47 / 66
47*ロティンウィース視点*あんな悪評
しおりを挟む話している途中で、フーウォトッグが戻ってきて、拘束したディラロンテの取り巻きのうちの一人をディラロンテの隣に並べ、去っていく。彼が置いて行った男はすでに魔力で拘束してあり、その体には光が絡みついていた。
その様を見て、ディラロンテは驚いたようだ。「どういうことですか!?」と喚き出すが、この男の焦りなど、どうでもいい。
「ラグウーフは、隣町からここまでつながる道の現状を教えてくれた。そこで、アンソルラに隣町までの道の有様を調査させ、報告に行かせた。そこでやっとヴォーヤジュも気づいたらしい。全てを知ったヴォーヤジュは、本当に怒っていたぞ。本気でお前たちを信じていたのに、それがただの誤魔化しだと知った時、あいつは、それはそれは腹を立てたらしい。気づいたか? あいつは、ずっとお前を睨んでいたんだ。トルフィレには誤解されたようだが」
あの時、ヴォーヤジュに迷惑をかけたと言って詫びていたトルフィレの姿を思い出す。そんなことをする必要はないのに。ヴォーヤジュは、トルフィレを待たせて申し訳ないと、そう話していたのだから。
しかし、俺が話していることなど、扉の前で俺を睨むディラロンテには、どうでもいいことのようだ。そうだろうと思っていたが。
「他の貴族たちも、この領地とその周辺の状況を知ると、首を縦に振ってくれた。全く……本当に時間がかかったよ。この領地の包囲には、周辺の領地の協力が不可欠だったからな」
「包囲……?」
そう聞いて、ついにディラロンテは、顔色を変えた。
気づいたらしい。今、自分の身に危機が迫っていると。
存分に、敵意を隠してきた甲斐があった。もうここからは、誰一人出すつもりはない。
ディラロンテが、俺に向かって怒鳴る。
「包囲とは……どういうことですか!!」
「…………ディラロンテ……なぜ、俺が傭兵だったかわかるか? これだけ準備して、やっと俺はこの領地に入ることができた。最後の仕上げとして、ここの現状の調査が終わるまで、バレるわけにはいかなかったんだよ。確実にお前を捕らえるために。だってお前、逃げるだろ。俺が来たと知ったら」
「…………」
ディラロンテは、黙っていた。
この連中の逃げ足の速さは知っていた。何しろこいつらは、荒らすだけ荒らして逃げることに関しては、抜きんでているらしい。
「……うまいことを考えたな……領主はそのまま、自分は代行。吸い尽くすだけ吸い尽くして、搾取できるものがなくなれば、空っぽの残骸だけ元の領主に押し付けて逃げる。領主は領主でクズだから、すでにお前たちに弱みを握られている。領地が荒れたことについて、お前たちを糾弾することもなければ、こちらに助けを求めることもしない。貴族たちには手を回し、トルフィレだけを悪役に仕立て上げ、自分達は悪徳令息の被害を受けながらも領地のために努力する一族を演じる。もしも、バレそうになれば、自分達に代行をさせていた奴を囮に逃げる。その後は、都合の悪いことはそいつらに押し付け、自分達は何もしていない、領地に侵入してきたのは俺たちの方だと、証拠があるなら見せてみろと、そう糾弾の場で叫んで、こちらを黙らせるつもりだったのだろう? だから、存分に準備させてもらった。この街と、周辺の森と、その周りの領地にまで、俺の部下を配置している。貴族たちも、すでに黙らせた。俺はもう、明日にでも、公の場でお前の首を切れるぞ」
「何を馬鹿なっ…………!! こんなことが、許されるはずがない!! お、横暴だっ……王家は独裁を始めるつもりですか!!??」
「独裁? 誰もが、お前たちの捕縛を望んでいるのに?」
「…………っ!」
俺は、その男の前に、魔法で取り出した書類をばら撒いた。全てに貴族のサインがある。全て、ディラロンテたちの捕縛に協力を求めたものだ。
