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後日談
80.信じてくれるんですか?
しおりを挟むティウル……まだ惚れ薬を諦めていなかったのか……
ゲームでは、ティウルが惚れ薬を使うようなことはない。天真爛漫でいつも優しいティウルは、攻略対象たちと愛を育んで、いずれ国の英雄になるんだ。
今のところ、ティウルは攻略対象の一人である王子と仲良くやっている。決して惚れ薬なんてものは必要ない。
それはいつも彼に言っていることなのに、まだ瓶を持って俺を追いかけてくるティウル。しかも、いくつか並んだ中で、一番毒々しい色の瓶を持って。主人公くんとは良好な関係を築きたいが、そんなものから一つを選ぶなんて、できるものか。怖いだろう!!
「お、落ち着いてくれっ……ティウル!! そ、そんなものがなくてもっ…………殿下は本当にティウルを愛してる!」
「そんなこと、何でフィーディに分かるの!? 今朝だって、殿下は僕の言うこと聞いてくれなかったし…………もう今すぐにでも惚れ薬を使わないとっ……!」
「ティウル……ほ、本当に、落ち着こう! 殿下は決して、ティウルを嫌ったりしていない! 本当だ! 俺から見たら、順調そのものだ!! 今からでも、普通に殿下を口説きにいこう!!」
「……今から?」
ティウルは、やっと俺を追いかけ回すのをやめて立ち止まる。
やった……も、もしかして、分かってくれた!??
「そ、そうだ! 今からだ!! な、なんなら、一緒に殿下に会いに行こう!!」
「うーーん…………」
ティウルは、少し考えて、顔を上げた。
「じゃあ、今から作戦会議しよう!」
「は!??」
「作戦会議だよ! そうだ!! フィーディに食べて欲しいお菓子があったんだ!! お茶もいるよね…………厨房に行って、もらってくるね!!」
「は!?? お、おいっ……!」
「少し待っててー!!」
そう言って、俺が止めるのも聞かず、ティウルは俺に手を振って廊下を走って行ってしまう。そして、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。
…………ティウル……今日も元気でよかったよ……
少なくとも、敵意は持たれていない。
い、今のうちに、この奇妙な薬を隠してしまおう。
俺が遠目で見ているだけでも、キラフェール殿下とティウルは、本当に仲がいいと思う。ティウルがこうして薬を並べるのはいつものことだが、こんなものがなくても、キラフェール殿下は、ティウルの後をずっと追っている気がする。バッドエンドなら嫉妬に狂ってティウルを塔に監禁するような王子だからな……たまにティウルが心配になるくらいだ。
こっそり、テーブルの上の小瓶を手に取る。
こ、これ……どうしよう…………今のうちに捨てるか? しかし、ティウルが一生懸命作ったものを勝手に捨てるのもな……だからと言って、これをここに置いておくわけにもっ……!
一人で並んだ瓶を前に悩んでいると、背後から、ドアをノックする音がした。
「ティウル……いるか? 私だ。キラフェールだ。ティウル?」
…………き、キラフェール殿下が来ちゃった…………
な、何で、こんなところに来るんだ!!??
あ、ここ、ティウルの部屋だ。ティウルに会いにきたのか……本当に、すごくうまくやってるじゃないか。よかったよかった。
…………いや……落ち着いてる場合じゃない!!
俺はどうするんだ! こんなところにいるのがバレたら、絶対にまたティウルをいじめに来たと誤解される!!
真っ青になっている間にも、ノックの音は続いている。
「ティウル……いないのか? ティウル……け、今朝のことだが……正式に詫びたい。私は……その…………お前を傷つけるつもりは決してなかった!! ティウル! 頼む! 開けてくれ!!」
ど、どうしよう……殿下の声は、ひどく切羽詰まっているようだ。け、喧嘩したのか!? ティウルはそんな風には見えなかったけど……だけど、今朝言うことを聞いてくれなかった、とか言ってたな……今朝のデートで何かあったのか!??
