49 / 54
49*ロティンウィース視点*あいつの前では
しおりを挟む「お前たち。いるか?」
聞くと、答えるように、月明かりの入る城の天井近くに、いくつも竜の羽が現れる。
街の方は、トルフィレとウェクトラテスたちに任せてある。代わりに、俺の部隊は全員ここに呼び寄せた。騙されていた者はそれを後悔して、トルフィレの身を案じていた者は腹を立てて、今ここにいる。全員にすでに命じたことだが、俺はもう一度繰り返した。
「捕らえろ。一人も逃すな」
彼らは、返事をしない。代わりに一斉に飛び立っていく。すぐに終わるだろう。
ディラロンテに向き直ると、その男はついに気付いたらしい。ずっと、包囲されていたことに。
「ディラロンテ…………」
「で、殿下…………ま、まず、落ち着いて…………」
「街の方は、俺がしておいた。お前は、森の魔物退治と、被害を被った連中への補償……その間、お前たちは、お前たちでなくなるが、それだけでいい。俺も、手伝ってやるから」
「……こ、来ないでっ…………」
「……何を怯えているんだ? 俺はただ、お前が撒き散らしたものを片付けてこいと言っているだけじゃないか」
その時、俺の横に、何かが落ちてきた。街で会った時に、すでに魔力で拘束しておいたコンクフォージだ。長く体に魔力を絡み付けたせいで、首と腕がおかしな方向に曲がっている。だが、全く問題ない。まだ、動く。
それなのに、それを見て、ディラロンテは悲鳴を上げていた。
「おーい……落ちたぞー……ちゃんと連れて行け」
見上げて言うと、降りて来た俺の部隊の一人がそれを連れていく。
「……あれのことは、街で先に捕まえておいた。俺の前で、王家の名を語りトルフィレを苦しめた罪を事細かに自白してくれたからな。それに、お前のところに戻して、余計なことをベラベラと話されても困る。あいつくらい単純なら、お前の拘束にも、時間はかからなかったのに……城の周りの魔物退治をしてくれていたのだが、気付かなかったのか?」
そいつに振り向くと、ディラロンテはガタガタ震えながらも頷く。
俺は、ため息をついた。
「どれだけ魔物に興味がないんだ。お前。むしろ、トルフィレに全部任せて、安心しすぎたか?」
「そ、そんなっ……」
「コンクフォージのことは、部隊に任せてある。お前のことも、そうしようか……そんな顔をしなくても、お前自身の尻拭いをしてもらうだけだ。余計なことさえしなければ、誰も、手荒な真似はしない。ふざけた真似するなら、今度はその頭に魔力を突っ込んで、正気をもらうが」
「ひっ……! で、で、殿下っ……これは何かの間違いっ…………!」
「逃げるなよ。自分の尻拭いくらいは、自分でしろ」
「……!」
よほど怯えたのか、ついにその男は座り込んだまま気絶してしまう。
呆気ない…………まだまだ足りないくらいなのに。
背後のフーウォトッグが肩をすくめて言った。
「情けないものですね…………」
「ああ…………そうだな…………」
「部隊の方も、順調みたいですよ…………おや……?」
フーウォトッグが、顔を上げる。頭上から月明かりが差し込んできたからだろう。
俺も見上げると、天井がドロリと溶けて、崩れ始めていた。
「なんだ……?」
「先ほどの、毒の魔物の毒でしょう」
「ああ……そういえば、あの砦の天井も崩れていたな……」
「……いいんですか? このままだと、この城も崩れてしまいますよ?」
「…………」
じっと見上げていると、穴はどんどん広がり、外から、先ほど町を頼むと言って見送った奴らの声がした。トルフィレの声も、ここに混じっているのだろう。
「……別に、構わないだろう? トルフィレを拷問し続けた城だ。新居を建てればいい。むしろ、生きたままその体を溶かされなかっただけ有り難がれ……」
「……溶けてしまっては、魔物の処分に加われません」
「半分くらい溶けても、俺の魔力なら動かせるぞ?」
「やめてください。全く、竜の逆鱗になんて、触れるものではありませんね…………」
そう言って、フーウォトッグは少し笑う。
あの日も、こんな風だった。
俺が、トルフィレの悪評など全て嘘だと会議で喚いて、貴族たちに白い目で見られた時だ。あの時も、フーウォトッグとアンソルラ、兄上だけは、俺を信じてくれた。
会議室から出て、壁を殴りつけた俺の後ろで、彼は少し笑っていた。そして、馬鹿にされたのかと思いつかみかかった俺に「この程度で引き下がる竜でしたか?」とたずねた。
あの時、俺のことを、彼らだけは信じてくれた。
俺は、あの時のフーウォトッグと同じ顔をして、トルフィレの前に立てていただろうか。
考えて、すぐにやめた。
……多分、ずっと無理だ。
トルフィレの前では、冷静でいることが難しい。ずっと。
「フーウォトッグ……」
「どうしました?」
「……ここが終わったら、トルフィレのところに行く」
「はいはい」
「…………」
「……トルフィレ殿のところに行く前に、その怖い顔をなんとかしないと、また怯えられちゃいますよ?」
「怖い!? 怖いのか!!??」
「冗談です」
「……やめろ……ただでさえ、トルフィレからは返事をもらえていないのに…………兄上はあんなことを言い出すし……お前だけでもいい! 今すぐトルフィレの護衛に行け!! 悪い虫がついたらどうするんだ!」
「たちの悪い虫なら、すでについているようですが……」
「あ? 誰のことだ?」
「顔。それに口調。トルフィレ殿にフラれても、知りませんよ」
「やめろーーーーっ!!」
「さあ、私たちは私たちの仕事をしましょう」
「…………クズどもを城と一緒に破壊するか? そうしたらトルフィレのところに行ける…………やはり、頭でもいじって廃人にするか……」
「顔。それにその案は却下です。フラれますよ」
「やめろと言っているだろうっっ!!!!」
507
お気に入りに追加
1,332
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる