悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

88.そろそろ離してくれ!

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 返り血を浴びた姿のままのヴァグデッドは、倒れた奴らの背中を平然と踏んで、呆然としている公爵を突き飛ばして、俺に近づいてくる。

「フィーディ? どうしたの? もしかして、いつもみたいに怯えちゃった? 大丈夫だよ? フィーディには何もしないよ?」
「……あ…………ああ、うん……そ、それは分かっている……」

 ヴァグデッドが、俺のことを傷つけるはずがない。

 ……だけど、なんだか雰囲気が怖い……

 朝は、俺の魔力が詰まったクッキーをかじって、「おいしーい!」なんて言ってくれてたのに。吸血を許可してもらって、嬉しいんじゃないのか?

「ゔ、ヴァグデッド…………お、落ち着いてくれ……後でたっぷり魔力を込めたクッキーをやろう! な!?」
「フィーディ、魔力あんまりないのに、無理しないで」
「ぐっ…………ま、魔力が足りなかったのか……?」
「…………そうじゃなくて……」

 言いながら俺のすぐそばまで来ると、ヴァグデッドは、ぎゅっと強く俺を抱きしめてくれる。
 急にそんなことをされて、俺は慌ててしまう。

「ヴァグデッドっ……!? ど、どうしたんだ!?」
「……大丈夫だった? 何もされてない?」
「…………へ!? な、何もって……べ、別に……俺は、なんともないぞ?」
「……辛そうな顔してる」
「そ、そんなこと……」
「俺はそんなの嫌だなー……」
「……ヴァグデッド……」

 俺、そんな顔してたのか? 自分では、全く気づかなかった。

 だけど、ヴァグデッドにこうされると、つい、彼に身を委ねてしまう。ひどく心臓が高鳴るのに、ずっとこうしていたくなる。

 な、なんでこんなことになってるんだ……

 戸惑う俺を、ヴァグデッドはいつもと同じように見下ろしている。

 その顔を見ていたら、ほっとした。抱きしめる力が強すぎて、いつもなら怖くなっていそうなのに、今はあったかくて気持ちいい……

 それなのに彼は、僕の首に鼻先を近づけてくる。

「あーー……フィーディ…………いい匂い…………」
「はい!???」
「…………なんだかおいしそうー……ねえ、フィーディもちょうだい」
「は!?」
「ゴミの血なんか吸って、気持ち悪いんだよ……俺、フィーディの血が欲しいなあ……」
「は!? ちっ!? ちって……血!? 血液!? ま、待て待て待てっ……! ち、血って……待ってくれっ……! そ、そんなの怖いっ……!」
「だめ?」
「だ、ダメっていうか……あ、あの! く、クッキー! 後でたくさんやるから…………ミルクもつけてやるから!!」
「…………フィーディってさあ…………俺のこと、猫かなんかだと思ってない……?」
「……!!」

 ……実は最近、ちょっと思ってた……

 だって、ご飯の時、いつも小さい体のままローストビーフとかくわえて、「おいしーい」なんて言ってるし、寝るときは俺のベッドで丸くなっていたじゃないか。食後には俺がクッキーとミルクも用意してあげていたし、移動するときは抱っこしてたし……悪戯好きで俺の周りを走り回ってる猫……くらいに感じ始めていた…………

 だって、ちょうどそのくらいの大きさだし、今朝だって、クッキーかじってたじゃないか!! 俺のこと、小さな体で見上げていたのに……
 それなのに、なんで今は俺よりずっと背の高い男になってるんだ! こんな男、俺は知らないぞ!

「あ、あの……す、すまない。す、少し……その……そ、そろそろ離れてくれ……」
「え? やだ」
「で、でも……」

 彼から顔をそむけたら、倒れた人たちが目に入った。みんな血を流して、倒れたまま起き上がらない。ルオンは吸血を許可したって言ってたけど、吸血されたって言うより、食いつかれて出血多量で倒れているように見えるんだが!!??

 そ、そうだ!! こんなことしてる場合じゃない!!

「う、ヴァグデッド! 回復の魔法だ!!」
「え? フィーディ、怪我したの?」
「俺じゃない! そ、そこに倒れている人たちだ!! 今すぐ回復の魔法をかけてくれ! あんな怪我、俺じゃ回復できない!」
「えー……なんでー? 放っておけばいいじゃーん。どうせ俺が後で食いちぎるんだし」
「くっ……食いちぎる!??」
「だって、食べても全然美味しくないし。魚にでもあげるよ」
「ばっ……馬鹿なことを言わないでくれ!!」

 くそっ……こいつ、本気じゃないだろうな!!

 俺は、ルオンに振り向いて叫んだ。

「る、ルオン様!! な、なんとかしてっ……なんとかしてください!」
「必要ない」
「は!?」
「以前にも言ったが、この城に来て私に師事する以上、あなたもこの城の大事な一員だ。その命を狙うような奴は許さない」
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