好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐

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1.俺ってダメな奴……

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 今日も俺は、一人で歩いていた。学園での授業が終わったら、一人で寮に帰る。これもいつものこと。一人でいるのは好きだし、寮に帰って、のんびり過ごすのも好きだ。

 俺は、吸血鬼族のヴァンフィティーア。普段から全く目立たない、この学園の学生。夜になれば、多少魔力も上がり、一応背中から羽を出して飛ぶことができたり、ちょっと変身の術が使えたりするけど、夜は夜で魔物が出たりするから、とにかく早く帰ることにしてる。

 夕暮れが近い学園は、今日も賑やか。ちょうど授業が終わる時間で、学生たちはみんな、連れ立って歩いている。

 少し羨ましい。俺にも、本当はそばにいたい人がいる。だけど、相手にされてない。むしろ、嫌われている。というか、避けられている。その人は俺の恩人で、本当はその人に恩返しの一つもしたいのに、今日も俺は一人だ。

 とぼとぼ歩いて、行きつけのお弁当屋さんに向かう。学園から出てすぐ、花壇が並ぶ通りの奥に、忘れられたようにぽつんとあるここは、賑わうような店じゃないけど、どれもこれも美味しくて、俺がいつも夜食を買う店だ。

 小さな扉を開けて中に入ると、いつも接客してくれる馴染みの店員さんが出てくるはずだった。

 だけど、その日は違った。

「…………よぅ」

 短い挨拶をしながら、俺を睨むようにして、カウンターの向こうに立っていた人の顔を見て、俺は牙が折れてしまいそうなほどびっくりした。

 頭には狼の耳。今は見えないけど、お尻にはちょっと大きな狼の尻尾があったはず。真っ黒な短めの髪、体格もがっしりしていて、細身で小柄な俺とは全然違う。右の拳一つで、道路くらいならあっさり殴り壊してしまうらしい。
 俺を迎えてくれたのは、俺がずっと尊敬している狼の妖精族の王子、エクウェル様だった。

「で、殿下……?」
「……その呼び方、やめろ」
「す、すみません!!」

 謝るけど、殿下は不快そうに顔を歪めてしまう。

 まさか、こんなところで会えるなんて、思わなかった。
 だけど、いきなりすぎてどうしていいかわからない。

 固まる俺に、殿下は、短く「何にすんだ?」って聞いてくれた。

「あ、え、えっと…………日替わり弁当を……お願いします……」
「…………日替わりだな」

 そう言って、殿下は、厨房の方へ行ってしまう。

 その間も、俺は頭を整理するだけで精一杯だった。

 なんで、殿下がこんなところにいるんだ!? 王子なのに。なんで弁当屋?? 昨日まではいつもの店員さんだったのに。

 というか、俺はなんで「日替わり弁当」なんて答えているんだ!? 殿下にそんなことをしていただくわけにはいかない。俺がやるべきだ。い、今からでも、殿下を止めるべきではないのか!?

 ど、どどどどどうしよう……は、早く追いかけないと……!

 で、でも、勝手にカウンターの向こう側に行って厨房に入ったりしたら、殿下に迷惑をかけてしまうかもしれない。
 俺がそんなことをしたせいで、殿下が怒られてしまうかもしれない。
 ただでさえ、俺のやることはいつも失敗するんだ。
 余計なことをして、殿下に迷惑をかけるわけには……!!

 おろおろしていたら、すぐに厨房の方から、お弁当の入った袋を持った殿下が出てきた。

「……ほら。日替わり」
「え!!?? あ、あ、あ、えっと…………あ、ありがとう……ございます……」
「………………おう……」
「あ、あの……あの……」

 チラッと、殿下を見上げる。金色の目が、俺を見下ろしてる。

 相変わらず、格好良くて羨ましい……よく乱暴者って思われるし、実際少し乱暴で、俺は、ここに入学して間もない頃に、固い箱を投げつけられたことがある。覚えとけよって言われて、怖くて、ちゃんとあの時のことは一つ残らず今も覚えてる。

 そんな風に乱暴でも、優しいところもあって、ちょっと不器用な人なんだ。
 何しろこの人は、一族に処刑されそうになっていた俺を助けてくれた人だ。
 吸血鬼族の血を引く俺は、昔から魔力を使うのが苦手で、一族の厄介者だった。兄上が家督を継ぐことが決まった日に、お祝いをしたくて魔法を学び、花火をあげたら、兄の命を狙ったと言われて、その場で殺されるところだった。けれど、その時城に来ていた陛下がその場を収めてくれて、王子は俺を召使いとして引き取ってくれたんだ。

 俺はこの人に感謝している。何か少しでもこの人の役に立ちたいんだけど、いつもうまくいかず、殿下にもあっさり必要ないって突っぱねられてしまう。
 召使いでも、なんなら奴隷でも構わないから、エクウェル様のそばにいたいのに、俺がこうして「殿下」とか「エクウェル様」と呼ぶと、殿下は嫌そうな顔をする。

「あ、え、え、えっと…………さっき、殿下って言って……ごめんなさい……」
「……別にいい。五百」
「あっ…………は、はい……あ、えっと、じゃなくてっ……! ま、まままま待ってください! 俺、じ、じ、自分でします!」
「るせえ……俺は今日、店員なんだよ。余計なことすんな」
「……すみません……」

 慌てて、お金を渡す。また怒られてしまった。

 俺ってダメな奴……
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