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5.いきなりそんな風に触れると、嫌われてしまいます!

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 相手が、僕が勘違いで襲撃してしまった竜の王子だと気づいた僕は、地面に跪いて平謝りだ。

「も、申し訳ございません!! 殿下!!」

 ずっと謝ろうと思っていた人に、いきなり無礼を働くなんて、僕の馬鹿。今度こそ死刑だ。まだ僕にはしなきゃならないことがあるのに。死刑って、しばらく待ってもらえるのかな……

 混乱しながら涙を流して跪く僕の、地面についた手が、ロティンウィース様に強く握られた。そして、そのまま強引に立たされる。
 顔を上げたら、ロティンウィース様と目があって、胸が痛くなった。

「あ……あの……」
「何をしているんだ!? トルフィレ!!」
「な、何って……だって、僕……無礼を……」
「無礼? そんなことはいい! 立ってくれ! せっかく会えたのに!」
「え……?」

 えっと……い、いいのかな?? 僕、かなり酷いことをしたと思うんだけど……

 だけど、立てと言われたので、立つことにする。

 すると、ロティンウィース様は嬉しそうに微笑んだ。

「やっと会えたな……トルフィレ……忘れられたかと思ったぞ」
「も、申し訳ございません!! あの……ひ、人の姿だったので……」

 あの時ロティンウィース様は、ほとんどずっと竜の姿をしていて、人の姿になったのは、今みたいに跪いて謝った僕を立たせた時だけ。だから気づかなかったんだ。

 おろおろしていると、ロティンウィース様はいきなり僕の肩に手を回してきた。

「今日はトルフィレに会いに来たからな! それに、街中で竜だと、目立つだろう?」
「は、はい…………」

 確かにそうだけど……肩を抱く必要はなくないか!?

 そばに人がいる……僕の肩に触れて、僕を引き寄せている。

 ゾッとした。

 反射的に突き飛ばしそうになる手を、必死に抑える。
 相手は王子……冷静に対応しなきゃ……

「あ、あの…………で、殿下…………」

 なんとか伝えようとした声が震えている。それに掠れて、多分ロティンウィース様に聞こえていない。

 すると、王子の肩に乗っていた猫が、ロティンウィース様に、咎めるように言った。

「殿下。無茶ばかり言ってはいけません」

 彼は、今は猫の姿だが、ロティンウィース様の側近で、国王陛下にも一目置かれる優秀な軍師、フーウォトッグ様。僕がロティンウィース様と戦った時も、ずっと彼のそばにいた。

「殿下……いきなりそんな風に触れると、怖がらせてしまいます。そんなことをしていいのは、もっと長く付き合ってからですよ!!」

 なんのアドバイスなんだろう……よく分からないけど、フーウォトッグ様が言うんだ。何か大切なアドバイスなんだろう。

 ロティンウィース様も頷いた。そして、こっちに丸聞こえの小声で、フーウォトッグ様と相談を始める。

「なるほど……馴れ馴れしくしては嫌われる、ということだな?」
「そうです!」

 けれど、今度は殿下のそばを飛んでいた小鳥くらいの大きさの小さな竜が、首を横に振る。最強の近衛隊長として名高いアンソルラ様だ。ちょっとゲスだけど、一人で魔物の群れを焼き尽くすほどの力を持つらしい。
 彼は呆れたように言った。

「お前ら馬鹿? そーんなことしてたら、こんな可愛い子、誰かに取られちゃうよ? 相手は婚約者候補がいるんだからー」
「婚約だと!!??」

 驚くロティンウィース様に、竜はさらに続ける。

「そうだよ、早く押し倒せって! やっちまえ!!」

 なんだか不穏なことを言い出した竜に、王子の肩に乗った猫が言い返す。

「なんて下品な!! し、しかも、相手の同意を得ずにお、お、押し倒すなどっ……! 殿下! 聞いてはなりません!! この外道の言う通りにしていては、永久に結ばれることなどありませんよ!」
「はあーーーー? 黙れよ! お前の言うこと聞いてたら、一生どころか死んでも結ばれないね!」
「下品な鳥は黙っていろ!!」
「ああ!!?? 俺は竜だぞ!!」

 なんだかわからないが、二人して謎の言い合いを始めている。
 国の中枢にいるはずの軍師と近衛隊長が喧嘩してるのに、ロティンウィース様はまるで気にしてない。それどころか、「仲良くなってから押し倒せばいいのか」と、どちらも真に受けたようなことを言っていた。
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