全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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38.できるよな?

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 ディラロンテに返事をしながら、僕は、ホッとしていた。彼らが魔物と戦うところは、ほとんど見たことがなかったし、さっき森の中で見かけた時も、やけに疲弊して見えた。だから戦えないのかと思ったけど、この調子なら、彼らは彼らで魔物を倒すだろう。
 何しろ相手は毒の魔物だ。反撃もできなかったら、すぐにやられてしまう。倒れた人の魔力を狙って、また魔物が集まってくることもあるんだ。

 その時、呻くような、引きずるような音が、砦の奥から聞こえてきた。そして奥から、次々あの泥の魔物が出てくる。随分魔物が集まっているみたいだ。毒の魔物の魔力に引き寄せられたのかも知れない。

 全員が、魔物に向かって構えた。

 だけど、敵はそれだけじゃなかった。天井から、魔物の泥に似たものがいくつも落ちてくる。

 見上げれば、天井に空いた大きな穴から、不気味な羽を持つ虫のような魔物が、こちらを見下ろしていた。その周りを、泥のようなものが飛び回り、僕らに向かって降ってくる。魔物の毒だ。街の人たちを傷つけたのはこれだろう。

 あれが、毒の魔物か……

 僕たちは、すでにそれに狙われていたらしい。砦の中に、薄い霧のようなものが広がっていく。毒の魔物の魔力によるものだろう。

「ディラロンテ様!! すぐに解毒しましょう!」

 叫ぶ声を聞いて振り向けば、ディラロンテの取り巻きの一人が倒れている。毒にやられたんだろう。魔法使いの一人が、その人に解毒の魔法をかけるけど、毒は消えない。当たり前だ。周りはすでに毒の魔物の魔力で満ちている。魔物を破壊しない限り、解毒なんてしても無駄だ。

「なっ……なぜ、こんなっ……!!」

 慌てて喚く彼らだけど、そんなことしてたら、魔物に襲われる。実際、喚いていた人たちは次々降ってくる毒に襲われたり、毒にやられたりして、動けなくなっていく。

 先に毒の魔物を倒せば、解毒の魔法だって効くはずだ。

 僕が魔物に向かって魔法を放つと、魔物は怯んで、穴が空いた天井の陰に隠れていく。

 だけど、きっとまたすぐに襲ってくる。

 それを見上げていると、ディラロンテが僕に向かって喚いていた。

「貴様っ……トルフィレ!! なぜ貴様は動ける!!!!」

 怒鳴られても、もううるさいだけなので、聞かなかったことにする。
 このままじゃ、魔物が逃げてしまう。そしたら解毒も難しくなる。

 飛びかかろうかと思ったその時、崩れた天井から光る鎖のようなものが生えて、毒の魔物に巻き付いた。

 いつのまにか、割れていたはずの窓も、全部元通りになって、壊れていた砦の扉も元通りになってバタンと閉まった。
 これは、鍵の魔法だ。敵を狭い範囲に閉じ込めるためのもので、これでもう、他の魔物も、屋外にいる毒の魔物ですら、ここから逃げられない。

 殿下に振り向くと、彼は「これで逃げないだろう?」と言って微笑んだ。

「じゃー、とりあえず、ここにいる魔物、一掃するか! これで、魔物は逃げない。さあ! 魔物退治だ。そこに寝ている奴らも。トルフィレを役立たず呼ばわりしたんだ。できるよな?」

 殿下に振り向いて聞かれて、ディラロンテが怒鳴った。

「ふざけるな!! ど、毒の魔物が出ているのにっ……鍵の魔法を使ってしまっては、私たちも出られないではありませんか!」
「それは、勝てないと認めているのか?」
「ぐっ」

 彼は悔しそうだけど、むしろ、譲ってくれるならありがたい。

 僕は、殿下に振り向いた。

「じゃあ、あれ……僕が捕獲するので、どうか……ここは任せてくれませんか?」
「いいのか?」

 殿下が聞いてくれて、僕は頷いた。

 キャドッデさんに渡してもらった短剣に魔法をかけて、魔法で天井まで飛ぶ。
 魔物が僕に向かって放つ毒を避けて、短剣を武器に魔物の体に飛びかかる。それで羽を切りつけ魔法をかけると、魔物は次第に魔力を失い、小さくなって崩れていく。それを、魔法を使って集めて、全部鳥籠の中に突っ込んだ。
 僕の体が回復して、鳥籠の修理もちゃんとできたみたい。こんなに巨大な魔物が回収できるなんて。

 殿下が「さすがだな」って言って褒めてくれて、僕はお礼を言いながらも顔をそむけてしまった。殿下に褒められると、やっぱり嬉しい……
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