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後日談
82.誰も邪魔者だとは
しおりを挟むティウルの惚れ薬って、結局完成したのかな……以前ティウルの言う惚れ薬とやらを飲んだ男は、突然自分の体に魔法をかけてめちゃくちゃに切り裂いた後、しばらく倒れていたらしいが……
……やっぱりこれは、ティウルの手元にない方がいい。
全ての瓶を集め終わると、キラフェール殿下は、ため息をついて肩を落とした。
「……ティウル……以前取り上げたのに、まだ持っていたのか……」
「……」
「それで、貴様はなぜティウルとこんなものをテーブルに並べていたんだ? ティウルはどこへ行った?」
俺に振り向いた殿下は、ひどく鋭い目で俺を睨んでいた。
俺はビクッと大きく震えてしまう。
絶対すごく嫉妬されている……
「……えっ……えっと…………てぃ、ティウルは、その……厨房まで、お、お茶を淹れに行っています。この惚れ薬は、新しく作ったって言ってて……お、俺に選んで欲しかったみたいで……」
「選んでほしい!? なぜ貴様なんだ!! 飲んだのではないだろうな!? 貴様っ……ティウルに惚れたら処刑するぞ!!」
「惚れてませんっっ!!」
何でそうなるんだ。俺が、主人公くんを好きになるはずがないだろう!!
それなのに、殿下は俺に掴みかかってくる。それも、俺が震え上がりそうな形相で。
「ティウルに惚れてみろ……貴様を必ず殺してやる…………あれは、私の伴侶になる男だ」
「……ぞ、存じております……分かっています……」
俺が涙目で言うと、キラフェール殿下は手を離してくれた。
……惚れたら処刑って……この王子は、どれだけティウルに惚れてるんだ。
どうやら二人の仲は、非常にうまくいっているらしい。これなら必要以上に心配することはないだろう。
ホッとしたような、だいぶまだ怖いような……
バッドエンドは絶対に回避したいが、ティウルにも幸せになって欲しい。転生する前から、常に邪魔者扱いされてきた俺に、あんな風に話してくれる人は、ティウルが初めてだったんだ。
ティウルはキラフェール殿下に好意を抱いているようだし、殿下と幸せになってほしい。
殿下の方もティウルの虜になっているみたいだけど……ティウルに全然思いが通じていないせいで、すっかり拗らせてしまっているように見えるのは、気のせいだろうか。ついには怖い顔をして頭を抱えてしまっている。
「くそっ…………! ティウルっ……! なぜだっ……なぜ私でない男に惚れ薬などっ…………私はお前だけをっ……!」
「……あ……あ、あの…………お、王子殿下……」
「なんだ!? フィーディ・ヴィーフ! 私をせせら笑いたいのか!?」
「何でそうなるんですかっ!! あ、あの……そ、そんなに落ち込まなくても…………ティウルがこうしてこんなものを用意してるのも、今朝のことを気にしているから……みたいです。お、俺にそう言ってて…………」
「ティウルが……? 今朝のことは、私が悪かったんだ!! ティウルに非は全くない!」
「そ、それは、本人に言ってください!! ティウルは……本当にあなたを愛しています。俺の割って入る隙なんて、あるはずがありません! だ、だから、そ、その…………そにょっ……ど、どうか、自信を持ってください……」
恐る恐る俺が言うと、殿下は少し黙って、俺に背を向けた。
「ふ、ふん!! わ……分かっているではないか!! 公爵家からつまみ出された邪魔者の分際で!」
「………………」
確かにそうなんだけど……改めて言われると、少し胸が痛い…………別にいいけど……そんなこと、分かってたことだし……
ズキズキと痛み始めた胸を押さえていたら、殿下は俺に振り向いた。
「……お、おい……そんな顔をするな…………」
「え……?」
「わ、私は何も……貴様が邪魔者だと言ったわけではない」
「え……?」
「こ、ここでは誰も……貴様を邪魔者だとは思っていない……だから、そのっ……それでいいだろうっっ!! そんな顔をするんじゃない!!」
「は、はいっっ!! すみません!!」
なんで俺、怒られているんだ? やっぱりこの王子は苦手だ……
しかも、一方的に怒鳴ったかと思えば、今度は、部屋の端にあった棚の扉に手をかけている。
「ち、ちょっ……殿下!?? 何をしていらっしゃるんですか!?」
「貴様は惚れ薬の場所を知らないのだろう? 全て回収してから、私はティウルにもう一度、朝のことを詫びる!」
「ま、待ってくださいっ…………! そ、そんなところを勝手に開けたらダメです!!」
「あんなものがあっては、私は平穏にティウルと話ができないんだ! ここを開ければ、まだ惚れ薬があるかもしれない……!」
「お、落ち着いてっ…………」
「貴様は私が惚れ薬を飲まされてもいいのか?」
「それは……」
それは、もちろん絶対にダメだ。だけど、だからと言って、こんなこともダメだ!
だってこの棚の中には、ティウルが怪しげな魔法の本を詰め込んでるんだ。多分、惚れ薬とか媚薬とか、そういう魔法に関するもの。中には人を殺すような魔法に関するものもあったはず。ティウルに悪気はないし、殿下を傷つけるつもりも絶対にないんだけど、あんなの見られたらますます殿下が拗らせそう。
「で、殿下っ……!! どうか落ち着いてください!! こ、こんなこと、絶対に良くありません!! ティウルだって悲しむはずです!! ほ、惚れ薬の件なら、俺からティウルに言いますから!」
「貴様はそう言うが、なぜ貴様がそんなことをティウルに言うんだ!? 貴様が言えば、ティウルはやめるのか!? なぜ貴様の言うことなら、ティウルは聞くんだ!?? そんなに深い仲なのか!?」
「違います違います違います!! なんでそうなるんですか!!」
またさっきと同じ嫉妬をされている……やっぱり、俺だけじゃこの殿下は手に負えない!! さっきまでティウルと殿下を口説きに行こうと話していたのに、なぜこうなるんだ。ティウル! 戻ってきてくれ!!
…………というか、ティウル、帰りが遅くないか!?? ここから厨房までは、たいして離れていない。ティウルなら、魔法で飛べばすぐにつくはずだ。まさか、何かあったのか!?
「で、殿下!! ティウル、戻ってくるのが遅くありませんか!??」
「なに?」
「ちゅ、厨房に、お、お茶を取りに行ったにしては、遅いような気がして……あ、あの! む、迎えに行ったほうがいいんじゃ……」
「ティウルが……? 確かにそうだな……」
「で、殿下!! ティウルを探しに行きましょう!」
「なに?」
「ティウルは……あの、お、お茶を淹れに行っただけだから……厨房に行けば、会えるはずなんです!! あ、会いに行きましょう!!」
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