悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

89.俺はここで

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 ルオンまで、何を言い出すんだ。彼ならなんとかしてくれると思ったのに。

 倒れた人たちに今にも飛びかかりそうなヴァグデッドを止めていたら、公爵は俺を睨んで言った。

「……フィーディ…………これはどういうことだ!? 王国を襲おうとした外道の竜を従えて、なんの真似だ!」
「外道って……やめてください!! 彼は、そんなんじゃありません!! 彼はただっ……俺を守ろうしてくれているだけですっっ!!」
「逆賊の竜と随分と仲良くしているそうだというのは本当だったのか……恥知らずめっ! その上、そんな平民まで引き連れて!!」
「……え?」

 公爵が指さす方に振り向けば、開けっ放しだったドアの向こうに、ティウルが立っている。どうやら、お茶を持ってきてくれたらしいが、こんなところに来たら危ない。

「か、彼は……」

 焦る俺の言葉を遮って、公爵は苛立った様子で言う。

「ティウルだろう? 魔力があるからと、ここに魔法を学びにきた……平民の分際で!」

 分際って……彼に勝手に期待して、彼を強引にここに送り込んだのは、貴族たちの方なのに。

 けれど、言われた当のティウルは、平然と、むしろどこか楽しそうに言った。

「僕、自分でここに来たい、なんて言った覚え、ないんですけどねー。そんなことより! 僕、公爵閣下にお茶をお持ちしました!!」

 そう言ってお茶を出そうとする彼を、俺は慌てて止めた。

「てぃ、ティウルっ……な、なんでくるんだ! こんなところに……く、来るなと言ったのに!」
「言ってたけど、僕は聞くつもりなんかないよ。フィーディ一人で公爵様に会いに来るなんて、ずるいなー。僕だって公爵閣下に会いたかったんだよ?」

 平然と言うティウルだけど、公爵はティウルを怒鳴りつける。

「黙れ!! 平民の分際でっ……!! 私に話しかけようなどと……身の程を知れ!」

 俺なら震え上がりそうな勢いで怒鳴られても、ティウルはびくともしない。

「公爵閣下! そんなこと言わないでください! 僕、回復の薬をいっぱい持ってきたんですよ?」

 そう言って、彼はテーブルの上にいくつも小瓶を並べていく。だけどそれは、彼自身が先ほど毒だと言っていた小瓶ではないか!! 何をしているんだ!!

「ちょうど倒れた方々がいるようですし! 公爵閣下!! どれでも好きなものを選んで飲んでみてください! よく効きますよ!」
「ティウル! や、やめろ!」

 慌てた俺は、並べられた小瓶を端から取り上げていくが、ティウルは次々新しい小瓶を取り出しては、テーブルにさらに綺麗に並べていく。

「ティウル!! お、落ち着いてくれっ……な、なんでっ……」
「何でって言われても……僕はただ、回復の薬を持ってきただけだよ? 公爵様に飲んでほしくて!」
「け、怪我をしているのは公爵閣下ではない……そこに倒れている人たちで……だいたい、さっき自分で毒だと言ったではないか!!」
「えー? なんのことー? あ、もしかしてそれ、貴族の冗談? フィーディってば、おもしろーい」
「き、貴族とか関係ない! ティウル! やめてくれっ……!」

 ティウルが次々に出す薬を、次々にしまう俺。それでもティウルは、どんどん薬の瓶を並べていく。どうやって出しているのかと思ったら、魔法だったみたいだ。

「まだいっぱいありますよー。どんどん飲んでください!」
「ティウルっ……! お、落ち着くんだ!」
「だって僕、今日公爵様が来るっていうから、これを用意したんだよ? 少しくらい飲んでもらわないと!」
「は!?」

 最初から、公爵に飲ませるために用意したものだって言うのか!?

