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後日談
95.俺の方が
しおりを挟む「ぁっっ……!」
買ったばかりのココアに口をつけたら、熱くてびっくりした。思っていたより熱い……だけど、甘くて美味しい。なんだかホッとする。
「フィーディ? 大丈夫?」
「う、うん…………熱いけど……すごく美味しい……こんなの、初めて飲んだ……」
温かいそれを飲んでいたら、ヴァグデッドがじっと俺のことを見下ろしているのに気づいた。
「どうしたんだ? 飲まないのか?」
「だって、フィーディが飲んでいるところ、見ていたいから」
「…………や、やめてくれ…………は、恥ずかしいだろう……」
「だって、普段俺の前でそんな顔しないだろ?」
「……そ、そうか……? でも…………し、城でも、ヴァグデッドといるのは楽しいぞ?」
あの城でヴァグデッドが一緒に部屋にいてくれるのも、俺は楽しい。たまに怖いヴァグデッドだけど、クッキーを食べている時は可愛いし、城で魔法を学ぶ時も、雑用をこなす時も、不慣れな俺のそばにいてくれて、助けてくれる。
そう思って言ったのに、彼は顔を隠してそっぽを向いてしまう。
「……ヴァグデッド…………?」
「フィーディってさぁ……何気なくそう言うこと言うよね……」
「え!!?? な、何か……おかしなことを言ってしまったか!?? すまない……」
「そうじゃなくて…………俺さぁ……フィーディがそういうこと無意識に言うたびに、我慢するの、すごく大変なんだけど?」
「…………え……?」
びっくりして振り向けば、彼に唇のそばを、ぺろっと舐められてしまう。
「…………あ……えっ!? ヴァグデッド!!?? な、何するんだっ……」
「だって、甘くて美味しそうだったから」
「お、俺は甘くもうまくもないぞ……」
「そんなことないよ? フィーディ、美味しい」
「お、おいっ…………」
驚いて、体を少し引く。だけどヴァグデッドは追ってきて、俺の頬にまた軽くキスしてくる。ちゅって音がして、ますます体が熱くなってきた。
「ヴァグデッド……」
「フィーディ、俺のも飲んでみる?」
「え? い、いいよ…………俺は……こんなに美味しいものをもらってしまって、悪いくらいだし……」
「そんなこと言わないで…………」
妖艶に微笑んだ彼が、また俺に唇を近づけてくるから、俺は慌てて身を引いた。
「おい!! だ、だから、ひ、人前でっ……! そ、そう言うことをするな!!」
「だって、フィーディが遠慮するから」
「え、遠慮なんてっ……!」
だって、もうこんなに美味しいもの飲んでいるのに。それに俺は、彼にだって飲んで欲しいんだ。
それなのに、彼は俺にホットチョコレートが入ったカップを差し出してくれる。
「……じ、じゃあ……一口だけ…………」
彼が差し出すものを受け取ったら、ますますドキドキして、少し気を抜いただけで、カップを落としてしまいそう。
そうしていたら、ヴァグデッドのもとに、使い魔の小さな竜が一匹、降りてきた。
「…………ルオンたち、このあたり回ってくるって」
「え!?」
驚いて、顔をあげる。
さっきからずっとヴァグデッドに夢中で、みんなで来たこと、忘れそうになっていた……
さっきまで近くでティウルが魔法の素材が並ぶお店に殿下を引き摺り込もうとしていたし、ウィエフは相変わらずルオンに夢中で、彼とずっと魔法の話をしていたのに、四人ともいつのまにかいない。
ずっと…………ヴァグデッドのことばっかり考えてた……
もらった飲み物が甘くて、なんだかこの味だけで、うっとりしてしまいそう。
結局、間接キスしてしまった……
どうしよう。考えないようにしていたのに、自覚したら急に恥ずかしい。ヴァグデッドは平気そうにしているのに。
「…………ヴァグデッド……」
「ん? どうしたの?」
「……あの……お、お前はどこか、行きたいところはないか……?」
「え? せっかくだし、フィーディの行きたいところ、行こうよ。港町まで来ること、あんまりないし」
「………そうだけど……あ、あのっ……俺もっ……ヴァグデッドが、た、楽しそうにするところが見たい……」
「……? 俺、十分楽しいよ?」
「あっ……そ、そうかも…………知れないけど……」
ヴァグデッドに、俺も喜んで欲しかったんだ。こうして二人で歩いているんだ。俺も、彼にもっと楽しいと思ってほしい。そして、今回だけじゃなくて、またデートがしたい。
そう思って、まだ恥ずかしいけど顔を上げたら、ヴァグデッドはずっと俺を見下ろしていたようで、俺に微笑んだ。
「……じゃあ、行こうか」
「え……?」
「早く! ルオンにもらった時間、そんなにないんだ!!」
「えっ……!? ま、待ってくれっ……!」
彼は、俺の手を強く握って、俺を連れて行ってくれる。
まだ昼間なのに、空は曇っていて暗く、街灯がつき始めていた。街には色とりどりの屋台が並んで、可愛らしい看板が並んでいる。光を使った装飾が、微かに暗くなり始めていた街でキラキラ輝いていた。
こんなところを誰かに手を引かれて歩く日が来るなんて、思っていなかった。こんな風に、楽しいと思うことだって、一生ないと思っていたのに……
ヴァグデッドは、俺の手を握って、人混みを避けながら俺を連れていく。その後ろ姿を見ていたら、俺もずっとこうしていたくなった。
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