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35.こうしていられることは、僕も嬉しいのですが
しおりを挟むこうして僕は、殿下たちと一緒に店を出て、街に出た。
町外れまで歩いても、魔物を見かけることはほとんどなかった。やっぱり、殿下たちのお陰で、街の魔物はかなり減っているようだ。
街を出てからは、静かで鬱蒼とした森を歩いた。距離と速さだけを考えたら、魔法で飛んだ方がいいんだけど、街に近い辺りに魔物がいるなら、そっちも倒しておきたい。
森まで来ると、たまに魔物が飛び出してくることがあって、その度に、僕らはそれを倒して進んだ。
一緒にディラロンテたちも街を出て来たけど、魔物を倒しているうちにはぐれてしまった。できればそのままでいてほしい。魔物なら、ずっと一人で倒して来たんだから、あいつらがいなくても、なんの問題もない。
深い森の中で、風で木々が揺れるのとは明らかに違う音がして、泥でできた虫のような魔物が飛び出してくる。
だけど、僕の前で殿下を襲って、ただで済むと思うなよ!!
「ロウィスっっ! 任せてください!!」
叫んで魔法で飛び上がり、短剣に魔力を込めて切りかかれば、魔物はあっさり崩れていく。
「ロウィス!! ご無事ですか!?」
たずねると、ロティンウィース様は、僕に向かって微笑んでくれた。
「もちろんだ。もう少し下がっていていいんだぞ」
「で、でもっ……! 僕、ロウィスをお守りしたいんです……」
そう答えたけど、やっぱりロウィスはすごい。僕より魔物に気付くのもずっと早いし、魔法の威力も段違いだ。僕も早く彼に追いつきたいと思った。
「それにっ! 回復のおかげで、いつもよりずっと魔法も使えるし体も動きますっ……!! こんなのっ……なんだか僕じゃないみたいですっっ!!!!」
「そうか……」
そうかって言うから、分かってくれたのかと思ったのに、ロティンウィース様は僕を抱き寄せてしまう。
「ちっ……ちょっ……!! ろ、ロウィス!?」
「勇ましいトルフィレも可愛いが……俺もトルフィレを守りたい」
「ロウィス……」
ロティンウィース様はそう言うけど、もう十分守ってもらっている。
殿下が来てから、こんなにも魔物と戦えるようになった。知らなかったことを知ることができたし、何より、今こうして魔物退治に行けることが、とても嬉しい。街の人たちを守ることができて、殿下を守ることができる。
だけど……
「あ、あの…………」
「どうした? トルフィレ」
「あの……い、今更言うのもなんですが……護衛が僕だけで、本当によかったのですか?」
この森の中で、殿下がつれているのは、僕だけ。街から出る直前まで一緒だったアンソルラ様とフーウォトッグ様もいない。殿下に「街を頼んだぞ」と言われて、アンソルラ様は「俺もそっちがいい」と言いながら、フーウォトッグ様は「全てお任せください」と言って、街の方に飛んでいった。
だけど、森の中には、強力な魔物だっているし、これから向かう砦には、強い毒を持つ魔物だっている。護衛が僕だけなんて、殿下は不安じゃないのかな。
それなのに、殿下は平然と言った。
「もちろん、俺とトルフィレの二人きりだ! それに、俺はトルフィレを護衛にした覚えはない」
「え……」
「俺はずっと、トルフィレと共に戦いたいと思っていたんだ」
「そんな…………それは、僕だって……」
僕だって、ずっとロティンウィース様と一緒に戦いたかった。だから、今こうして二人でいられるなんて、夢みたいなんです……
「あっ……! あのっ……!! 殿下っ……!」
つい、殿下と呼んでしまったところで、背後からひどい喚き声がした。
「……トルフィレ!! 先に行くとは何事ですか!!」
そう僕を怒鳴りつけてやって来たのは、さっき魔物に襲われていたはずのディラロンテたち一行。殿下としばらく話していたから、追いつかれちゃったらしい。
というか、僕は別に置いていったつもりはない。そもそも一緒に行くつもりもない。ディラロンテたちだって、悪徳令息の僕と歩くなんて、嫌だろうから。
ロウィスを「殿下」って呼んでたことが聞こえていないか心配になって、ディラロンテの方に振り向くけど、そいつは僕が先に行ったことを責め立てているだけ。聞こえていなかったんだろう。よかった……
だけど、ホッとしたのも束の間、ディラロンテが僕を怒鳴りつける。
「トルフィレ!! 聞いているのですか!?」
「え? えっと……」
全く聞いていない。だけど、そのとおり言ったら、また怒鳴るんだろう。面倒だなぁ……ディラロンテたちと魔物退治に出たのは初めてだけど、こんなに面倒だとは思わなかった。ロティンウィース様と魔物退治しながら進んでいると、どんどん先に進めるのに。
「あの……毒の魔物が出るのは、この先の、もう使われていない砦なんです……」
「だからなんです?」
「……僕のことは気にせず、砦に向かっていただいて結構です…………」
「まだそんな勝手なことを…………使われていない砦のことなど、知るはずがないでしょう?」
「…………」
領地のことなのに……
もうディラロンテたちを道案内しながら進むのは嫌だ。
仕方なく僕は、魔法で小さな竜を作り出した。使い魔だ。これを案内役にしよう。
「……これが、砦までの道を案内してくれます……僕よりも早いと思うので、もう大丈夫ですよね?」
「あなたがしなさい」
……なんでだよ。
嫌になっていると、殿下が僕を撫でて言う。
「そういうことじゃない。魔物が溢れる森で、目的地にたどり着く自信がないのだろう」
「え……?」
殿下が言ったことが聞こえたらしく、ディラロンテたちが即座に否定している。
……申し訳ないけど……これだけはディラロンテたちの言うとおりだ。僕がいる必要なんて、ないだろ。
こうして追いかけられるのは困る……さっきの話の続きもしたい……まだ、殿下と話したいことがあるんだ。
迷っていると、僕らに向かって巨大な魔物が空から飛んできた。大きな羽を広げた、虫のような魔物だ。
すぐに殿下が魔法を放とうとするけど、僕は、その手を掴んで止めた。
「任せてください!」
「トルフィレ……?」
だって、チャンスだ。僕は、魔物めがけて魔法を放った。それは、魔物の体を貫いて爆発する。周りに強い風が吹いて、木々の葉が散っていく。その隙に、僕は、殿下の手を握った。
「失礼します!!」
一方的に言って、ロティンウィース様を連れて魔法で空に飛び上がる。上空から見おろすと、森の中にいる魔物たちが見えた。こっちの方が早い!
見つけた魔物を魔法の弾で撃ち抜きながら、一気に加速する。一応背後のディラロンテたちには「先に行きます!」とだけ告げた。
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