットさん!」

 呼びかけると、パーロルットさんは、僕に振り向いてくれた。

「どうしました? トルフィレ様」
「あ、あのっ……実は僕っ……殿下に婚約っっ……」

 言いかけたところで、僕の前に、竜の羽を広げた男が降りてくる。ロティンウィース殿下だ。肩に、フーウォトッグ様も乗っている。

 殿下の話をしてたら殿下が降りてきた!!

 僕はびっくりして、今にも腰を抜かしそうだった。

「で、殿下!!?? い、一体、何をしていらっしゃるのですか!!??」
「……トルフィレの帰りが遅かったから……心配で、迎えに来た」
「…………」

 さっき別れてから、ほとんど経ってないのに……
 相変わらず、殿下は心配性だ。

「あ、あの……僕……」

 どうしよう……さっきの話、聞かれてたかな……

 殿下の肩では、フーウォトッグ様が頭を抱えている。
 そばでは、ちょうど店から出てきたところらしい大きな袋を持った店主さんが、心配そうにこっちを見てて、その隣で、僕にコーヒーを持ってきてくれた人が、「だ、大丈夫でしょうか?」って小声で店主さんに聞いていた。
 キャドッデさんも小声で、「どうするんですか! パーロルットさんのせいですよ!」って言ってて、パーロルットさんは、いつもの飄々とした様子で「今のは私のせいですか?」って答えてる。

 パーロルットさんのせいなんかじゃない。僕がはっきりしないせい。

 慌てる僕に、殿下は手を差し出してくれた。

「帰るか。トルフィレ」

 ……聞かなかったことにしてくれてる……

 僕の馬鹿……こんな時に、殿下に気を遣わせるなんて!!

 みんな、心配そうな顔をしてる。ラグウーフさんが、小声で「頑張ってください!」って言ってくれた。

 今言わなくて、今はっきりしなくて、どうするんだよ!!

 僕は、腹の底から叫んだ。

「あのっ…………ろ、ロティンウィース殿下!!!!」
「トルフィレ……?」

 殿下が、僕に振り向いてくれる。

 目を見ただけで、ますます緊張する……鼓動だって高鳴って、足がすくみそう。

 だけど……ちゃんと言いたい。

 僕は、彼の手を引き寄せて、彼に駆け寄った。

「あ、あのっ……ろ、ロティンウィース殿下っ……ぼ、僕と…………僕と……こっ……婚約…………して、ください……」
「え…………?」
「あっ……そのっ…………あの……求婚の、返事……僕、ロティンウィース様と……婚約したい、です……」
「トルフィレ…………」

 ど、どうしよう…………い、言ってしまった…………

 だ、ダメだったらどうするんだよっ……!

 殿下は、しばらく黙っていた。

 どうしよう…………や、やっぱり、もっ、もうダメだった!!??

 待たせすぎて、嫌われちゃったとか!???

「あ、えっと……い、いい、嫌だったら…………いいんです……け、ど…………やっぱり良くないです!! 僕っ、殿下と婚約したいですっ……!! ロティンウィース殿下のことが好きなんです!!!! あ、あのっ……だから、僕……」
「……そんなはずがないだろう…………」
「え…………」
「嫌なはずがないだろうっっ!! トルフィレ…………もちろんだっっ!!」
「え!? うわあっっ!!!!」

 殿下が、僕をぎゅっと抱きしめてくれる。そして、嬉しそうに笑ってくれた。

「婚約するっ……トルフィレーー!! 好きだーー!!」
「うわああああっっ!! あ、あのっ……! ちょっと待って……!!」

 またみんなの前でこんなに抱きしめて!! 殿下、王子なのに!

 だけど、ロティンウィース殿下はまるで気にしてないみたい。満面の笑みで、ずっと僕を抱きしめてる。

「もう、今日は会議なんてやめだ!! 今日はパーティーだ!!」
「だ、ダメですよ!! 今日は、ウェクトラテス様がいらっしゃるのに!」

 慌てて言うけど、ちょっとそうしたくなってくる……今日は、殿下と二人きりでいたい。

 キャドッデさんが「いいですね!」って言ってくれて、ラグウーフさんも「よかったですね、トルフィレ様!」って言ってくれる。
 パーロルットさんまで、「婚約パーティーの際は、是非私にご用命ください!」って言い出した。

 集まったみんなも、拍手してくれている。

 ……すごく嬉しい……

 殿下は、強く僕を抱きしめて、優しく僕に微笑んでくれた。

「婚約パーティー、いいな! トルフィレ、今日は会議はやめて、パーティーだ!」
「殿下……で、でもっ……ウェクトラテス様が待ってるし……」
「放っておけ! 最近、王都の方が、早く婚約してお前を連れてこいとうるさいんだ」
「え!!?? な、なんで……」
「魔物の増加を止めたお前に会いたいらしい。それに、お詫びがしたいと。全く……誤解が解けたらトルフィレの可愛さにまで気づかれそうで嫌だ……」
「え……えっと…………」
「だから、先にパーティーだ!!」
「……それは…………えっと……そ、そうだ!! それなら…………ウェクトラテス様も一緒にしましょう!」

 そう言って、僕は殿下から離れた。名残惜しいけど、これからは、殿下とずっと一緒だ!!

 僕は、ロティンウィース様に、手を差し出した。

 すると彼も、僕の手を握ってくれる。

 こんなの……少し前まで絶対に信じられなかった。

 殿下の顔を見ていると、今度は僕が我慢できなくなってくる。

 だから、僕の方から彼を引き寄せて、彼のことを抱きしめた。


*全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!*完
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