悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

83.うまくいった……のか?

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 俺が誘っても、キラフェール殿下は少し悩んでいるようだった。

「……だが、私は……今朝、ティウルと言い争いをしてしまったんだ…………ティウルは私には会いたくないのかもしれない」
「お、俺……! さっきティウルに会いましたけど、ティウル、楽しそうにしてました!! あなたのことばっかり話していて……だ、だから、あなたのこと、本当に好きなんだと思います!」
「…………」

 殿下は、俺をチラッと見てから、すぐに顔を背けて俯いてしまう。
 なんだ? 俺に関することか? そういえば、ティウルはいつも、俺のことを殿下の前で庇うような発言をする。もしかして……今朝の言い争いって、俺が原因!?

「まだ、謝る言葉も思いつかない……」
「そ、それなら、今、俺を相手に練習すればいいじゃないですか! 厨房までの道すがら!」
「フィーディ……」
「行きましょう!!」

 俺は、彼の手を取り、半ば無理やり部屋を出た。







 厨房に着くと、中から言い争うような声がした。怒鳴り合うとような感じではなくて、冷静に、それでいて、怒りをぶつけ合うような、ゾッとするような声だ。

 また誰かが争っている……なんでこの城は、こんなに怖いんだ……

 今の時間は、料理人たちもすでに明日の仕込みまで終えて、ここにはいないはず。やっぱり、ティウルか?

 厨房をのぞくと、そこにいたのは二人だけ。湯気を上げる紅茶が入ったティーポットと、いくつかのティーカップを乗せたワゴンの前にいるティウルと、もう一人は、ウィエフだった。

 何でこんなところにウィエフが……

 城主ルオンに心酔しているウィエフは、金色の長い髪の、背の高い男。いつも冷たい深緑の目で俺を見下ろす貴族で、国一といわれた魔力の持ち主だ。キラフェール殿下の護衛としてきたけれど、本当は王家のことをひどく嫌っていて、ゲームでは、王都に暴虐な死の魔法をかけて、城と城下町にいた人を死霊に変え、王族を虐殺しようと企む。

 主人公のティウルからしたら悪役だが、ここではゲームより二人の仲が悪い気がする……

 ウィエフがティウルを睨んで言う。

「……ティウル、そんなことをしている暇があるなら、さっさと部屋に戻り、明日の用意をしなさい」
「はあ? なんでですか? そっちこそ、何でこんなところにいるんですか? あー、もしかして、またルオン様にフラれちゃったんですかー?」
「……何を言っているのか分かりません……」

 二人はじっと睨み合っている。もう、一触即発といった雰囲気だ。どうやら随分ウィエフは機嫌が悪いみたい。

 王国も王家のことも憎んでいる彼がキレているところに、彼が憎む王子を連れてきてしまった……

 Uターンして戻った方がいいのか……? だけど、ティウルを放ってはおけない。

 そんなことを考えていると、ウィエフはこちらに振り向いてしまう。

「フィーディ……?」
「ひっ……!」

 途端に震え上がる俺。

 怯えている場合じゃない。王子と、王子を憎むウィエフと、王子に思いを寄せるティウルが顔を合わせちゃってるんだから。なんとかして、この場を収めなくては。

「あ、あの…………こ、こんばんは……」
「……フィーディ……こんなところで、何をしているのですか……?」
「へ!? な、何って……あ、あの、そのっ……そ、そんなに大した用事じゃなくて……」

 オロオロするばかりの俺を後ろに下げて、キラフェール殿下は厨房に入って行く。そして、急に王子が現れて驚いているティウルの前に出ると、ウィエフを睨みつけた。

「貴様……ウィエフ。こんなところで何をしている?」
「……私は、ルオン様に召し上がっていただく食事を用意していただけです」
「ルオンに?」
「はい。ルオン様は、朝からの魔物退治で疲れているのです。ですから、あなた方に口を出される言われはありませんよ」
「朝から……そうか…………」

