全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
22 / 89

22.できれば隠れていたいんです

しおりを挟む

 それから僕たちは、襲われていた人を連れて、キャドッデさんの店に向かった。

 キャドッデさんの店があるのは、街の中心のあたり。武器以外にも、防具や、回復の薬なんかも多く売っている、この町では一番大きな店で、隣町の大きな商会とも、付き合いがあるらしい。

 朝の大通りは賑やかだった。こうしていると、魔物が街に溢れているなんて、何かの冗談なんじゃないかとすら思えてしまう。
 だけど、魔物は確かに街に増えているんだ。だから気をつけて歩かなきゃ。それなのに……

「あ、あのっ……ロウィス…………あの、手……」

 恐る恐る言っても、ロティンウィース様は僕の手を離してくれない。ぎゅっと握ったまま、大通りを歩いていく。

 できれば僕は、ゴミ箱の影にでも隠れてしまいたいのに……

 よく考えてみれば、送られる人がどう思うかという前に、僕自身が、とにかく人の目に留まりたくない。できればずっと地下を這って移動したいくらいなんだ。

 普段、こんな大通りを僕が歩くことなんて、ほとんどない。魔物が出て退治に行く時と夜中くらいだ。

 魔物が出た時は、みんな逃げているから、周りに人はいない。魔物を退治した後は、大急ぎでその場を離れるようにしている。

 大通りや人の多いところには、魔物を遠ざける魔法の道具が設置されていて、夜中にそれに魔力を注ぐ時もあるけど、それも深夜にするようにしている。街全体に結界も張られているはずなんだけど、最近は結界の魔法の道具の力が弱まり、機能していない。結界の魔法の道具に必要な魔力の補給なんて無理だけど、大通りの魔法の道具くらいなら、僕の魔力でも足しにはなるはずだ。

 とにかく何をする時も、出来るだけ早くその場を離れるようにしていた。僕が長くいると、みんな迷惑だろうし、何より、帰りが遅れれば、また城でひどい目に遭わされる。

 それなのに、なんで僕がこんな人の多い通りを歩いているんだ……

 朝で、明るいこともあって、気分が悪くなりそうだ。

 僕がいることを知られれば、ゴミくらい飛んでくるかもしれない。ロティンウィース様たちにそんな思いをさせるわけにはいかないのに……

「あ、あのっ……ロウィス……」
「どうした? トルフィレ」
「え、えっと……手……」
「俺と手を繋ぐのは嫌か?」
「い、いえ! と、とんでもございません……」
「それならよかった! 俺は嬉しい。トルフィレと歩くことができて!」
「……」

 そんなの、僕だって嬉しい。だけど、僕といたら殿下に迷惑がかかるかもしれないのに……

 そう思って俯いていたら、今度は殿下に肩を抱かれてしまう。

「うわっ……!」
「こうして歩くのは嫌か?
「い、嫌じゃ……ありませんけど……」
「そうか!」
「うわあっっ!!」

 嫌じゃないけどっ……!! さっきよりずっと体が密着している。肩に手が回って、背中に殿下の体が触れている。突然そんなことをされて、やけに心臓が早く動いて、僕は真っ赤だ。

 だけど殿下は、僕に向かって力強く笑う。

「トルフィレ、この先はどうなっているんだ?」
「えっ!?」
「この街で魔物を退治するなら、この街のことを知っておくことは大事だろう?」
「あ、そ、そうですね。この先は……大通りで…………先へ行くと、いくつか店が並んでいるんです…………」
「なんの店だ?」
「え、えっと……も、申し訳ございませんっ……! 説明、下手で……」

 街なんて、普段道の端をコソコソ歩くことしかなかったから、説明って言われても、難しい。
 それでも殿下が聞いてくれたんだ。なんとか知っていることを話そうとしたけど、やっぱりうまく話せなくて、辿々しい説明になってしまう。

 それでも、殿下は楽しそう。

「今日はいい日だ! トルフィレの案内で街を歩けるんだからな」
「……ロウィス……」

 僕の案内、かなり下手だと思うんだけど……それでも、喜んでくれたんだと思うと、本当に嬉しい。そう思ったら、もっと話したくなって、恐る恐る説明を繰り返しながら、僕は歩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

処理中です...