悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

85.全く聞いていない

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 キラフェール殿下は、難しい顔をして、ウィエフにたずねた。

「そんなことより、公爵閣下はもういらしているのか?」
「……はい。あれが来るからと言って、ルオン様は朝から魔物退治に駆り出されていて……なんてふざけた話でしょう。フィーディ!! あなたがやるべきことですよ!!」

 ウィエフに睨まれると、俺はビクッと震えて頭を下げてしまう。

「す、すみません!! あ、あの……俺……」

 焦っていると、ティウルが前に出て、ウィエフを睨んで言う。

「はあ? 何言ってるんですか、ウィエフ様ーー? ルオン様に相手にされないからってフィーディをいじめないでくれますかー?」
「誰がっ……」
「だって、そうじゃないですかー。今朝だって、ルオン様に魔物退治に連れて行ってもらえなかったんですよねー? ざーんねーんでーしーーたーー」

 またそんな挑発するようなことを言いだすティウル。
 今にもウィエフがティウルに飛びかかりそうで、俺は慌てて止めた。

「てぃ、ティウル! や、やめてくれ!! お、落ち着いてっ……!」
「落ち着いてじゃなくて! フィーディも怒って!!」
「……そ、そう言われても…………こ、公爵閣下は……なぜ、ここに……」
「…………知らない! とにかく、フィーディはここにいればいいの!! 公爵のところになんて行っちゃだめ!」

 ティウルはそう言って、ウィエフを睨みつける。けれど、ウィエフにはまるで効いていないみたいだ。というか、ウィエフは多分、俺たちの話なんか、まったく聞いてない。俯いて、恐ろしい顔で怒りを口にしている。

「あの男はルオン様を呼びつけて、延々と偉そうに命令を並べ立てています。あんなこと……許すわけにはいきません。あの男……ルオン様がどれだけ心を痛めているかも知らないで…………」

 そう話しているウィエフの手元が震えている。怒りによるものだろう。さっきからウィエフがティーポットに入れているものは、明らかに茶葉じゃないし……

 ウィエフは、俺に振り向いて言った。

「フィーディ・ヴィーフ」
「は、はい!!」
「あなたはここにいてください。馬鹿な真似をされると、とても迷惑なので」
「…………え……?」
「そもそもルオン様は……あなたを守るためにこれだけ…………ああ! 憎たらしい!!」

 な、なんで俺、怒られてるんだろう……ウィエフはルオンの周りに纏わりつく全てが憎いみたいだけど……さっきまで入れていた奇妙なお茶も含めて、準備した全部をワゴンに乗せて持って行こうとするのはやめてほしい。そんなもの飲んで公爵に何かあったら、責められるのはこの城にいる人たちとルオンだ。そして、そんな風にルオンが責められたら、ウィエフがついに王国を潰しにかかりそう。ウィエフが公爵家を手にかけようとするのは、彼が死霊の魔法を使って王国を滅ぼすバッドエンドの一つと同じだ。公爵に手を出せば、王国だって黙ってない。絶対にこれはバッドエンドに向かっている!

「ま、待ってくださいっ!」

 俺は、ウィエフの手を取った。

「お、俺……おれおれおれ……」
「……なんですか? 言いたいことがあるなら早く言いなさい……私はルオン様のところに早く温かいお茶を届けなくてはならないのです」
「あ、あにょっ! おれっ……おにょっ……」
「………………」

 ウィエフは呆れたのか、俺を置いて厨房を出て行こうとする。

 慌てて、その肩を掴んで止めた。

「まっ……待ってっっ!!」
「……なんですか? しつこい…………殺されたいのですか?」
「ひっ…………そ、それはちょっと……」

 ダメだ。もう泣きそう。だけど、泣いてたらこのまま恐ろしい結末を迎えることになるっ……!

「お、俺っ……おれっ……俺が行きます!! ウィエフ様のお、おっしゃ、おっしゃる通りで、です!! お、おお、俺、俺が行くべき……き、で……お、俺がっ……い、いい、いき、行きます!」
「はあ? 何を言っているのか、分からないのですが」
「…………お、俺にっ……い、行かせてください! あにょっ……」

 俺は、すぐにお茶を淹れ始めた。ガタガタ震えたせいで、お茶の葉はこぼすし、お湯はぶちまけるし、カップは割りそうになるし、お茶を淹れるだけで、手と足を火傷したけど、なんとかお茶の用意はできた。
 それなのに、ウィエフは呆れたように言う。

「……何をしているんですか……あなたは………………お茶も淹れられないくせに、でしゃばらないでください」
「す、すみませんすみませんすみません…………あ、でも……待っててくれて、ありがとうございました…………」

 もたもたしている俺がお茶を淹れているうちにルオンのところに行かれてしまうかと思ったけど、ウィエフはずっと、厨房にいてくれた。
 それがありがたくてお礼を言ったのに、ウィエフには、今にも殺されそうな目で睨まれてしまう。

「待っていたのではありません。あまりにも無様なあなたを、今なら背後から刺し殺せそうで、機会を窺っていたのです。後ろの邪魔者がいたせいで、できませんでしたが」

 ウィエフは、俺の背後の二人を睨みつけた。

 俺も彼らに振り向くと、ティウルは、「ウィエフ様の思い通りにはさせませーん」って言って、キラフェール殿下の方は、無言のまま、顔をそむけた。

 彼らが睨みをきかせていなかったら、ウィエフは俺を殺していんだろうか……

「ティウル、キラフェール殿下……あ、ありがとう……ございます……」

 礼を言うと、ティウルは腕を組んで、「お礼はいいから、フィーディはここにいて」と言い出した。
 俺だって、行きたくはないが、行くしかない。

「だっ! 大丈夫だ! こ、こっちは、お、俺が行く!!」
「なんで? フィーディはここにいて。公爵のところへは、僕が行くから。ルオンを困らせないように言えばいいんだろ? そんなの、簡単だよ!」
「…………ティウル……こ、これは、俺が行く……」
「フィーディ……?」
「お、俺だって……公爵家だし……お、俺が行ったほうがいいと思う…………ほ、本当に、大丈夫だ!」
「……フィーディ……」

 ティウルが辛そうな顔をする。俺だって、こんなこと言いたくない。だけど、ティウルがあの男に会ったりしたら、彼は絶対にもっと辛い思いをする。それは嫌だ。

 ルオンだって、俺をずっと助けてくれた。放ってなんておけない。

「俺なら、大丈夫だ。な? ティウル!」

 そう言って、俺は厨房から駆け出した。
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