 ますます慌てる俺に、彼はさも当然みたいに言う。

「フィーディを屋敷からつまみ出した奴が来るって聞いたから、ちゃんと準備していたんだ!」
「そ、そんな……それならそうと、最初から言ってくれ! そしたら、全部探し出してどこかに隠しておいたのに!」
「あははー。フィーディに僕のものを隠す勇気なんて、あるのー?」

 なんだかティウルの笑顔が怖い……

 慌てていたら、部屋のドアを開けてウィエフが入ってくる。

「ティウル、その変な色のものを下げなさい。公爵閣下に無礼です」

 そう言いながら、今度はウィエフがティーカップをおく。
 確かにティウルの持ってきたお茶は、お茶というよりなんだか変な色の不気味な液体だが、それはウィエフが言えた義理ではない。彼が厨房でティーポットに入れていたものは、明らかに茶葉じゃなかったのに、今ティーカップに入っているものは、紅茶そのものっぽく見えて、ますます怖い。
 雑にそのティーカップをテーブルに置いたウィエフは、今度はルオンの方に振り向いた。そして、早速ルオンの前にケーキスタンドを置いて、皿を並べていく。

「ルオン様にも、お茶の準備を致しました。どうぞ、お召し上がりください」

 彼は、さっきまでとはまるで違う丁寧な仕草で、ルオンに紅茶を入れている。
 ルオンの方も、ティウルとヴァグデッドを止めてくれないし、どうなってるんだ。

「ちょっ……ティウル! ほ、本当に、やめてくれ!! ヴァグデッド!!」

 ティウルを止めようとすると、ヴァグデッドまで飛びかかりそうになって、俺は彼の服を掴んで、必死に止めた。どいつもこいつも、一体どうなっているんだ。みんな本気で、公爵閣下を手にかける気だ。

 そんなことになったら、絶対にまたバッドエンドに近づいてしまう。

 俺は、公爵に振り向いて叫んだ。

「こ、公爵閣下っ……! 今日のところは、どうかお帰りください!!」

 もう、全員が止まらないのなら、これしかない。公爵がここからいなくなってしまえば、彼らだって、公爵を手にかけることはできなくなるはずだ。

 けれど、公爵は状況がわかっていないのか、俺の方を怒鳴りつける。

「フィーディっ……これは、貴様の差し金かっ……! 許さんぞっ……!」
「違うって言ってるじゃないですかっ……! と、とにかく、帰ってください!」
「だったら貴様もこい! これ以上ここにいても無駄だ!!」
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃありません! 俺はここで、バッドエンドを…………」
「バッドエンド?」
「……あ……じゃなくて…………お、俺が……俺が帰りたくないから帰りませんっっ!! 今日のところは、お引き取りください!!」
「……貴様っ……」
「か、帰ってくださいって言ってるんです!!!! 俺、か、帰らないしっ……これ以上いても無駄なのはあなたの方です!! し、死にたいんですか!?」
「私を脅す気か!?」
「脅すって……ち、違います! 帰ってほしいだけで……俺は屋敷になんか帰りませんし、ここのみんなと一緒にいます!! 何度言われたって、俺はそうしますからっ……!! と、とにかくっ…………も、もう帰らないと、王国がどうなっても知りませんよっっ!!?? あなたは国を滅ぼしたいんですか!?」

 無我夢中の俺は、初めて公爵を怒鳴りつけ、気づけば、その腕をとって、部屋の外に押し出していた。

「も、もう、来ないでください!! ここは危険なのでっっ!!」

 ドアをバタンと閉めて、それにもたれると、少し安心した。

 これで、公爵は死なない……バッドエンドは回避できた。この城と王都の争いに発展することは防げたはずだ!!

 そう思ってホッとしていた俺なのに、もたれかかったドアが冷たくて、興奮した頭が勝手に冷静に戻っていく。

 そして、すぐに自分のしたことを思い出す俺。

 顔が青ざめていく。

 俺は……とんでもないことをしでかしたんじゃないか…………バッドエンドは回避したが、公爵のことは、絶対めちゃくちゃ怒らせた!!

 怒った公爵閣下の顔を想像したら、体がガタガタ激しく震え出した。

「…………ど、どうしよっ…………ぅっ……!」

 震えていたら、突然抱きしめられて、びっくりした。誰かと思えば、それはティウルで、彼は「フィーディすごーい!」って言って、強く抱きついてくる。

「フィーディ、どこも行かないんだーー! よかったーー!!」
「てぃ、ティウル……い、痛い……離してくれ……」
「フィーディがどこにも行かないって知って、嬉しいんだもん……フィーディー……」
「ティウル……」

 俺がいなくならないだけで、そんなに喜んでくれるのか……?

 そんな風に言ってもらえたことが嬉しくて、ちょっと感動していると、俺に抱きついたティウルを、ヴァグデッドが引き剥がしてしまう。

「何でお前がフィーディのこと抱きしめてるの? それは俺の役目だから」
「僕はフィーディの親友なの。僕の方が先にこうしたんだから、お前は待ってろよ!」
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