全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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51.僕だって、会いたかったんです!

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 空を飛んだヴォーヤジュ様が、担いだ人と一緒に、アンソルラ様の背に乗った僕の前に降りてくる。さっきの小柄な男の人も、ヴォーヤジュ様と手を繋いでいた。

「彼らのことは、俺が連れていく」
「は、はい!! お願いします!! 僕はここで結界を維持します!」
「だったら俺も……」
「いえ。ヴォーヤジュ様は、街の人たちをお願いします! 僕が行くより、ヴォーヤジュ様が行った方が、みんなを安心させられると思うから……結界は、僕が維持します! あ、あのっ……」
「どうした?」
「この街……細い路地が多いんです。魔物がそこに隠れているかもしれません。魔物はそういったところに溜まりやすいみたいでっ……! そ、そこで人が襲われることが多いんです! ど、どうか、お気をつけて……」

 僕が言うと、彼はニヤリと笑った。

「任せておけ」
「あ、ありがとうございます!」
「トルフィレ……」
「は、はい!!」
「これから、よろしく頼むぞ」
「…………え?」
「領主になるんだろう?」
「え!!?? そ、それはまだ……」
「こっちは俺に任せろ」
「は、はいっ……!!

 僕は、アンソルラ様の背中の上で、空を飛ぶ毒の魔物に向き直った。すると、背後からヴォーヤジュ様が言う。

「それと……さっきお前が言ったことだが……」
「え?」
「そんなことはまるでないと思うぞ」
「……?」

 なんのことだろうと思って、振り向く。すると、ヴォーヤジュ様に手を引かれている人が、不安そうに僕を見ていた。

 僕は彼に、できるだけの笑顔で言った。

「こっちは、僕がなんとかします!! だから、安心してください!」

 すると、その人はかすかに頷いてくれた。そして、ヴォーヤジュ様に連れられて、路地の方に飛んでいく。

 僕は、空を見上げて、構えた。

 僕を乗せたアンソルラ様が言う。

「やれんのか!? トルフィレ!!」
「やれます。殿下と皆さんに、いっぱい回復してもらいましたから!」

 集中して、一気に結界を強化する。街が、光に包まれていく。

 やっぱり、殿下たちの回復の魔法、すごい……少し前までなら、こんな結界、絶対に張れなかった。

 見上げれば、ちょうど、ウェクトラテス様の魔法が、魔物を破壊したところだった。破壊される寸前に、魔物が放った毒の弾は、僕の結界に阻まれて消えていく。

 よかった。街は無事だ。

「うわっ……!!」

 魔物がいなくなって気が抜けたのか、それとも、強い結界を張った影響か、足を踏み外した僕は、アンソルラ様の体から落ちてしまいそうになる。

 けれどすぐに大きな手が、僕を抱き止めてくれた。

「トルフィレ!!」
「ロティンウィース殿下!?? うわっ……!!」

 え……え!??

 うわっ……! どうしようっ……! 僕、殿下に抱っこされてる!!??

 空を飛ぶ殿下に、両手で抱きかかえられて、大通りまで連れてこられて、僕は大慌て。

「あっ……あ、あのっ……僕! お、おお、降ります!」
「ダメだ!! せっかくトルフィレを捕まえたんだぞ! このまま抱っこしている!」
「うわああああああ!!!!」

 何するんだ!! ここ、大通りなのに!

 それなのに、僕が暴れているのなんてお構いなしに、殿下は僕をぎゅーっと抱きしめてくる。

 そうしていたら、殿下の背後に、城が見えた。

 城……だよな? あれ。上の部分がなくなっているような気がする。半分くらいになってないか?

 殿下も、僕が城の方を見ていることに気付いたらしく、僕を離して城の方に振り向いた。そして、気まずそうに言う。

「…………すまない。毒の魔物の毒で溶けた……」
「え? そ、そんなのどうでもいいですっっ!!」
「……え?」
「殿下は……ご無事ですか!? か、回復します!」
「……俺は大丈夫だ! これでも、王城では最強の竜なんて言われてるんだ!! 手に負えないってな!」
「……それ、褒め言葉ですか……?」
「もちろんだ!! そのおかげで、こうしてトルフィレに会えたしなー!!」
「わっ……!!」

 また抱きついてくるロティンウィース様。すごくドキドキするけど、それがなんだか嬉しくなってくる。

 殿下の手が、かすかに温かい。体も、優しいものに包まれていくみたい。さっき魔物を切り裂いた時から、かすかにひりひりしていた頬の痛みが消えていく。

「殿下……? あ、あのっ……このくらいなら、か、回復の魔法、かけなくて大丈夫ですよ?」
「ダメだ。それでもかける」
「え……? な、なんで…………僕、このくらい、放っておけば治ります」
「それでもダメだ! せっかくのトルフィレを抱きしめるチャンスが減る!!」
「そ、そんなっ……抱きしめなくても魔法かけられるのに…………それに……魔法かけるときでなくても、抱きしめてくれていい……ので…………」

 ……な、何を言っているんだ。僕は……い、言った後で、照れてきた!

「あっ…………あのっ……僕……」
「トルフィレーー……」
「ひゃっ……!」

 殿下にぎゅっと抱きしめられて、身体中あったかいのに、ドキドキしすぎて、苦しい……

 それに、毒の魔物を倒したウェクトラテス様も、魔法使いたちを連れて降りてくる。ヴォーヤジュ様や、他の貴族の人たちも集まってきたし、王子がこんなところでこんなことしてたらまずいんじゃ……

「……あ、あの……! 殿下…………! や、やっぱり離してっ……ください!」
「どうした?」
「だってやっぱりまずいですっ……!! こ、こんなっ……僕と殿下がこんなことしてちゃ……!! 王家だって、他の貴族だって…………みんな絶対に反対します!!」
「…………大丈夫だ」
「え!?」
「全員黙らせてきたっっ!! 俺が、トルフィレに会いたかったからな!」
「わっっ……!! で、殿下!!」

 慌てる僕を、それでも殿下は構わずに、さっきよりずっと強く抱きしめてくる。ずっとそうされていたせいか、なんだか気持ち良くなってきた。

 気づけば、僕も、恐る恐る、彼の背に手を回していた。

 会いたかったって言うなら、僕だって会いたかった。

 もちろん殿下に謝りたかったこともあるけれど、あの日、一緒に戦った竜に、僕は、ずっと会いたかったんだ。

 そんな気持ちを思い出したら、耐えきれなくなって、僕が彼を抱きしめる力も強くなっていく。

「僕もっ……本当はずっと、殿下に会いたかったんです!!」
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