全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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40.何が危険なんだ?

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 僕は、隣の殿下に小声で言った。

「ロウィス……お願いがあります。この鳥籠を持って、逃げてください。大事な武器なんです」

 そう言って、鳥籠を差し出す。魔力がある時は魔法で消して、ない時は服の中に隠したりしてきたけど、欲に目が眩んだディラロンテは、すっかりこれに夢中。だけど、そんなに簡単に取り上げられてたまるか。

 決意を込めて言ったつもりだった。怒り出したディラロンテに、後ろの取り巻きたちも同調している。こんな奴らの相手をするのは、かなり危険だ。

 全部吐き出して彼らを煽ったのは僕。だから、彼らの相手は僕がする。

 そう思っただけなのに、殿下は鳥籠を受け取ってくれないし、僕を抱きしめてしまう。

「ち、ちょっ……ロウィス!? 聞いてましたか!?」
「聞いていた。絶対に、嫌だ」
「え……!? な、なんでっ……!?」

 言いかけて見上げると、殿下はひどく真剣で、それでいてどこか切ないような顔で、僕を見下ろしていた。

「……絶対に、嫌だ。トルフィレと一緒にいる」
「……で、でも……」
「共に戦いたいと言ったのに、俺では不満か?」
「そ、そんなことはありませんっ……! ただ、危険だからっ……」
「何が危険なんだ? 俺とトルフィレがいるのに」
「ロウィス……」

 でも、怒ったディラロンテたちは本当に怖いのに。

 ディラロンテが僕に向かって魔法を放つ。今度は威嚇じゃない。僕を確実に狙っていた。

 けれどそれは、僕にあたることなく消えた。殿下の魔法だろう。

 自らの魔法を簡単に打ち消されて、ディラロンテは顔色を変えていた。ただの傭兵が自分の魔法を防ぐなんて、思っていなかったはずだ。

 殿下は、ディラロンテを睨んで言う。

「……二度とトルフィレに近づくな……悪辣な罪人は貴様の方だ」
「黙れっ!」

 叫んで、ディラロンテが魔法を放つ。けれどそれも、簡単に殿下に消されてしまった。

 驚くディラロンテを無視して、殿下が天井を見上げると、穴の空いた天井から、砦に響き渡るほどの吠え声がした。
 見上げれば、穴の外を竜が飛んでいる。
 最初は小鳥くらいの大きさだったその影は、どんどん大きくなって、ついに、僕らのもとに降りてきた。その衝撃で、崩れかけていた床が大きく割れてしまう。

 壊れた天井の穴に届きそうなほど大きなその竜は、空に向かって吠えた。
 砦を揺るがすようなその吠え声に、ディラロンテたちは耳を塞いでいる。

 殿下は、竜に向かって微笑んだ。

「遅いぞ……アンソルラ」

 アンソルラ様!? なんだか大きい!? いつも小鳥くらいの大きさだったのに!

 遅いと言われた竜は、殿下を見下ろして、すぐに言い返した。

「遅い? 勘弁してくれよ。こう見えて、急いだんだぞ」

 不機嫌なアンソルラ様を見て、ディラロンテが顔色を変える。

「なぜ……こんなところに竜が……あ、アンソルラ? まさか…………こ、近衛隊長のアンソルラ様!??」
「……そーだよ」

 苛立ったように答えて、アンソルラ様はディラロンテに振り向いた。

「お前ら……分かっているんだろ? ふざけた真似繰り返しやがって……俺ら全員、腹立ててるんだよ」
「な、なぜっ……なぜアンソルラ様がここにっ……!!」

 ディラロンテの疑問を無視して、殿下はアンソルラ様にたずねる。

「それで? 終わったのか?」
「……こっちは片付いたよ。街と、周辺の魔物は始末した。フーウォトッグが急げってさ」

 それを聞いた殿下は、ディラロンテたちに振り向いた。

「聞いたか? 今は、街とその周辺に増えた魔物をなんとかすることの方が先決だ!」

 言われてディラロンテは、ロティンウィース様を睨みつけた。

「あなたは……なぜ、ここに……いつの間にいらしていたのですか!!」

 どうやら、ディラロンテもついに、傭兵ロウィスの正体に気づいたらしい。

 殿下は、そいつを睨んで言った。

「遅いんだよ。トルフィレはもっと早く気づいたぞ」

 彼が魔法で被っていたフードを消して、傭兵の姿から王家の紋章が描かれたローブを羽織った姿に戻ると、取り巻きたちもやっと気づいたらしい。彼らは震え上がっていた。

「ま、まさか……ロティンウィース殿下っ……!??」

 彼らは動揺して、ざわついている。

 けれどディラロンテは、じっとロティンウィース様を睨みつけていた。

「なぜ……ここに……ロティンウィース殿下が……」

 苛立っている様子のディラロンテに、ロティンウィース様はやけに軽い口調で答える。

「魔物が増えすぎてるって聞いてなー。援軍に来たんだ!! 援軍!! 聞くところによると、街にも魔物の被害が広がっているそうじゃないか!! だから、助けに来た! 勝手知ったる領地だからな!」
「こんなことをされては困ります!! この領地は、私たちクヴィーディス家に任されているのです! それなのに、私たちになんの説明もなく、内緒で……」
「俺が来たと知ったら、お前ら遠慮するじゃないか。魔物は退治している途中ですー、とか言って。民を守るのが、王家の役目だからな!」
「……他人の領地に勝手に入り込んで勝手に魔物退治などされては困ります! 王家と言えども、あまりに勝手ではありませんか!?? こんなことを他の貴族が知れば黙っていませんよ…………何がおかしいんですかっっ!!!!」

 ディラロンテがそう怒鳴るのも無理ない。話の途中だと言うのに、殿下は声を殺して笑っている。

「そんな顔をするなよ。あまりにも、フーウォトッグが予測したのと同じことを言うから、笑えてきただけだ」
「なにを……!」
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