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迷路を跳ぶ狐

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3.怒らせた!?

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 ほっとして、顔を上げる。

「あ、あのっ……殿下っ……」

 お礼を言うつもりだったのに、殿下のキレた顔を見たら、全身がすくみあがる。

 舌打ちまでしてるし、怒らせたらしい。

 俺はもう真っ青。

 な、なんで!? なんでそんなに怒っているんだ!? 俺、なんかしましたか!??

「オイコラ…………」
「は、はいっ……」
「てめえ……いつもあんなことされてんのか?」
「え…………?」

 確かに、昔はよくされた。一族に捨てられた蝙蝠だと言われて、囲まれて、殴られて、お金取られたり、遠くから笑われたり、あからさまに避けられたりした。ずっとそうだったし、これからもそうかと思ってたけど、ある日を境に、ピタッと止んだ。その日からしばらく、学園を歩いててもやけに避けて歩かれた。

 あまりに急で、もしかして、俺に触れた人は死ぬみたいな噂でも出回ってて、みんなそれを本気にしてて、そのうち王家にも疑われて、地下牢なんかに連れてかれて、敵国のスパイと勘違いされて、拷問されて、最終的に火刑になった上に、俺を助けてくれた陛下と王子にまで迷惑かけたらどうしようって考えて、首から「俺に触れても死にません」って書いた札を下げて歩こうかと真剣に考えたこともあった。
 親友に話したら、たっぷり一時間ほど笑われて、手を握られて、俺死んでないよって言われて、安心して、作りかけた札をゴミ袋に入れて、寮のゴミ捨て場に捨てたら、袋が透明だったから、変な札が捨ててあるって、しばらく寮内で噂になり、しばらく死にたかった。

「あ、あの…………いつも、なんてされてません……」
「あいつは?」
「……たまに、からかわれるくらいです………………」

 俺に話しかけるのは、さっきの先輩と親友、それに、殿下くらいだ。

 そしたら殿下は、先輩が帰って行った方を睨んで、あとはあいつだけかって呟いた。

「あ、あのっ…………」

 どういう意味ですかって聞こうとしたけど、俺がおろおろしている間に、殿下は、俺にもう一つ、お弁当屋さんの袋を渡してくれた。

「やる」
「へっ……!??」
「やるよ。さっさと受け取れ」

 え……えっと…………こ、これは……受け取ってもいいのか? だけど、なんで俺に??

 殿下が渡してくれたのは、大きな紙袋。中には俺が好きな焼き鳥がいっぱいだ。

 やるって……俺に? 俺が渡されたんだから、俺の……か? だけど、なんで、俺に?? 確かに好きだけど、なんでいきなり焼き鳥いっぱい??

「あ、あ、あの……えと、えっと…………えっと……えと……な、な、な、な、なんで……?」
「……サービス」
「え、さ、サービス!? こ、ここ、こんなに!?」
「か、開店サービス……だよ」
「……えと……こ、ここの店、だいぶ前からやってる老舗……」
「るせえっ……! 開店時間にやるサービスだよ!」
「はい!! す、すみません!!!!」

 怒鳴られて、すぐに頭を下げる俺。よくわからないけど、不快な思いをさせたらしい。

 さ、サービスって……そ、そんなのやってたかな……?

 後ろで、いつもお弁当渡してくれる店主さんが、そんなこと言ってないよーって言ってるけど……

 もしかして、気を使われたのかもしれない。俺がご飯食べてないように見えたから、かわいそうに思ったのかも……だけど、このせいで殿下がここをクビになったら……王位も継承できなくなるんじゃ……!

「えっと……えとえとえとえっっと!! あ、あの! ご、ごごごもっ…………いた……舌噛んだ……」
「……どうした?」
「ごめんなさい!! だ、大丈夫です!! か、返します!」
「……は? んだとコラ……」

 怒ったのか、殿下は顔を近づけてくる。すっごくキレてる!!

 殿下を不幸にしたくない。俺に気を遣ったせいで、殿下がこのお弁当屋さんをクビになって、王家に恥をかかせたって言われて、それが原因で王位も継げなくなって、断罪されて、弟が王位に就いたら……殿下がそんな思いをするなんて、絶対にダメだ!

 俺は、袋を突き返した。

「だ、だって…………ざ、斬首になったら……」
「ざ、斬首? 焼き鳥でか?」
「弟が王位を継ぐことになったら……」
「……俺、弟いねえけど?」
「で、でもだめっ……」

 言いかけた俺の胸ぐらを、殿下が掴む。今にも殺しにきそうな顔で凄まれて、俺はますますどうしていいか、分からない。

 なに!? そんなに怒らせたのか!? 俺が斬首とか言ったから!? 不敬罪!? 不敬罪になるのか!? 俺が斬首!!??

「…………てめえ、受け取れねえのか?」
「い、いいいいいいいいいえ!!」
「さっさと受け取れっ!! これは……その……全員にやってんだよ!!」

 そうなのか? 後ろで店主さんが呑気な口調で「うちの店を潰す気かー?」って言ってるけど、いいのか??

 だけど、殿下はそれを引っ込めてくれなくて、むしろそれを突き出していった。

「……全員にやってるならいいだろ? さっさと受け取れよ」
「あ、はい……あ、あ、ありがとう……ございます……」

 うなずいて、俺はそれを受け取った。焼き鳥のいい匂いがする。

「おい……」
「は、はい!!」

 顔を上げるけど、殿下は俺から顔をそむけてしまっている。

 どうしたんだろう……やっぱり、怒らせた??

「……それ、中に地図入ってるから」
「へ?」
「そこに来い。来なかったら殺す」
「は!? え、えっ……!?」
「いいから来い!! 来なかったら殴る!」
「ええええっ!? な、殴っていいし殺していいし行きますけど、なんでっ……!?」
「うるせえ!! 約束だっ……あ、後、さっきのあいつ、魔物倒したなんて言ってたけど、そんなの絶対嘘だ! 気をつけてくるんだぞ!! 分かったら失せろ!!」
「は、はいっっ……!」

 びっくりして、俺はお金を払って店を飛び出した。

 な、なんであんなに怒ってるんだ!!??
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