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4.気づいたら、嵌められてた。僕って馬鹿……
しおりを挟む第二王子、ロティンウィース様。僕は以前、この人と戦ったことがある。
まだこの領地に僕の家族がいて、領主の一族として暴虐な振る舞いをしていた頃。
僕はある日父上に、森の向こうで暴れている竜の盗賊を追い払ってこいと言われた。
その頃、魔物が酷く増えていて、城にいた魔法使いや兵士たちは、それを退治するだけで手一杯だった。それはもう、近隣の貴族に援軍をお願いするしなければならないくらいに。
初めて頼りにされたんだと思い、僕は喜んで討伐に向かった。
今になって思えば、僕ってすごく間抜けだなー…………
父上には「他に一緒に討伐に向かう仲間を集めておいた」なんて言われて、僕のために竜退治のパーティを用意してくれるなんて! って、有頂天になってた。
その日、城には、父の知り合いだという貴族の魔法使い、クヴィーディス家のディラロンテと、その父のアフィトシオがやってきた。彼らは、父の領地を守るために来てくれたと言っていた。
ここでまた僕は、「僕のためにこんなに仲間を集めてくれた……」と感激。
そして僕は、ディラロンテと彼らが連れてきた魔法使いのコンクフォージ、平民から募った剣士のブラットル、他に数人の魔法使いを連れて、盗賊を追い払いに向かった。
その時は、僕にもできる気がしてた。
森の中で、巨大な竜を見つけたコンクフォージが、「あれが盗賊だ!」って叫んで、僕は張り切って竜に襲いかかった。
だけど、結果は惨敗……
そりゃそうだ。
だって、実際に戦ったのは僕だけ。他の連中は後方支援だの作戦会議だのと称して、なぜか全然動かない。挙句の果てにコンクフォージが、領主の息子が嫌がらせをしてきたと言って泣き出す始末。
出発前から、嫌な予感はしていた。
だって、ディラロンテは、「みんなで力を合わせ勝利を掴もう!」なんて言ってたけど、装備の不足は明らか。他のみんなも、まるでやる気がない。中には、竜のところに向かう途中、僕が討伐した魔物の素材を集めることにしか興味がない奴もいた。
そして、竜に負けた僕たちが敗走する時になって、大切なことが発覚した。
それはもう、僕がそれまでやってきたことをめちゃくちゃに破壊するような。
僕らが敵だと思い込んで襲い掛かった竜は、援軍として森に来ていた竜族の王子だった。
………………そんなことあってたまるか!!!!
だけど、巨大な竜が僕の前で人の姿になって、その人が王家の外套を羽織っていた時、それは紛れもない事実だと認めざるを得なくなった。
なんで魔物退治の援軍に来てくれた王子が、こんなところにいるんだ!!
本当に、そう思った。
だけど、それが事実なんだから仕方がない。
王子、ロティンウィース様は、僕らに後ろから襲いかかられて、それはそれは驚いたと言っていた。
斬首を覚悟したけど、跪いて謝る僕に、王子は、「俺もむきになって反撃して悪かった、怪我はないか」と信じられないくらい寛大なことを言ってくれた。
助けに来てくれたのに後ろから襲いかかって魔法を撃った僕なんか、処刑されて当然なのに、王子は「トルフィレの魔法はすごいな」と言って、僕の頭を撫でてくれた。涙が出るほど嬉しかった。
そして王子たちが、その時領地に現れていた魔物を倒してくれて、領地には平和が戻った。
だけど、僕に平穏はこなかった。
城に帰ったら、父上をはじめとする僕の一族が、城にいなかった。
代わりにディラロンテの父、アフィトシオ・クヴィーディスをはじめとするクヴィーディス家の皆さんが我が物顔で城にいたから、びっくりした。
僕の一族は、散々領地で好き放題やって遊び呆けて、魔物をずっと放置していたことがバレそうになって、リゾートにあるクヴィーディス家の別荘に逃げたらしい。
そして、アフィトシオ・クヴィーディスは、僕に言った。
ほとぼりが冷めるまで、僕の一族はその別荘で過ごし、その生活を支援する見返りとして、アフィトシオが領主の代わりなることになったと。
僕が竜退治に行っている間に、一族はみんな逃げてたーー…………
僕だけ取り残された。
爪弾きはいつものことだから、不思議には思わないけどさーー…………
むしろ、取り残されただけなら、別によかったんだ。もう事あるごとに馬鹿にされたり罵声を浴びせられたり殴られたりしないし。
だけど、僕が残されたのは、違う役目があったからだった。
父が残した手紙を読むと、ディラロンテはお前の婚約者だって書いてあった。
はい?