 難しい顔で言うキラフェール殿下。

 そんな彼を、ティウルは見上げて、少し驚いているようだった。

「殿下……な、なんでここに……」

 聞かれて、キラフェール殿下は少し気まずそうだったけど、彼に振り向く。

「……フィーディに聞いた。ティウルはここにいると。そ、その……今朝は…………」

 なかなか謝れないらしいキラフェール殿下が、もじもじしているうちに、ティウルは殿下が持っていたハンカチの包みを見つけてしまう。

「そのハンカチ……」
「え……? あっ……こ、これはっ……!」

 慌てて殿下はそれを背後に隠すけど、当然もう遅い。ティウルはそれを見つけてしまっている。

 俺は咄嗟に、ティウルに駆け寄った。

「ち、違うっ……! こ、これはっ……そのっ……!! お、俺が持ち出したんだっ!!」

 叫びながら、殿下から、小瓶をいっぱい包んだハンカチを取りあげる。ティウルが大切にしていたものを殿下が持ち出したなんて知られたら、ますます二人の仲が拗れてしまう。

「そのっ……ティウルには、な、なな、なん、なん何度も、い、いい、言っているがっ……! こ、こんなものは必要ないんだーーーー!!」

 そう叫んで、ハンカチごと床に叩きつけてやろうとした。
 だけど……ティウルがこれのことを話していた時の笑顔を思い出したら、それもできない。ティウルにとっては、大事なものなんだ。

 振り上げたまま止まって悩んでいたら、ハンカチから一個小瓶が落ちて行く。

「わっ……わわ!!」

 慌てて受け止めようとしたら、ハンカチを握る手の方が疎かになって、またいくつも小瓶が落ちて、最初に落ちた小瓶にも手が届かない。

「危ないっ……!」

 叫んだティウルが風の魔法を使って、小瓶を集めてくれる。小瓶は全部ハンカチの上に戻って、無事だった。床に倒れたのは俺だけ。

 だけど、ティウルの大事なものが落ちなくてホッとした。

「大丈夫? フィーディ?」

 そう言って、ティウルが俺に手を貸してくれる。

「だ、大丈夫だ……ティウル……その……か、勝手に持ち出したりしてごめん……」
「フィーディ…………」
「あっ……あの! そのっ……わ、悪気があったわけではなくて…………」
「そんな、すぐバレる嘘つかなくていいのに……」
「え!!??」

 なんで!? なんですぐバレるんだ!?

 びっくりして顔を上げる俺に、ティウルは少し困ったように言う。

「そんな顔されても…………誰だってすぐ嘘だって分かるよ。だって、フィーディが僕の部屋から勝手に僕のものを持ち出すなんて、そんなことする勇気、あるわけないじゃん……」
「……」

 そのとおりだよ……

 俺に、そんなことできるわけがない。だけど、面と向かって言われて、肩を落としていると、キラフェール殿下が、ティウルに頭を下げた。

「すまない……それを持ち出したのは、私だ……」
「殿下……なぜ……」
「ティウル……私は、これがなくても、ティウルのことを……その……大切に思っている。ティウルとは、これがない状態で、ゆっくり話したいんだ…………その……今朝はすまない……感情的になってしまった……」
「殿下……」

 ティウルは驚いたようだったけど、すぐに微笑んだ。

「僕の方こそ、今朝は申し訳ございませんでした……僕も、殿下とお話がしたいです。こ、こんなもの、殿下には絶対に必要ありません!」

 ティウルは、魔法で取り出した箱に小瓶を全部入れて、蓋を閉めた。

 そして、ティウルの言葉を聞いて表情を明るくする殿下に、屈託のない笑顔を向ける。

「だってこれ、毒ですから」
「……え…………?」

 突然言われて、殿下は呆然としている。

 俺も驚いた。

 毒って……え……?

「て、ティウル……? そ、それ……惚れ薬じゃなかったのか……? だ、だって、俺に、これは惚れ薬だって…………」
「だって、そう言わなきゃ、フィーディが怯えちゃうだろ? 選んでもくれなかっただろうし……」
「……え………………あの……それ…………俺に選ばせようとしたのって………………まさか……」
「やだなー。そんな顔しないでよー。フィーディに飲ませようとしていたわけじゃないよ? ただ、貴族としての意見を聞きたかっただけ」
「……あ、ああ…………あ、あ……き、貴族っ……貴族としてっ……あ、あー……そうだよねー……ははは……」

 血の気がひいたまま、引き攣った顔で言う俺の前で、ティウルは殿下に振り向いて「殿下にも誤解させちゃって申し訳ございませんでした」って言ってる。殿下も、少しひいているようだけど、それでも笑顔で「いいんだ」って言ってた。

 これは、うまくいった……のか? やっぱり選択肢を間違えた気がする。俺だけずっと怖いんだが。
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