全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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45*ロティンウィース視点*何より大事なこと

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 トルフィレが俺に背を向けて城を出ていく。その後ろ姿を見ていると、すぐに追っていって抱きしめたくなる。だが、今だけは耐えなくてはならない。

 窓から、空を見上げる。
 トルフィレと共に、ヴォーヤジュが空を飛んでいくのが見えた。

 ヴォーヤジュも、かなりの腕の持ち主だ。他の連中も、一人でも十分毒の魔物と戦える奴らばかり。
 本当は俺がそばにいたいが、俺にはどうしても、しなくてはならないことがある。
 あいつらなら、必ずトルフィレの力になってくれるだろう。あと、あんまり近づくな……

 ヴォーヤジュとトルフィレの距離が近い気がして、今すぐ飛んで行きたくなるが、それにも耐える。

 兄上たちも、トルフィレに全面的に協力すると約束してくれた。

 これで、街に住む者たちも思い知るだろう。ずっと、苦しみながらも街を守ってきたのが、誰なのか。

 街の中で、人を助けるために走っていたトルフィレの姿を思い出す。
 初めて会った時に、俺の隣で魔物と戦ったあのトルフィレなら、きっと、街を守り抜くはずだ。

「さて……俺はこっちか」

 城に、鍵の魔法をかける。窓が全て閉まり、明かりは消えていく。多少暗いが、幾つも並んだ、竜が出入りできそうなくらい大きな窓からは、月明かりが入り込んでいる。これだけ明るければ、これからやることに支障を来すことはないだろう。

 背中の羽を広げる。

 暗い中でも、ディラロンテの居場所は分かる。俺が張った、城中を覆う結界のおかげだ。

 ああ……玄関か。外へ逃げようとしていたところらしい。

 俺の背後には、フーウォトッグが立っている。俺一人でもよかったのだが、それはフーウォトッグに止められてしまった。

「行くぞ」

 それだけ言って、俺は、背中の羽を広げて飛んだ。

 玄関まで飛ぶと、ディラロンテが扉に魔法をかけているのが見えた。もちろん、そんな魔法で俺の鍵が開くはずがない。取り巻きが一人もいないところを見ると、別のところへ逃げたか。フーウォトッグに振り向くと、彼は音もなくそこからいなくなった。

 俺は、ディラロンテに振り向いた。

「ディラロンテ」

 声をかけると、その男は俺に振り向いた。その顔には、怯えなど感じられなくて、むしろ、怒りで俺を睨んでいるようだった。

「ロティンウィース殿下…………」
「……こうして顔を合わせるのは久しぶりだな……お前がトルフィレの後ろについて、俺を狙った時以来じゃないか」
「……なぜ……こんなことを…………」
「なぜ? それはおかしいだろう。俺の名を語ってトルフィレを責め立てて、散々好き放題搾取してきたんだ。いつか必ずこうして捕まることは、分かっていただろう?」
「搾取? 一体、なんのことです?」
「……お前……さすがだな…………」

 その顔を、正面から見たのは、久しぶりだった。

 ずっと、出来るだけその顔を見ないようにしていた。見てしまえば、激しい憎悪に包まれて、トルフィレの手を握ってやれなくなりそうだった。

「なあ……ディラロンテ……俺は、ここへ来てトルフィレに会うのも久しぶりだったんだ」
「は…………? な、何を、急に…………」
「この地で起こっていることの調査と対処……それが、今回俺に当てられた任務だった。どれだけ重大な事態かは、理解していたつもりだった。だが、久しぶりにトルフィレに会えると知って、俺は……あの時、俺の仲間を助けてくれた英雄に会えると……そう思っていた。俺はずっと、トルフィレに感謝したかったんだ。あいつに、ありがとうと言いたかった。俺の仲間を助けてくれたあいつに……傷ついた俺の仲間を必死に癒しながら、彼らを助けてあげてくださいと言ったあいつに、ずっと感謝したかった。それに……あの時、ひどく申し訳なさそうに謝罪を繰り返すあいつのことが、ずっと……心残りだったんだ」

 思い出す。トルフィレと初めて会って、別れた日のことを。
 俺はずっと、あいつのことが心残りだった。もっと安心させたかったのに。
 あの時、俺の回復の魔法がもっと効けば、仲間を回復し、トルフィレを安心させることもできたのかもしれないと思い、回復の魔法も学びなおした。

 けれど、ディラロンテは俺を睨んで急かしてくる。

「……それがっ……なんだというのです!??」
「……焦らず聞け……大事なことだ」
「……大事な、こと?」
「ああ。何より大事なことだ」
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