なんだそれ。僕、知らない。
だけど、ディラロンテに聞いても、そう言われていると言っていた。
なんてことだ。僕は見知らぬ男と婚約していたらしい。
そんな馬鹿な話があってたまるか。
他人の息子に言う前に僕に言え。
だけどそれが、一族が逃してもらう見返りだったらしい。アフィトシオは、一族を逃して世話をする代わりに、ディラロンテと僕を結婚させて領地を好きにしていいと言われていたんだ。
なんだそれ。それでも領主か。
僕は、見知らぬ男、しかも、こんなに乱暴な奴と結婚なんてやだ。
嘆く僕。
するとアフィトシオは手紙を破り捨て、婚約なんてしなくていいと言ってくれた。
そんなことしなくても、領地は守ると言われて、僕はその時、また感謝してしまった。
だけど、アフィトシオの目的は僕を助ける事じゃなくて、一族を完全に領地から排除することだった。
ありがとうなんて言った僕の大馬鹿。クズ。もう死ねよ。
アフィトシオにしてみれば、僕とディラロンテが婚約してしまったら、いつまでも僕の一族の影響力はこの領地に残ったまま。それより、一族をなんとか騙して、領地を譲り渡すように仕向けたいらしい。志が高くて羨ましいです。
だけど、僕とディラロンテを結婚させて、領地のうま味だけをもらいつつ、自由気ままな逃亡生活を送るんだーって楽しみにしていたらしい僕の一族は激昂。
対するアフィトシオたちは、僕の一族を疎ましいと思いつつ、領地は欲しいから、二つの一族の間では、腹の探り合いと交渉が続いている。
もう勝手にすればいいけど、僕だけどっちにとっても邪魔者になった。
利用価値がなくなった僕に、一族は勘当を告げた。
だけど、アフィトシオたちには、僕にはまだ利用できるところがあるんじゃないかと思われたらしい。
いつのまにか、僕は領地でわがまま放題していたことが王家にバレそうになったから王子を襲ったという噂まで広がっていた。
しかも、あの時何もしなかったディラロンテたちは、身勝手な悪徳令息から王子を身を挺して守った勇者ってことになっていた。
こうしてディラロンテたちは、勇敢な魔法使いとして称賛されることになった。
そして僕は、民たちから見れば、逃げた悪徳領主のくそ息子。
代わりに来たアフィトシオたちも、領地にはあまり興味がないらしく、昼間から酒を飲んで、増える魔物は放置。搾取することしか考えていない彼らも、悪評が広がりそうになるたびに、元領主のわがまま息子が全て指示していると言う。
そこまで来て、やーーっと僕は、全部嵌められていたんだと気づいた。
我ながら、あまりに遅すぎる……
こうして、悪い事全部押し付けられた僕は、領主の城で一生働く奴隷になった。アフィトシオには、普通なら処刑だぞ、と言われた。王子に手を出したんだし、僕だって、そう思う。
それからというもの、僕は城の地下牢に閉じ込められるようになった。魔物を退治したり素材を集めたり城の雑務をこなしたり、早い話、奴隷として働くときだけ、外に出してもらえる。
ディラロンテに聞いたが、王子は本当は怒っていて、重い処分を下してほしいと言っていたらしい。
ここまでくると、僕は、外に出ることも、他人も、貴族も怖くなった。
心残りなのは、王子にありがとう、ごめんなさいって、言えなかったことだ。
どうせ仕えるなら、王子に仕える奴隷になって、僕のしたことの償いをしたかったけど、もう、それは無理だろうなぁ……
そんな風に思っていたのに、また再会できるなんて。
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