好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐

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12.やっと

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 俺は、もうなんのことか分からなくておろおろするだけ。だけど、求婚なんて、本当に知らない。

 焦るばかりの俺の手を、殿下は離してくれて、頭をかいて、真っ赤な顔のまま言った。

「な、なんで覚えてねえんだよ……た、確かに渡したぞ。一年前……こんくらいの箱」

 殿下は両手で、拳くらいの大きさの箱の形を作って見せてくる。

 それ、ウィセーアが言ってたのと同じものか? 一年前……?

「あ、もしかして……」

 俺は、ひとつだけ心当たりがあった。
 顔を上げた俺に、殿下はムッとして言った。

「……思い出したかよ……」
「え、えっと……もしかして…………箱、押し入れの奥かも……」
「はあ!? なんでそんなとこにっ……!」
「す、すみませんっ……!! え、えっと、そのあのえっと……あ、あの……!」
「…………分かった」
「え?」
「……今から、お前の部屋に行く……そこで探すんだよ! 指輪!!」
「は、はいっ!!」

 返事をする俺に、殿下がますます近づいていた。そして、俺をいきなり横抱きに抱き上げる。

「え、ええええっ……!? あ、ああああああああのっ……うわああああああああっっ!!!!」

 驚く俺を、軽々と俺を抱き上げた殿下は、そのまま学園の屋根まで飛び上がる。

「屋根の上を行った方が早い……」
「い、いいいいいいいいやっっ……! お、おりますっ……!! お、おおおおおろしてっ……ください!! おりますっ……!」
「るせえよっ!!」

 怒鳴りつけられて、また、俺の体がビクって震える。
 殿下は俺の方を見ないまま、屋根を走りながら、ぼそっと言った。

「……たまには大事にされてろ。バーカ……」
「え……」

 ど、どういう意味だろう……よくわからないけど、殿下がこうされてろと言うなら、暴れることもできない。
 俺は、抱っこされたまま、寮まで連れて行かれた。







 へ、部屋、もっと綺麗にしておけばよかった……

 殿下を部屋に招き入れた俺は、後悔と恥ずかしいのと、殿下がいてドキドキするのとで、真っ赤になりながら、押し入れを開いて、殿下に言われた箱を探した。

 殿下……部屋の中をキョロキョロ見渡している。は、恥ずかしい……早く探さなきゃ!!

 押し入れには、幾つも段ボールが積んである。その、一番下の一番奥。確か、この段ボール箱の奥に入れたはずっ……!

 焦って、目当ての段ボール箱を引き抜くと、当然上にあったものが俺のほうに落ちてくる。
 頭の上に落ちてくることも覚悟の上だったけど、殿下が、それを全部受け止めてくれた。

「……気を付けろ……」
「もっ……申し訳ございません! あ、あ、あ、ありがとう……ございます……」
「それか?」
「は、はい……」
「……さっさと俺の指輪探せ!!」
「は、はい!!」

 大慌てで、段ボール箱を開く。中にはいくつかの箱があって、その一番奥に、ちゃんとあった。俺が殿下から投げつけられた箱を入れた箱だ。絶対になくさないように、鍵のかかる箱に入れて置いておいたんだ。

「あ、ありました……」

 俺がその箱の鍵を開けると、中には確かに、あの日殿下に渡された箱が入っている。

 殿下は、俺からそれを取り上げると、箱を開いてくれた。

 中には、金色に光る指輪。

「ほ、本当に……指輪……」
「てめえ……俺が嘘つくと思ってたのか……?」
「い、いいえっ……そんな……でも、まさか、中が指輪だなんて、思わなくて……」
「……まあ、投げつけた俺も悪かったけどよ……」

 言いながら、殿下は頭をかいていた。あの日のことは覚えている。

 ここの寮の部屋に初めてきて、殿下が部屋を片付ける手伝いをしてくれて、そんなことをさせてしまった上に、緊張のあまり、積んであった段ボール箱をひっくり返して、殿下にぶつけてしまい、俺はずっと土下座で謝っていたんだ。
 殿下を傷つけてしまい、ずっと泣きながら謝っていたら、殿下は俺の胸ぐらを掴んで立たせて、「俺がやりたくてやったんだ、文句あんのか。少しは自分大事にしろ」って怒鳴って、俺を突き飛ばしたんだ。倒れたところに、箱を投げつけられて……

「てめえはそれでも持ってろ……じゃ、ダメだったか?」

 殿下が、真っ赤になりながら言う。ダメというより、俺は「その箱なくしたら殺す。俺が言ったこと、ちゃんと覚えてろ!」の方ばかり頭に残って、ずっとそのまま押し入れに入れていたんだ。

 俺、なんてことしてたんだ……中も見ずに。

 項垂れる俺に、殿下が恥ずかしそうに言った。

「……わり…………俺、ち、ちゃんと言えなくて……勝手に伝わってるって思って……一年返事待ってた」
「いっ……一年!??」

 そんなに待たせていたなんて……

 真っ青になる俺に、殿下は箱を突き出した。

「今度はちゃんと言う……」
「へっ!? わっ……!?」

 狼狽えるだけの俺の前に、殿下が跪く。

 俺はびっくりしすぎて、どうしていいのか分からない。

「あ、あああああああの! 殿下!?」
「俺と……結婚を前提に……こ、恋人になってほしいっ……!!」
「えっ……」

 ずっとずっと好きだった人に、懇願するように見上げられて、俺はもう、壊れてしまいそう。

 だけど、真っ赤な殿下の顔を見下ろしたのは初めてだ。俺はいつも、殿下の前ではうつむいて、殿下の顔を見ることなんて、まともにできなかった。

 もしかして、ずっとこんな風に、俺と同じように真っ赤になっててくれたのか?

 なかなか返事をしない俺に、殿下は不安そうに言った。

「な、なんだよっ……い、嫌かっ!?」

 俺は何度も首を横に振った。

「い、いやなんかじゃありませっ……」

 ずっと我慢していたものが込み上げて、ボロボロ涙が出てくる。ついに足にも力が入らなくなって、俺はその場に座り込んでしまった。

「お、俺もっ……俺も好きでしたっ……ずっと、ずっと……」

 泣きながら、言葉が溢れて、必死に返事をする俺を、殿下が抱きしめてくれる。

 ますますドキドキする俺を、強く抱きしめて、殿下は「やっと恋人だな」って言って、笑ってくれた。


*好きな人の婚約者を探しています*完
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