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17.僕を糾弾するべきでは?
しおりを挟む王子殿下が、急にそっと優しく触れてきて、僕は、ほとんどパニックに陥っていた。
「で、殿下っ……ど、どうかっ……! あ、あのっ……! ひっ……」
もう限界だ。ドキドキしすぎて、胸が痛い。
その時、扉が開く音がした。そして、二人の男が部屋に入ってくる。一人は、背中に小さな竜の羽があって、真っ黒なマントを羽織った、背の高い男。藍色の、肩につくくらいの長さの髪を、竜の柄の大きなリボンで括っている。
もう一人は、頭に大きな猫の耳があって、肩にかけただけの長いローブの下から長い猫の尻尾を出した、細身の長い茶髪の男性。手にはいくつも書類のようなものと分厚い本、いくつかの新聞を持っていた。
ロティンウィース様も、扉を開けて入ってきた二人に振り向く。そして、ベッドの上で僕を押し倒しているとは思えないくらい、いつもと全く変わらない様子で言った。
「フーグ、アーソ……もう帰ってきたのかー。そっちは終わったか?」
フーウォトッグ様と、アンソルラ様……? もしかして、昨日の猫と小さな竜か? 人の姿になったところ、初めて見た……
多分、猫耳の方がフーウォトッグ様で、竜の羽がある方が、アンソルラ様だろう。
フーウォトッグ様は、ロティンウィース様に「こちらは終わりました」と答えるけど、ベッドの上の僕たちを見て、だんだん顔色が変わっていく。
……まずいんじゃないか……? だって、僕はこのあたりで評判最悪のクソ領主の息子。しかも、一度殿下に襲いかかっている。そんな奴が、一緒に魔物退治をする従者としてそばに控えているだけならともかく、ベッドの上で殿下とこんなことしてるなんて。
王家に仕える彼らにしてみれば、とんでもない事態のはず。王家に対する不敬で、僕は処刑されてもおかしくないんじゃ……
慌ててロティンウィース様から離れようとするけど、彼は僕から離れてくれない。それどころか、僕のことをますます強く抱きしめる。
殿下は分かってないんだ。僕は本当は、殿下にこんな風に抱きしめられていい奴じゃないんだ。
「あ、あの……で、殿下っ……! ど、どうかっ……離してくださいっ!! い、いけませんっっ!!」
「嫌だ。抱きしめるのは、いいんじゃないのか?」
「い、いいですけどっ……!!」
僕とこんなことしてたら、王家の評判にまで関わる。王族に勘違いで襲いかかったクズなんか、王子が抱きしめてちゃダメだ。
それなのに、ロティンウィース様は「嫌だ」と言って、二人の前でも僕をぎゅっと抱きしめて、離してくれない。それどころか、尻まで強く揉まれて、僕は小さな声で悲鳴を上げてしまう。
すると、フーウォトッグ様が、血相を変えて、姿も虎くらいの大きさの猫になって、飛び掛かっていく。しかも、なぜか殿下の方に。
「なんてことを!! 嫌がるトルフィレ殿を押し倒し、乱暴を働こうとは!!! 見損ないましたよ! 殿下!!」
怒鳴りながら、彼はベッドの上で、僕を庇うように立つ。
……もしかして、僕の方が守られてるの? どう考えても、僕を糾弾しないといけない場面だと思うのだが。
それなのに、フーウォトッグ様は、王族と話しているとは思えないような言葉で殿下を罵り、僕に振り向いて「大丈夫ですよ。私がきたからには」なんて言ってる。
だけど、僕は乱暴なんて働かれてないし、むしろロティンウィース様にそうされて、嬉しかったんだ。
「あ、あのっ……! 違うんです!! 殿下は、僕に何もしていません!!」
叫んでも、フーウォトッグ様は聞いてない。
すると、竜のアンソルラ様も、フーウォトッグ様と同じくらいの大きさの竜になって、大きな猫と対峙した。
「口うるせー野郎だなーー。ここは俺らが黙って出ていくところだろ!!!! むしろ玩具と媚薬の一つもこっそり置いて行ってやるべきだ!!」
……それもちょっと困る……というか、王子殿下と僕がこんなことしてることには反対しないのか!?
呆然とする僕の前で、二人は、そのサイズのまま、昨日のように喧嘩を始めてしまう。だけど、昨日みたいに小さな猫と小鳥くらいの大きさの竜ならともかく、虎サイズの猫と竜の喧嘩だと、部屋まで大変なことになる。アンソルラ様の羽ばたきで布団は落ちて、フーウォトッグ様が飛び掛かったテーブルと椅子が倒れて、僕は真っ青。止めなきゃと思うけど、相手は大貴族の二人。慌てふためきながら蚊の鳴くような声で「どうかやめてください」と言うことしかできない。
その間ロティンウィース様は、「玩具と媚薬を用意してから押し倒せばよかったのか」なんて、全く的外れなことを言って頷いていた。
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