「誰か一人でも、お前たちの逃亡に手を貸すと困るからな。断罪に口を出されても困る。こんなことをしている間に、いいことが知れたぞ。この名前の中には、お前たちに手を貸して、ここから質の良い素材を回してもらっていた貴族もいるようではないか。その連中も、このままではお前との関係を糾弾されると知ったら、すぐに手のひらを返したが。安心しろ。その連中も含めて、全員拘束するための準備はすでに済ませてある。俺を舐めるなよ…………」
そんな俺の宣言を、聞いているのかいないのか、ディラロンテは顔色を変えている。
こいつらが気前良く譲った素材は、かなり貴重なものだ。王都で売れば、城くらいは買えるだろう。目が眩む奴も多かったはずだ。搾取したもので周りの貴族連中を魅了しておけば、いざという時には逃げる手段になる。ずいぶん自信があったのだろう。実際に、切り崩しには時間がかかってしまった。
俺はどうしても、あの日共に戦った男が、悪辣なやり方で領地を苦しめる下郎だなんて、思えなかった。
どれだけの犠牲を払ってでも、それだけは否定したかった。
あんな悪評、全て嘘だ。
「なあ……ディラロンテ……トルフィレに久しぶりに再会した時、あいつは素材を集めると言って、泥に塗れていたんだ……その上、走り出したかと思えば、すぐに気絶してしまった。俺は、あいつにすぐに回復の魔法をかけたが、あいつは目を覚さない。そのあと、あいつの服を脱がせて、風呂で体を洗ったんだ。その時、俺はあいつの体を見た……あいつは……身体中に、鞭の痕をつけていた……殴られたあとなど、数えきれなかった。火傷のあとや、大きな切り傷、骨が折れたようなあともあった。焼印までっっ…………!! 生きているのが不思議なくらいで、俺は、夜通し回復の魔法をかけ続けた。魔力も回復させた。それでも不安になる程、あいつは瀕死の状態で……それでも、魔物と戦っていたんだ…………あんなこと、誰にでもできることじゃない……本当は、あいつが何を言おうが、眠らせてでも王城に連れて行くつもりだった。だが、あいつと会った時、あいつは……小さな鳥籠を落としたんだ……ボロボロの鳥籠を。それを見たら、あいつのしようとしていることが分かった……そしたらっ……! どうしても、連れて行くことができなくなってしまったんだ……っっ!! あいつは、落としたそれを、大切なものだと言っていた。触れれば分かった。魔力で、何度も修復した跡がある。微かな魔力で、必死に修復を続けていたのだろう。お前たちに気づかれないように、ただの鳥籠に見えるように、ずっと魔法で隠しながら……お前も、何度も見ているはずだ。気づきはしなかったようだが。お前はずっと、あいつに負けていたんだよ。あれを見ても何も気付かずに、ただ欲望のままにあいつから搾取し続けてきたのだろう? お前からあれを隠して、拘束した魔物を押さえ込むだけでも、かなり魔力を使わなくてはならなかったはずだ…………きっと、ひどく苦しかっただろう。今も、後悔しているくらいだ。やはり、連れ帰るべきだったのではないかと…………」
思い出すと、握った手が痛んだ。湧いた感情で制御が効かなくなっているらしい。それでも、その痛みのおかげで、ほんの少しくらいは冷静に戻れそうだ。
579
お気に入りに追加
1,335
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

泣かないで、悪魔の子
はなげ
BL
悪魔の子と厭われ婚約破棄までされた俺が、久しぶりに再会した元婚約者(皇太子殿下)に何故か執着されています!?
みたいな話です。
雪のように白い肌、血のように紅い目。
悪魔と同じ特徴を持つファーシルは、家族から「悪魔の子」と呼ばれ厭われていた。
婚約者であるアルヴァだけが普通に接してくれていたが、アルヴァと距離を詰めていく少女マリッサに嫉妬し、ファーシルは嫌がらせをするように。
ある日、マリッサが聖女だと判明すると、とある事件をきっかけにアルヴァと婚約破棄することになり――。
第1章はBL要素とても薄いです。


雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる