全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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14.こっちの方が、だめなことだと思います!

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 僕が突然取り乱したので、キャドッデさんを焦らせてしまったようだ。

「と、とにかく、お、落ち着いてください……俺たち、本当に……魔物のことに関しては、トルフィレ様に感謝してますから……」
「はい…………」
「あっ……! ぶ、武器っ! 武器が必要になったら言ってください! この泥のこと話せば、他にも協力してくれる奴はいると思うので……」
「ほ、本当ですか!? だ、だったら……お願いしたいことがあるんです!! き、今日……武器を使いたくて……」
「……また魔物退治ですか?」
「は、はい……」
「……回復、しましたか?」
「……え?」
「あ……いや…………武器のことは、構わないんですけど……」
「本当ですか!? お、お願いしていいんですか!?」
「……俺はこれから、大切な客の相手と、商品の武器の用意をしなきゃならないので……店には帰れないのですが……代わりに、信頼できる仲間に話しておきます! いつもみたいに裏口から俺のこと呼んでもらえば、出ていくように話しておくので……」
「あ、ありがとうございます!」

 よかった……これで、武器を持って行ける。今日はロティンウィース様をお守りするって決めているんだから、武器があった方が絶対にいい。

 そうだ。僕はロティンウィース様を探さなきゃならないんだ!

「あ、あのっ……武器のこと、本当にありがとうございます! ぼ、僕、そろそろ……」
「俺も、仕事があるからもう行きます! ほ、本当に、ありがとうございました!」

 彼は、僕に頭を下げて去っていく。

 あんなに喜んでもらえるなんて……あれを渡せて、本当によかった。いつもみたいに城に帰っていたら、絶対に渡せなかった。

 ……僕……なんであんな城に、いつも帰っていたんだろう…………魔物を追い払って、この地を守ることだったら、あの城に帰らなくてもできるのに。

 なんだか胸が苦しくて、俯いていたら、こっちに向かって駆け寄ってくる足音がした。

「トルフィレー! 何をしているんだー?」

 振り向けば、廊下をこっちに向かってロティンウィース様が走ってくる。

「ロティンウィース様っ!! ど、どちらに行かれていたのですか!?」
「少し用事があってな! もう終わった!!」

 そう言って、ロティンウィース様はにっこり笑う。
 用事って、こんな朝早くから? 王子殿下はやっぱり忙しいのか……

 だけど、その笑顔を見ると、僕はなんだか安心した。

「トルフィレこそ、何をしてたんだ?」
「ぼ、僕は殿下を探しに行こうと……あ、朝起きたらいらっしゃらなくて……ぼ、僕がまた何かしでかしてしまったのかと……」
「トルフィレが? 何もしてないぞ?」
「……え……?」
「……昨日、俺が抱っこしていたら、俺の腕の中で気絶してしまったんだ! 疲れていたのだろう……だから、ここまで運んだ!」
「……う、腕の……中で…………?」

 血の気が引いていくのが分かった。

 やっぱりとんでもないことをしていた。

 僕は、泥だらけの姿で殿下に抱っこされて、喚いて、しかも気を失って、さらにはここまで運ばせてしまったんだ。

 そんなことを、王子殿下にさせるなんて……

「も、申し訳ございませんでっ……うわあああっっ!!」

 すぐに跪こうとしたのに、また昨日みたいに抱き上げられてしまう。

 驚く僕を見下ろして、殿下は楽しそうに笑った。

「謝罪はいいと言っただろー?」
「そ、そんなっ……でもっ……!!」
「俺は謝罪なんて望んでいない! そんなことより、俺はトルフィレと食事がしたい!!」
「し、食事?」
「ああ!! 昨日はできなかっただろう? だから、せめて回復の魔法をかけて、魔力も回復しておいた」
「そ、そんなことまで……」
「今日は俺と腹を満たすぞ! これからは、魔力だけ回復して魔物と戦うのも禁止だ!!」
「……え?」
「そうしていたんじゃないのか?」
「な、なんで、そんなことまで……」

 なんでそんなことまで知ってるんだ……

 魔力さえあれば、それを使って体を無理やり動かすこともできる。だから、お腹が空いてもご飯を食べられない時、森に魔物退治に出た時に見つけた、数少ない魔力を回復する力を持つ薬草で、魔力だけ得て、魔物退治を続けたりしていた。

「で、でも、僕……」
「魔力だけで体を動かすと負担になるから、あまりやらない方がいい! さあ! 飯の時間だ!」

 殿下は、僕を下ろす気はないようで、そのまま部屋の中に連れて行ってしまう。

「待ってください! し、食事は分かりましたからっ……! で、殿下っ……あ、あのっ…………ぼ、僕っ……じ、自分で歩きます!」
「だめだー。傷は塞いだし、毒も消し去ったが、トルフィレの体に溜まったダメージは、そう簡単に癒えるものではない。しばらくは、きちんと休むんだ!!」
「でもっ……!」
「だめだ」

 殿下はそう言って、僕を抱っこしたまま部屋に連れていく。僕が何を言っても下ろしてくれない。何度も王子に抱っこされて運ばれる方がだめなことだと思うのだが!??
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