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39.どうしても全部ぶつけたかった
しおりを挟む巨大な魔物がいなくなり、あとは小さな魔物の処理だけ。そっちは思ったより早く終わって、すぐに砦の中は静かになった。
魔物が消えたことで、ディラロンテたちも、解毒の魔法を使えるようになったらしい。さっき毒にやられた人も、起き上がっていた。
ホッとしていたら、背後から殿下に抱きつかれてしまう。
「やるじゃないか!! トルフィレ!」
「……ロウィス……あ、ありがとうございます……」
って言っても、毒の魔物の他は、ほとんど殿下が倒してくれたんだけど。
だけどそんな風に言ってもらえて嬉しくて、されるがままに頭を撫でられていたら、背後でディラロンテが大声で僕を呼んだ。
「トルフィレ!!!!」
「……」
もう僕を呼ぶの、やめてほしい。びっくりするから。
嫌々でも振り向こうとしたら、殿下に抱きしめられて、振り向くことができなくなってしまう。「ロウィス?」って声をかけたけど、ロティンウィース様は、僕じゃなくて、ディラロンテの方を睨んでいた。
「俺のトルフィレに何の用だ?」
「俺のトルフィレ……? 一体あなたは何なのですか? たかが傭兵の分際で、口を挟まないでいただきたい」
「俺は、トルフィレに何の用だと聞いているのだが?」
「あなたには関係ありません」
ディラロンテはすぐに僕に振り向く。よほど僕に言いたいことがあるんだろう。気味が悪いくらい優しい声で言う。
「トルフィレ……珍しく、よくやりましたね。その鳥籠を渡しなさい」
「………………なぜですか?」
「決まっているでしょう? 今、魔物を倒した後の残骸を、その鳥籠に押し込めていたではありませんか。魔物の泥も、たくさん入っているのではありませんか? しかも、まだ魔物としての力が残っている……魔物の一部は、それに捕獲しているのですか? 見せなさい」
「…………」
僕が無言でいると、ディラロンテは、微かに表情を変えた。
「トルフィレ……聞こえなかったのですか? それを寄越しなさい。いつもなら城に帰ってから預かっていましたが、今はここで預かります」
「……」
「……トルフィレ……あなたにそんなものを持つ資格など、ないのです。何度も教えたでしょう? 逃げた外道の悪徳息子がそんなものを持つなど、許されないのです。それを寄越しなさい。私たちが、有効に使います」
「……」
相変わらずこいつら、欲でいっぱいだ。
僕は、首を横に振った。
「なんのことか、わかりません」
キッパリ答えて、鳥籠を背後に隠して、ディラロンテと対峙する。
反抗した僕を見て、ディラロンテがだんだん怒りを膨らませていく。
「さすがは悪徳令息と呼ばれるだけある……貴様など、逃げた悪の一族が捨てていった屑だっ……!! ただ邪魔なだけならともかく、貴様のような悪辣なものがいるだけで、私たちまで後指を指されてきたというのに!! それでも城においてやった恩を忘れたか!!?? それを寄越せっっ!! 罪人めっっ!!!!」
これまでよりもずっと激しい様子で怒鳴るディラロンテ。その魔法の弾が、僕の足元に着弾する。
だけど、相手がこれで怒り出すことなんて、承知の上だ。
「……城にいたことを恩に思ったことなんて、一度もありません……」
「なに?」
「そっちこそ……僕のことを便利に使っていたくせに…………僕からずっと奪って来たくせに……なんで僕が感謝しなきゃならないんですかっっ!!」
「……っ!」
怒鳴り返した僕を、ディラロンテはひどい顔で睨んでいた。
反抗すれば、彼らが怒り出すことは分かっていた。これまで、少し言い返すたびに、酷い目にあわされて来たんだから。
だけど、どうしても言いたかったんだ。どうしても、許せなかった。これまで溜まっていたもの、どうしても吐き出したかったんだ。
地下牢に押し込められて、毎日鞭で打たれて、踏み躙られて、ずっと苦しかった。なんでそれで僕が感謝しなきゃならないんだ。
「もう絶対に……あなたたちには何も渡しませんっっ!!」
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