全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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16.誰か来てーーーー!!

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 もう何が何だか分からずに震えていると、ロティンウィース様の手が伸びてくる。その手が怖いはずはないのに、僕の体はビクッと震えてしまう。

 殿下が僕を傷つけるはずがないのに、勝手に怯える僕の頬に、ロティンウィース様は、優しく触れた。

「…………トルフィレ……」
「あ……」

 ほんの少し触れられただけなのに、僕の体は震えてばかりだ。
 こんなの、無礼じゃないか。ロティンウィース様には、心から感謝しているのに。

 それなのに、ロティンウィース様は、震える僕にそっと触れてくれる。くすぐるようにされて、恐怖ばかりだった心が少し温かくなった。

 少しずつ、息が上がっていくのが分かる。怯えていた感情は、ゆっくりなりを潜めていくのに、鼓動が早まる。

 なんだ……これ……僕、変だ。

 あと、ロティンウィース様も!!

 何でどんどん顔近づけてくるの!?

 確かにどうされてもいいとは言ったけど! こんなの聞いてない!!!! 何で僕が求婚されてるの!? こんなの無理です!!

 だけど、顔をそむけようとしたら、今度は唇に触れられた。指で、軽くそこを押されて、動けなくなる。
 な、なんだか恥ずかしくなってきた……

 何されてるんだ、僕は。確かに触っていいとは言ったけど!!
 こんなふうにされるなんて、思ってなかった。

 何でこんなに恥ずかしいんだっ……

 怯える僕に、ロティンウィース様が優しげに微笑む。

「……トルフィレ…………もう、俺のものだからな?」
「…………」
「キスをしたことはあるか?」
「……っっ!!??」

 キス!!!?? きすって、口づけのこと!!?? ある訳ないだろそんなのっっ!!!!

 激しく首を横に振る。

 すると、ロティンウィース様はなんだか嬉しそうに笑った。

「そうかっ…………! よかった」
「………………っっっっ!!??」

 殿下の唇が近づいてくる。

 え!!?? え!? え!? 本気!!??

 僕のことなら好きにしていい。それは心からの言葉だ。本当にそう思ったから言った。
 だけど、これは予想外どころか、僕の全く知らないこと。

 殿下になら、どうされてもいいけどっ…………!

 つい、逃げるように微かに頭を動かしてしまう。

 すると、そんな微かなことにも、殿下はすぐに気づいてくれた。
 僕からほんの少し離れて、それでも、目と鼻の先で止まる。

 ロティンウィース様と目があって、僕は涙が出そうだった。

 僕、殿下に会ってから、泣いてばかりじゃないか……嬉しいことしか、されていないはずなのに。

 すると殿下は、また僕から少し離れて、僕の頭に触れた。そして、慰めるように撫でてくれる。

「………………焦りすぎるのも、良くないな!」
「……でんか…………」
「……俺のことが怖いか?」
「そんなことありませんっっ!!」

 目の前にいる殿下に伝えるだけなのに、そうとは思えないような大声で答えると、殿下は少し驚いたようだったけど、すぐに微笑んでくれた。

「そうかっ……! それならっ……よかった!!」
「……殿下…………」
「俺のことが嫌なわけではないのだろう?」
「い、嫌だなんてっ……と、とんでもございませんっ……!」
「……それならいい。ゆっくり距離を近づけた方がいいと、フーウォトッグにも言われたからな!!」
「…………」

 もしかして、猫のフーウォトッグ様と、小さな竜のアンソルラ様が、ずっと殿下に向かって言っていたことも、そういう相談だったのか!!?? やりたいとか押し倒せとか……!! 確かに今、僕はベッドの上にいて、殿下も一緒。
 ……やっぱりそういうことを話していたのか!!??

 今更気づいて、恥ずかしくて、涙目になる僕に、殿下は優しく微笑む。

「代わりに、抱きしめてもいいか?」
「え………………?」
「ダメか?」
「い、いえっ……! と、とんでもございませんっ……」

 何度も首を横に振る。
 好きにしていいです、なんて言ったくせに、いざその内容を知ったら怖気付いて拒否だなんて、また無礼なことをするわけにはいかない。
 なにより……殿下にそうされると、訳がわからなくてドキドキするけど、嫌なんかじゃない。

 僕は、震えながらでも、恐る恐る、両手を前にだした。

「ど……どう……ぞ…………」
「…………」

 しばらく僕を見下ろして、殿下は、怯えている僕の手を優しくとり、そっと引き寄せてくれる。

 手を握られると、僕の体から力が抜ける。いつもすぐに自分を守れるように、緊張しながら周りを警戒していたはずなのに。

 されるがままに抱き寄せられて、僕の体は、また殿下の腕の中にすっぽり埋まってしまった。

 昨日は、抱きしめられただけで身体が痛くて、悲鳴を上げてしまったのに、もうそんな痛みすら感じない。
 殿下が回復してくれたからかな……優しく包み込まれるようで、あったかい。
 最後に残っていた微かな緊張も、体から消えていく。
 さっきの布団も気持ちよかったけど……何だかもう……蕩けそうだ。

「殿下……」
「………………キスは、トルフィレがいいと言うまで待つことにしよう……」
「そ、そんな…………」
「代わりに、俺が満足するまで抱きしめられろ」
「え……?」
「……嫌か?」
「そっ、そんなことっ……ありませんっ……!」
「そうか?」
「……はい……こ、こうされるのは…………す、す、すごく……う、嬉しい、ので……」
「………………そうか……」

 そう言った殿下の声が、何だか嬉しそう。彼の腕に、軽く力が入る。少し感じるその力強さすら気持ちいい。

 殿下の腕に身を委ねていたら、そのままベッドに押し倒されてしまった。

「あ、あのっ……殿下っ……!?」

 僕の隣で、殿下もベッドに横になっていて、そのまま引き寄せられる。

「トルフィレ……好きだ…………」
「ひっ!!」

 僕の背中に殿下の手が回り、尻までつかむようにされて、その度に、僕はビクビク震えてしまう。

「……ぁっ……! ぁっ……あのっ…………殿下っ……!!」
「……トルフィレーー……」
「ひぅっ…………!」

 くすぐったいし温かいし、なんだかゾクゾクしてきた! なんだこれっ……何で僕がこんなに抱きしめられてるの!? やっぱりダメな気がする!

 あの猫と竜どこ行ったんだよ! 止めろよ!!!! 何でこんな時だけ誰もいないの!?? 誰か来てくれーーーー!!
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