全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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22.できれば隠れていたいんです

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 それから僕たちは、襲われていた人を連れて、キャドッデさんの店に向かった。

 キャドッデさんの店があるのは、街の中心のあたり。武器以外にも、防具や、回復の薬なんかも多く売っている、この町では一番大きな店で、隣町の大きな商会とも、付き合いがあるらしい。

 朝の大通りは賑やかだった。こうしていると、魔物が街に溢れているなんて、何かの冗談なんじゃないかとすら思えてしまう。
 だけど、魔物は確かに街に増えているんだ。だから気をつけて歩かなきゃ。それなのに……

「あ、あのっ……ロウィス…………あの、手……」

 恐る恐る言っても、ロティンウィース様は僕の手を離してくれない。ぎゅっと握ったまま、大通りを歩いていく。

 できれば僕は、ゴミ箱の影にでも隠れてしまいたいのに……

 よく考えてみれば、送られる人がどう思うかという前に、僕自身が、とにかく人の目に留まりたくない。できればずっと地下を這って移動したいくらいなんだ。

 普段、こんな大通りを僕が歩くことなんて、ほとんどない。魔物が出て退治に行く時と夜中くらいだ。

 魔物が出た時は、みんな逃げているから、周りに人はいない。魔物を退治した後は、大急ぎでその場を離れるようにしている。

 大通りや人の多いところには、魔物を遠ざける魔法の道具が設置されていて、夜中にそれに魔力を注ぐ時もあるけど、それも深夜にするようにしている。街全体に結界も張られているはずなんだけど、最近は結界の魔法の道具の力が弱まり、機能していない。結界の魔法の道具に必要な魔力の補給なんて無理だけど、大通りの魔法の道具くらいなら、僕の魔力でも足しにはなるはずだ。

 とにかく何をする時も、出来るだけ早くその場を離れるようにしていた。僕が長くいると、みんな迷惑だろうし、何より、帰りが遅れれば、また城でひどい目に遭わされる。

 それなのに、なんで僕がこんな人の多い通りを歩いているんだ……

 朝で、明るいこともあって、気分が悪くなりそうだ。

 僕がいることを知られれば、ゴミくらい飛んでくるかもしれない。ロティンウィース様たちにそんな思いをさせるわけにはいかないのに……

「あ、あのっ……ロウィス……」
「どうした? トルフィレ」
「え、えっと……手……」
「俺と手を繋ぐのは嫌か?」
「い、いえ! と、とんでもございません……」
「それならよかった! 俺は嬉しい。トルフィレと歩くことができて!」
「……」

 そんなの、僕だって嬉しい。だけど、僕といたら殿下に迷惑がかかるかもしれないのに……

 そう思って俯いていたら、今度は殿下に肩を抱かれてしまう。

「うわっ……!」
「こうして歩くのは嫌か?
「い、嫌じゃ……ありませんけど……」
「そうか!」
「うわあっっ!!」

 嫌じゃないけどっ……!! さっきよりずっと体が密着している。肩に手が回って、背中に殿下の体が触れている。突然そんなことをされて、やけに心臓が早く動いて、僕は真っ赤だ。

 だけど殿下は、僕に向かって力強く笑う。

「トルフィレ、この先はどうなっているんだ?」
「えっ!?」
「この街で魔物を退治するなら、この街のことを知っておくことは大事だろう?」
「あ、そ、そうですね。この先は……大通りで…………先へ行くと、いくつか店が並んでいるんです…………」
「なんの店だ?」
「え、えっと……も、申し訳ございませんっ……! 説明、下手で……」

 街なんて、普段道の端をコソコソ歩くことしかなかったから、説明って言われても、難しい。
 それでも殿下が聞いてくれたんだ。なんとか知っていることを話そうとしたけど、やっぱりうまく話せなくて、辿々しい説明になってしまう。

 それでも、殿下は楽しそう。

「今日はいい日だ! トルフィレの案内で街を歩けるんだからな」
「……ロウィス……」

 僕の案内、かなり下手だと思うんだけど……それでも、喜んでくれたんだと思うと、本当に嬉しい。そう思ったら、もっと話したくなって、恐る恐る説明を繰り返しながら、僕は歩いた。
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