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2.それは不可能な嫌がらせです

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 俯いていた顔を上げると、コンクフォージと目があってしまった。
 彼は、涙目でディラロンテに訴える。

「ディラロンテ様!! 見てください!! 睨んでます!! 反省してませんよ!! 俺を背後から襲っておきながら!!」

 またそんな不可能なことを言い出した……

 僕はずっとこの地下にいることを強いられているから、今日は朝からコンクフォージには一度も会っていないのに、どうやって襲うんだよ。

 だけど、僕がそんなことを訴えたところで、ここでは誰も聞いてくれない。
 結局、僕が何をしても、僕が全部悪いってことになるんだ。

 俯いていたら、ディラロンテは僕に向かって、庇うように両手を広げた。

「彼には彼の言い分があるのでしょう。それを聞いてみようではありませんか!」

 すると、誰もがその言葉を称賛して、僕の方に振り向いた。

 なんか言い訳しろってことだろう。

 だけど、言い分と言われても、僕は何もしていないし、嫌がらせもしていない。でもそれは、ここに入れられる前に何度も繰り返し訴えている。もう喉が痛いくらいだ。
 それでも誰にも聞いてもらえず、散々否定され続けたし、今また同じことを言っても、また暴力を受けるだけと知っていて口を開けるほど、僕も学習しない方でもない。

 黙っていると、ディラロンテはため息をついた。

「困りました……何も言ってくれないのですか……私はあなたの言い分を聞こうとしているのに……」

 やけに大袈裟な態度で残念がるディラロンテに、周りの奴らは次々に賛成する。

「もうこんな奴、ここに置いておく必要ないですよ」

 そう言って僕を見下ろした取り巻きのうちの一人が、運悪く、僕が正座した足の下に隠したものを見つけてしまう。そしてそいつは、すばやく僕が持っていたものを取り上げた。

「こいつっ……! 何か持ってます!!」
「返せっ……!」

 手を伸ばすけど、届かなかった。

 その男から鳥籠を受け取ったディラロンテは、酷い顔で僕を見下ろす。

「なんですか? これは」
「…………魔物と戦うための道具です……返して……ください……」
「返せません。こんなものを持っているなんて……許せません」
「な、なんで……ですか…………? ぼ、僕っ……普段から魔物と戦っているんです! だったら、僕がそれを持っていても、別に……おかしいことじゃないんじゃ……」
「黙れっ……!!」

 怒鳴りつけて、ディラロンテは僕を鞭で打った。
 額が切れて、血が流れる。

「お前のような悪辣な男を、私たちはここに置いてあげているのに……そんな態度だなんて……呆れます。ただで済むとは思わないことです」

 そう言うディラロンテに、取り巻きの一人が言う。

「もしかして、その鳥籠で、またあの竜の王子を襲撃する気なんじゃないんですか?」

 それを聞くと、僕は今度は罪悪感で吐きそうになる。

 この男が言っていることは本当で、僕は、この国の竜族の王子、ロティンウィース様を、悪事を働く竜と間違え背後から襲ったことがあるんだ。
 あれは本当に申し訳なかったと思っているし、謝罪もしたいけど……多分もう無理なんだろうな……ディラロンテたちが、僕を解放するはずがない……

 ディラロンテは、その取り巻きを睨みつけて黙らせると、鞭を握ってゆっくり僕に近づいてきた。
 この男はいつも、躾だの指導だのと言って、僕を拷問する。

「押さえていろ……」

 ディラロンテに言われて、僕の右腕をさっきの取り巻きが掴み、コンクフォージが左腕を掴む。

 また鞭で打たれるんだろう。

 だけど、その鳥籠だけは返してもらわないと困る。

 僕は、ディラロンテに頭を下げて懇願した。

「お願いします。どうか、それを返してください。それがないと、魔物と戦えなくなります」

 下げた頭には、水が投げつけられた。さっきの毒入りの水、まだあったんだ。水浸しになった僕を、ブラットルが怒鳴りつける。

「魔物と!? 嘘をつけ!! どうせまた、コンクフォージ様をいじめるつもりだったんだろう!」
「ディラロンテ様!! こんな奴、丸腰で魔物の前に突き出せばいいんです!!」

 続いて喚くコンクフォージに、ディラロンテは微笑んだ。そして、「コンクフォージ様の言うとおりだ!」と言って僕を嘲笑うブラットルも制止して、僕に振り向く。

「構いませんよ。あなたがこの罰に耐えられたら」

 そう言ってそいつは、楽しそうな笑みを浮かべ、鞭を振り上げた。
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