どうしよう……
放っておいていいとは思えない。
だけど、今ドアを開けたら、絶対に何でここにいるんだって言われる!! ティウルの部屋にティウルの留守中に勝手に侵入したなんて誤解されたら、今度こそ断罪かもしれない。
それでなくても、俺は、キラフェール殿下には、めちゃくちゃ嫌われている。俺のことを、反逆を企む逆賊だと思ってるみたいだし……
頭を抱えている間も、殿下はずっと、ドアを叩いている。もう、どうしていいのか分からない。
ドアを開ける? それとも、開けない?
くそっ……! 主人公の選択肢なら、全部覚えているのにっ……! 悪役の選択肢なんて知らないっ!! どうすればいいんだ!
「ティウル……? いないのか?」
できればこのままやり過ごしたい……主人公くんとその攻略対象なんて、俺が絶対に近づいてはならない人物たちだ。
だけど……殿下の声はひどく悲しそうだ……ティウルと喧嘩したことを気に病んでいるのか? ティウルはそんな風じゃなかったのに。彼は本当に、王子殿下のことが好きなのに。
「……ティウル……やはり、怒っているのか……」
違います! ティウルじゃなくて俺がいるだけなんです!
それなのに、今ドアを開けなかったら、殿下とティウルがすれ違ってしまうかもしれない。
ティウルと殿下がうまくいかなくなるなんて、俺だって嫌だ。
意を決して、俺は、こっそりドアを開けた。
すると、殿下は部屋の主が開けたと思ったらしく、俺の両腕を掴んで、飛びついてくる。
「ティウルっ……! よ、よかった……私だ!!」
「あ、あの…………殿下……すみません。俺です」
恐る恐る言うと、殿下はパッと手を離して飛び退く。
「フィーディ・ヴィーフっ……!! 貴様っ……! ここで何をしている!? ここはティウルの部屋だぞ!!」
「し、知ってます……えっと……」
「貴様……さては、ティウルの部屋から盗みを働こうとしていたな!?」
「ち、違うっ……! 違う違う違う!! まっったく違います!! お、俺は、ただ、てぃ、ティウルに呼ばれてここにいるだけです!! ぬ、ぬ、盗みなんて、そ、そんなこと、するわけないじゃないですか!!」
慌てて首を横に振って否定する俺を、殿下はじっと睨んでいる。
すごく疑われている……俺は何もしていないのに!!
それなのに、キラフェール殿下は、俺がたくさん抱えている小さな瓶を指差して言った。
「それはなんだ?」
「へ!? あ……」
まずい……さっき隠そうとした惚れ薬の瓶、持ったままだった。
こ、これ、どう見ても盗みの現場に見えちゃうんじゃないか!? 王子の意中の人から惚れ薬を大量に盗み出そうとした罪で断罪……そんな最後は嫌だーー!!
「ほ、本当に違うんですっっ!! 信じてくださいっっ! こ、これは、た、確かにティウルが用意したものですが……俺はそのっ……ティウルがこんな薬を使わなくても、殿下はティウルを愛してるって伝えたかっただけなんです!!」
涙目で言うと、王子はしばらく俺の方を睨んでいたけど、やがて目を離す。
「……だったら早くその薬を処分するぞ……」
「え…………?」
「どうした? ティウルがそんなものを持っていては、私も困る……早く隠すぞ」
「は、はいっ……あのっ……!」
「どうした?」
「え……えっと…………し、信じて……くれるんですか?」
「……貴様のことを信じるわけではない。ただ、ティウルはいつもそんなものを持っていて、貴様は必死に止めているだろう。ティウルがそんなものを持っていては、私が一番困るというだけだ」
「…………だ、断罪は……し、しない……んですか……?」
「……貴様はしょっちゅうそんなことを言っているが、そんなに断罪されるようなことをしているのか?」
「してません!!」
何度も何度も首を横に振る。頭がくらくらして、眩暈がしそうだった。
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